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第12章 洗脳

第1話(1)

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 手術台に載せて処置を施すまでわずか15分。
 専用のチップを脳に埋めこんだ後、遠隔操作で電気信号を送り、あらかじめ設定していた周波数で刺激を送ることによって意のままに操ることができるようになる。トータルでも30分程度で済む、ごく簡単な手術だった。

 これでようやく、夢が叶う――

 別室で手術の様子を見守っていたケネスは、深い感慨をもって己に言い聞かせた。
 目覚めたとき、あれほどまでに自分を拒みとおした機械人形は、今度こそ自分だけを見つめ、自分の言葉だけに従順に従う手駒となるのだ。
 自分が座るに相応ふさわしい、玉座への道を示せ。そう命じたならば、迷うことなく己の裡に隠された『鍵』を差し出すことだろう。


『ジルベルト、どうかお考えをおあらためください。なんという恐ろしいことを仰るのです』


 自分を非難し、すべてを否定するように顰められた眉宇。
 まるで理解できなかった。国を治めるわけでなく、ただ、ローレンシアという国家の象徴として玉座にあり、王家の威信を楯に、汚染されたこの世界でもっとも貴重な資源である天然水を専有する飾り物の王。国を繁栄させ、民の生活をより豊かに潤すためには、そんな飾り物などではなく、真に民を率い、王国を統治する能力を有する者こそが頂点に立たなければならない。民が潤い、国家の財政が潤えば、なおも砂漠化が進む汚染された土壌を、緑溢れる清浄な大地へと蘇らせることも可能となるだろう。そう考えることの、いったいなにが誤りだというのか。恐ろしいと否定され、嫌悪の目を向けられる理由が理解できなかった。

 ユリウス――あれほどに秀絶した才に恵まれながら、『国王』という創られた偶像を盲信した愚か者。特別に目をかけられたことをもって見事にその心を奪われ、聖なる存在として先王のみに忠誠を誓った。
 その誠実さのほんの一部でもかまわない。自分に傾け、慈悲を示してくれたなら、自分もまた違う道を選んでいたかもしれない。


『なぜそんな恐ろしいことをお考えになるのです。あなたは間違っています』

 ユリウス、間違っているのは私か? この国の在りかたでないのか?


 どれほど問うても、玲瓏れいろうたる美貌には失意と拒絶しか浮かばなかった。
 恵まれて育った者には所詮解らない。そんな、深い溝を感じた。

 貧しい家に生まれた。水源に恵まれないタレンヤという農業都市は、街全体が貧困に喘いでいるような、敗北者の集まる惨めな土地柄だった。小麦やナツメヤシ、綿花。品種改良が加えられ、水をほぼ必要としない農作物の栽培に従事した父母も、働きづめの毎日を送っていた。けれど、生活はいっこうに楽にはならなかった。
 家が貧しいことを、それでもケネスは不幸だと思ったことはなかった。父も母も充分な愛情を注いでくれたし、家族がそろえば自然に笑顔が零れる。そんな家庭だった。だが、貧しさの中の幸福は、長くはつづかなかった。
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