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第11章 心の在処

第2話(5)

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「私ほどの人間が、たかだか一介の役人の座におさまって名ばかりの王に膝を屈すること自体が間違っている。そうは思わないか?」

 強い執着が窺える粘着質な眼差しを向けられ、リュークは無言で睨み返した。敵愾心てきがいしんも露わなその反応を、王室管理局の長は満足げに眺めた。

「おまえのその目つき、たしかにユリウスにはなかった、おまえならではの個性があるようだ。ユリウスは、好ましくない言動に対して眉を顰めることしかしなかった。おまえのその率直さは、経験不足からくる幼さゆえなのか、あるいはおまえに人格や意思などという誤った認識を植えつけた愚かな運び屋の影響なのか」

 独語するように呟いたあとで、薄い口唇がニタリと嗤った。

「まあいい。どちらにせよ先程も言ったとおり、おまえはなにも案ずることはない。すべてを私に委ねさえすれば、真の安寧と正しき主を得ることができる。おまえが考えることなどなにもないのだ。ただ、私の命令に従いさえすればいい。正しい道へ、私が導いてやろう」

 リュークの腕をとる男たちの手に力が籠もる。

「……っ、やめっ……放してくださいっ!」
「大丈夫だ、すぐ楽になれる。あの碌でもない運び屋の記憶も、キレイさっぱり消し去ってやろう」

 連れていけ。ケネスの命令に従って、男たちはリュークをあらかじめ指示されていた場所へ連行しようと引きずっていった。

「ひでえことすんなあ。お人形さんの人格は認めねえよ、ってか?」

 黙ってなりゆきを見ていたラーザのとぼけた呟きが、リュークの耳にも届いた。
 ここにいるだれもが自分を道具としてしか見ていない。リュークはあらためて思い知った。

 研究所でも、暴力をふるわれることはなかったが、扱われかたは大差なかった。自分にさまざまなことを教え、メンテナンスをしてきた研究者のだれもが事務的で、犬猫以上に心を通わせることのないやりとりしかしてこなかった。
 火傷を負った自分を、食事を中断してまで怒りながら手当てし、薬を飲ませ、躰を気遣ったのは彼だけだった。

 きちんと食事をしろ。眠れ。躰を休めろ。調子が悪いなら我慢をしなくていい。物事をデータや数値として分析するのではなく、もっと素直に、心で感じることをおぼえてその感覚を大切にしろ。

 好き、嫌い。嬉しい、悲しい。怖い、楽しい。寂しい――傍に、いたい……。


『リューク、おまえさ、笑えよ』


 彼の声が脳裡に甦る。

 ――シリル……!

 自分の心に刻まれた唯一の存在を想って、リュークは目を閉じた。
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