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第11章 心の在処
第2話(4)
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「いやもう、引き剥がして連れてくるのにエライ苦労したぜ。切ないくらいに可愛い泣き声あげて、とにかく暴れまくってよ。奴の名前連呼しまくりで、さすがの俺も良心が咎めちまったなあ」
ケネスの瞳に、兇猛な怒りが膨れ上がった。
――ユリウスッ、一度ならず二度までも……っ。
「あ……」
凄絶な光を宿した琥珀の瞳に見据えられ、リュークは怯えた表情で倒れた位置からずり下がろうとした。大股で近づいたケネスの手が、その腕を乱暴に掴んで引きずり寄せた。
「あっ!」
先程よりさらにひどく、後ろ手に縛られた腕が肩の関節ごと不自然な方向に圧を加えられる。咄嗟のことに痛覚を遮断させる切り替えが間に合わず、違えた筋が体内で悲鳴をあげた。血の気の失せた美貌に苦痛が浮かぶ。しかし、ケネスは頓着しなかった。
「おまえごときが思い上がるなっ。おまえに人を選べる権利があるとでも? しかもおまえの言う『心』とやらを寄せている相手が、あんな下賤の輩とはな。血筋などなんの関係がある。所詮、孤児院上がりの運び屋風情ではないか。笑わせるな。そんな男を、たかがひと月かそこらともに過ごしただけで親か主とでも誤認したか」
吐き捨てたケネスは、肩越しに後背を見やって合図した。部屋の片隅に控えていた秘書官のハロネンが、護衛とおぼしき屈強な男たちを従えて進み出てくる。
「いいか、勘違いをするな。私はおまえに、『意思』などというものを求めてはいない。おまえはただ、私に従順でありさえすればいいのだ。余計な知恵などつけられたばかりに、それができないというのなら、従順になるよう設定しなおせばいいだけのこと。準備はすでに整っている」
ハロネンの背後から進み出た2名の男たちがリュークの両サイドについた。
「なに、痛い思いはさせない。おまえはただ、ほんの少し眠っていればいいだけのこと。目覚めたとき、真の主がだれかを正しく認識できるようになっているだろう」
ケネスの言葉が終わるとともに、両サイドの男たちがケネスにかわって後ろ手に縛られたままの腕をとった。リュークは懸命にその手から逃れようと身を捩って抵抗した。だが、精一杯の抵抗も、男たちにはなんら通用しなかった。
覆い尽くされた無表情。命令を待って前方だけを見据える直立不動の姿勢。自分などより、よほど機械めいたその様子に、リュークは背筋を凍らせた。
ようやく手に入れた『鍵』のそんな人間じみた反応を見て、ケネスは冷笑を浮かべた。
「案ずることはない。天然水の利権を正しく国のために使える者こそが、玉座を得るに相応しい。そんなことはだれの目にもあきらかだ。では、その運用を任されているのはだれか」
そこで言葉を区切ってケネスはふたたびリュークの顎をとらえ、自分のほうを向かせた。
そうだ。天然水の利権にもっとも近いこの地位を得るために、自分はユリウス亡きあとも、ひたすらがむしゃらに走りつづけてきた。その目標をようやく達成したいま、その先にあるのは――
ケネスの瞳に、兇猛な怒りが膨れ上がった。
――ユリウスッ、一度ならず二度までも……っ。
「あ……」
凄絶な光を宿した琥珀の瞳に見据えられ、リュークは怯えた表情で倒れた位置からずり下がろうとした。大股で近づいたケネスの手が、その腕を乱暴に掴んで引きずり寄せた。
「あっ!」
先程よりさらにひどく、後ろ手に縛られた腕が肩の関節ごと不自然な方向に圧を加えられる。咄嗟のことに痛覚を遮断させる切り替えが間に合わず、違えた筋が体内で悲鳴をあげた。血の気の失せた美貌に苦痛が浮かぶ。しかし、ケネスは頓着しなかった。
「おまえごときが思い上がるなっ。おまえに人を選べる権利があるとでも? しかもおまえの言う『心』とやらを寄せている相手が、あんな下賤の輩とはな。血筋などなんの関係がある。所詮、孤児院上がりの運び屋風情ではないか。笑わせるな。そんな男を、たかがひと月かそこらともに過ごしただけで親か主とでも誤認したか」
吐き捨てたケネスは、肩越しに後背を見やって合図した。部屋の片隅に控えていた秘書官のハロネンが、護衛とおぼしき屈強な男たちを従えて進み出てくる。
「いいか、勘違いをするな。私はおまえに、『意思』などというものを求めてはいない。おまえはただ、私に従順でありさえすればいいのだ。余計な知恵などつけられたばかりに、それができないというのなら、従順になるよう設定しなおせばいいだけのこと。準備はすでに整っている」
ハロネンの背後から進み出た2名の男たちがリュークの両サイドについた。
「なに、痛い思いはさせない。おまえはただ、ほんの少し眠っていればいいだけのこと。目覚めたとき、真の主がだれかを正しく認識できるようになっているだろう」
ケネスの言葉が終わるとともに、両サイドの男たちがケネスにかわって後ろ手に縛られたままの腕をとった。リュークは懸命にその手から逃れようと身を捩って抵抗した。だが、精一杯の抵抗も、男たちにはなんら通用しなかった。
覆い尽くされた無表情。命令を待って前方だけを見据える直立不動の姿勢。自分などより、よほど機械めいたその様子に、リュークは背筋を凍らせた。
ようやく手に入れた『鍵』のそんな人間じみた反応を見て、ケネスは冷笑を浮かべた。
「案ずることはない。天然水の利権を正しく国のために使える者こそが、玉座を得るに相応しい。そんなことはだれの目にもあきらかだ。では、その運用を任されているのはだれか」
そこで言葉を区切ってケネスはふたたびリュークの顎をとらえ、自分のほうを向かせた。
そうだ。天然水の利権にもっとも近いこの地位を得るために、自分はユリウス亡きあとも、ひたすらがむしゃらに走りつづけてきた。その目標をようやく達成したいま、その先にあるのは――
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