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第10章 秘密
第2話(4)
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「いいもん見せてくれてありがとよ。最高の見世物だったぜ。おまえを奪われたときのあの野郎の顔!」
思い出しただけでも笑いが止まらない。愉快で堪らなさそうにラーザは言った。
「お人形さんってのは、案外役に立つもんなんだなぁ。てっきりいたぶり甲斐もない木偶だとばっか思ってたらよ、あんな情感たっぷりに懐いた相手の名前連呼して取り縋ろうとするんだからよ。そりゃ、おまえみてえな見るからにかよわそうなのに、あんな必死で可愛い泣き声あげられちゃ、悪ィ気はしねえよなあ?」
だからこその愁嘆場。言われて、リュークは意識を失う直前のシリルの様子を思い出し、血の気の失せた顔で操縦席の男を見やった。
ひどい怪我を負って、3日も意識が戻らなかった。ようやく体内の毒素を排出して目を覚まし、それでもしばらくは安静が必要な躰だった。それなのに彼は、自分のことばかりを気遣っていた。
あたたかな手。穏やかな呼び声。
『リューク』
彼が付けてくれた呼び名を、その声で呼ばれるのが好きだった。
『好き』という感情がどういうものであるのかを、彼が教えてくれた。自分で考え、自分の意志で判断して行動することを、彼が教えてくれた。その彼に重傷を負わせ、さらには自分が敵に囚われてしまったことで、よりひどい状態へと追いこんでしまった。
人間ではない自分を護るために、重傷を負った身でさらに痛めつけられ、最後には己を庇って銃で撃たれた。
その情景をまざまざと脳裡に甦らせたリュークの口唇が、かすかに戦慄く。それを見取った男は、満足げに口の端を吊り上げた。
「安心しろよ、とどめは刺しちゃいねえからよ」
心の裡を読み取ったかのように、男はその答えを正確に投げ返した。
「あれであっさり終止符打っちまったんじゃ、味気なさすぎんだろ? 一応そこそこボロ雑巾みたいにはしてやったけどよ、あんなんじゃ全然、いたぶりが足んねえよなあ?」
言って、薄い口唇をベロリと舐める。
「ま、俺もまだ全然遊び足んねえし? どうせならもっと、とことんまで引き裂いてやんねえと気がすまねえからよ。とりあえずあの場に無様に転がったまま、置き去りにしてきてやったぜ。しぶてぇから、あれでくたばるってこたねえだろ。それどころか、もうとっくに追っかけてきてるかもしんねえなあ」
その言葉に思わずビクッとした人質を見て、ラーザは残忍な笑みを浮かべた。
「おまえ、言っとくけど自棄になんなよ?」
操縦桿を握っていた手を不意に伸ばして、男は細い顎を掴むと乱暴に自分のほうを向かせた。
「自分があいつの足枷になんねえようにとか、余計な気ィまわして舌でも噛もうもんなら、俺ァこのままあいつんとこまで引き返して、その場で撃ち落としてやるからな?」
脅しではない。その目を見て、リュークはゾッとした。自分が少しでもおかしな真似をすれば、この男は間違いなく言ったことを実行に移すだろう。
蒼白の顔面を、リュークはさらに硬張らせた。そのさまを見て、ラーザは満足げにニタリと嗤った。
思い出しただけでも笑いが止まらない。愉快で堪らなさそうにラーザは言った。
「お人形さんってのは、案外役に立つもんなんだなぁ。てっきりいたぶり甲斐もない木偶だとばっか思ってたらよ、あんな情感たっぷりに懐いた相手の名前連呼して取り縋ろうとするんだからよ。そりゃ、おまえみてえな見るからにかよわそうなのに、あんな必死で可愛い泣き声あげられちゃ、悪ィ気はしねえよなあ?」
だからこその愁嘆場。言われて、リュークは意識を失う直前のシリルの様子を思い出し、血の気の失せた顔で操縦席の男を見やった。
ひどい怪我を負って、3日も意識が戻らなかった。ようやく体内の毒素を排出して目を覚まし、それでもしばらくは安静が必要な躰だった。それなのに彼は、自分のことばかりを気遣っていた。
あたたかな手。穏やかな呼び声。
『リューク』
彼が付けてくれた呼び名を、その声で呼ばれるのが好きだった。
『好き』という感情がどういうものであるのかを、彼が教えてくれた。自分で考え、自分の意志で判断して行動することを、彼が教えてくれた。その彼に重傷を負わせ、さらには自分が敵に囚われてしまったことで、よりひどい状態へと追いこんでしまった。
人間ではない自分を護るために、重傷を負った身でさらに痛めつけられ、最後には己を庇って銃で撃たれた。
その情景をまざまざと脳裡に甦らせたリュークの口唇が、かすかに戦慄く。それを見取った男は、満足げに口の端を吊り上げた。
「安心しろよ、とどめは刺しちゃいねえからよ」
心の裡を読み取ったかのように、男はその答えを正確に投げ返した。
「あれであっさり終止符打っちまったんじゃ、味気なさすぎんだろ? 一応そこそこボロ雑巾みたいにはしてやったけどよ、あんなんじゃ全然、いたぶりが足んねえよなあ?」
言って、薄い口唇をベロリと舐める。
「ま、俺もまだ全然遊び足んねえし? どうせならもっと、とことんまで引き裂いてやんねえと気がすまねえからよ。とりあえずあの場に無様に転がったまま、置き去りにしてきてやったぜ。しぶてぇから、あれでくたばるってこたねえだろ。それどころか、もうとっくに追っかけてきてるかもしんねえなあ」
その言葉に思わずビクッとした人質を見て、ラーザは残忍な笑みを浮かべた。
「おまえ、言っとくけど自棄になんなよ?」
操縦桿を握っていた手を不意に伸ばして、男は細い顎を掴むと乱暴に自分のほうを向かせた。
「自分があいつの足枷になんねえようにとか、余計な気ィまわして舌でも噛もうもんなら、俺ァこのままあいつんとこまで引き返して、その場で撃ち落としてやるからな?」
脅しではない。その目を見て、リュークはゾッとした。自分が少しでもおかしな真似をすれば、この男は間違いなく言ったことを実行に移すだろう。
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