セイクリッド・レガリア～熱砂の王国～

第11章 心の在処

第１話

「そうですか。そのように仰せに……」

　科学開発技術省長官、ハン・イェジュンから報告を受けた王室府侍従長ベルンシュタインは、諦念の滲む声で呟いた。

「ご不快に思われるのも無理もないことです。なにもご存じないまま、今日までご自身のお力だけを頼りに生きてこられたのですから」
「ですが侍従長、このままというわけには参りますまい」

　懸念の色を隠せぬハンに、ベルンシュタインは小さくかぶりを振った。

「焦りは禁物です、ハン長官。限られた情報の中から、これほど正確に真実を見抜かれるほどの聡明な御方です。理を説いてご説明申し上げれば、きっとご理解いただけるはず。いまはただ、奪われた『鍵』を取り戻すことを最優先として、あの方のお力になれるよう、我々も最善を尽くしましょう」

　侍従長の言葉に、ハンもまた、通信画面の向こうで苦渋の色を浮かべながらも頷いた。

「わかりました。まもなく王都入りされるようですので、こちらも相応の誠意を尽くして対応にあたりたいと思います。あらためてお迎え申し上げるのは、それからということで」

　大変なときに連絡を入れたことを詫びたハンは、早々に通話を切って画面から姿を消した。
　午前６時。国王崩御から一夜が明けた。これから、最大の戦いがはじまろうとしている。

　――イアン先王陛下、どうぞご子息をお守りください。王国の未来に、光あらんことを……。

　ベルンシュタインは、胸の裡で祈りを捧げた。