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第12章 洗脳
第3話(5)
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「生きた人間は無差別に殺すよう設定されている」
すぐ背後からのケネスの説明に、シリルの注意が逸れた。そのタイミングでケネスは命じた。
「クラヴィス、来い」
刹那、それまでシリルの傍らで微動だにしなかったリュークが動いた。シリルの両目を狙って2本の指が迫る。突きこまれる寸前で、シリルは咄嗟に躰ごと捩って攻撃を躱した。その隙を衝いてシリルの腕から逃れたリュークは、素早く身を翻した。
「リュークッ」
奥の操作卓まで移動していたケネスが、シリルを見据えたままボタンを押す。中央制御室内に非常ベルが鳴り響くとともに、ケネス及びその傍らにたどり着いたリュークとこちら側とを隔てる壁となって、クリスタル合板の透過シャッターが降りた。
「リューク!」
シリルの呼び声に、ガラス玉のような瞳はやはり反応しない。
【利用できるものは利用し尽くす。シリル・ヴァーノン、どうせならば、おまえも使わせてもらおう】
シャッター越しに、ケネスは専用スピーカーを通じて告げた。
「なにっ!?」
【あのユリウスのことだ。『鍵』の中にある仕掛けは、おそらくもっともおまえに反応しやすく造られているはずだ。おまえがヒューマノイドを相手に死闘を繰り広げ、生命の危機に曝されることにより、おそらく必ずや、『鍵』は手に入るだろう】
ケネスは嗤った。
【いま私が押したのは、天然水を管理するための専用システムの非常ボタン。このシャッターを開けるためには、『王の承認』が必要となる】
背後で、凄まじい絶叫があがった。1体のヒューマノイドに捕らえられたハロネンが、素手で手足の関節をあらぬ方向にねじ曲げられていくところだった。すぐそばには、マティアスが凍りついたように立ち尽くしている。
「マティアス、来いっ!」
シリルは大声で呼ばわった。その声にハッと我に返った巨漢が、あわててシリルの許へ走る。そのマティアスを次なる獲物と定めて攻撃を仕掛けようとした2体のヒューマノイドを、シリルとオクデラ、双方が狙撃して援護した。
【ここまで来れば、もうあとがない。私は大きな賭に出たのだ。シリル・ヴァーノン、おまえがヒューマノイドに嬲り殺しにされるのが先が、ユリウスの創った人形が、私のために『鍵』を差し出して玉座へと導くのが先か】
『鍵』が手に入るまえにシリルが死ねば、ケネスもまた、リュークとともに狭い空間に閉じこめられたまま出られないことになる。この場に駆けつけ、救出する者があるとすれば、それは政府の関係者らにほかならない。それはすなわち、ケネス自身の破滅をも意味した。
「貴様、正気かっ」
首がおかしな方向に折れ曲がったハロネンの躰を、戦闘用ヒューマノイドは残酷に弄ぶ。その頭を撃ち抜きつつ怒声を放ったシリルに、正気ならば王位など狙わないとケネスはせせら笑った。
【私はとうの昔に正気など捨てた。狂ったこの世界で生きるなら、正気であることは邪魔にしかならない】
父を殺され、母を殺され、妹を殺されたときに、正気も良心も優しさも、すべて捨てた。
天然水の利権を独占する、『王』という害悪を斃すために――
すぐ背後からのケネスの説明に、シリルの注意が逸れた。そのタイミングでケネスは命じた。
「クラヴィス、来い」
刹那、それまでシリルの傍らで微動だにしなかったリュークが動いた。シリルの両目を狙って2本の指が迫る。突きこまれる寸前で、シリルは咄嗟に躰ごと捩って攻撃を躱した。その隙を衝いてシリルの腕から逃れたリュークは、素早く身を翻した。
「リュークッ」
奥の操作卓まで移動していたケネスが、シリルを見据えたままボタンを押す。中央制御室内に非常ベルが鳴り響くとともに、ケネス及びその傍らにたどり着いたリュークとこちら側とを隔てる壁となって、クリスタル合板の透過シャッターが降りた。
「リューク!」
シリルの呼び声に、ガラス玉のような瞳はやはり反応しない。
【利用できるものは利用し尽くす。シリル・ヴァーノン、どうせならば、おまえも使わせてもらおう】
シャッター越しに、ケネスは専用スピーカーを通じて告げた。
「なにっ!?」
【あのユリウスのことだ。『鍵』の中にある仕掛けは、おそらくもっともおまえに反応しやすく造られているはずだ。おまえがヒューマノイドを相手に死闘を繰り広げ、生命の危機に曝されることにより、おそらく必ずや、『鍵』は手に入るだろう】
ケネスは嗤った。
【いま私が押したのは、天然水を管理するための専用システムの非常ボタン。このシャッターを開けるためには、『王の承認』が必要となる】
背後で、凄まじい絶叫があがった。1体のヒューマノイドに捕らえられたハロネンが、素手で手足の関節をあらぬ方向にねじ曲げられていくところだった。すぐそばには、マティアスが凍りついたように立ち尽くしている。
「マティアス、来いっ!」
シリルは大声で呼ばわった。その声にハッと我に返った巨漢が、あわててシリルの許へ走る。そのマティアスを次なる獲物と定めて攻撃を仕掛けようとした2体のヒューマノイドを、シリルとオクデラ、双方が狙撃して援護した。
【ここまで来れば、もうあとがない。私は大きな賭に出たのだ。シリル・ヴァーノン、おまえがヒューマノイドに嬲り殺しにされるのが先が、ユリウスの創った人形が、私のために『鍵』を差し出して玉座へと導くのが先か】
『鍵』が手に入るまえにシリルが死ねば、ケネスもまた、リュークとともに狭い空間に閉じこめられたまま出られないことになる。この場に駆けつけ、救出する者があるとすれば、それは政府の関係者らにほかならない。それはすなわち、ケネス自身の破滅をも意味した。
「貴様、正気かっ」
首がおかしな方向に折れ曲がったハロネンの躰を、戦闘用ヒューマノイドは残酷に弄ぶ。その頭を撃ち抜きつつ怒声を放ったシリルに、正気ならば王位など狙わないとケネスはせせら笑った。
【私はとうの昔に正気など捨てた。狂ったこの世界で生きるなら、正気であることは邪魔にしかならない】
父を殺され、母を殺され、妹を殺されたときに、正気も良心も優しさも、すべて捨てた。
天然水の利権を独占する、『王』という害悪を斃すために――
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