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第8章 急襲

第3話(4)

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「ぐっ……!」
「下品なことほざいてんじゃねえよ。隊にいたときゃ、ろくすっぽ口も利かなかったくせしやがって」

 大きく息を喘がせながらもシリルは言い放った。そのままさらに腕の力を強めつつ、ノエラに向きなおった。

「こいつの首をこのままへし折られたくなきゃ、リュークを放せ」

 女は無表情にシリルを見返す。だが、シリルが無言で腕の力を強め、ラーザの顔色が変色していくのを見ると、ひと言も発することなく捕らえていたヒューマノイドを手放した。

「シリル……ッ!」
「伏せろっ!!」

 自分の許へ走ってこようとするリュークに向かってシリルは鋭く叫んだ。無防備な背中を、ノエラの構えた銃口が狙う。ラーザを放し、勢いよく地を蹴ったシリルは、自分に向かって走ってきたリュークの腕を引き寄せると力いっぱい真横に飛んだ。

 あたりに響く1発の銃声。

 リュークを抱きこむようにして地面に転がったシリルは、すぐさま視線をめぐらせ、銃声が響いた方角を見やった。その先で、女もまた地面に倒れ伏していた。先程撃たれてイーグルのわきに昏倒していたマティアスが、咄嗟に力を振り絞ってノエラにタックルしたところだった。

 己よりひとまわり以上も体格差のある巨漢に弾き飛ばされたにもかかわらず、ノエラの無表情は変わらない。悲鳴ひとつあげるでなく、苦痛をおもてに浮かべるでもなく起き上がると、地面に転がったままのマティアスの頭に銃口を向けた。
 撃鉄を起こし、引き金にかけた指に力をこめる瞬間にも、冷酷な無表情が変化することはなかった。その銃を、シリルはホルダーから引き抜いた己の銃で弾き飛ばした。
 反動でよろけたノエラが、衝撃を受けた手首を押さえながら振り返る。シリルはその目を見据えたまま、ゆっくりと身を起こした。腹部に力が入ることで、開いた傷口から鮮血が溢れ、激しい痛みに襲われる。その躰を、傍らにいたリュークが支えた。

 無理を押しても、今夜のうちに場所を移動しておくべきだった。思ったところで、いまさらはじまらない。おそらく移動したとしても、ラーザには意味がなかっただろう。
 3日前に急襲を受けた際、追撃を阻止するために反撃はしたものの、ほんのわずか、足止めをする程度にしかならないことはわかっていた。あの程度の攻撃でラーザがやられるはずもないことも、充分承知のうえだった。

 この場所が、あれからいくらもせずにつきとめられていたことは間違いない。それでもラーザがすぐに手を出さなかったのは、シリルが息を吹き返すときを待っていた。それだけのことにすぎなかった。自分の手でシリルを痛めつけ、叩きのめすために。
 そのラーザが、激しく咳きこみながら起き上がる気配がした。

「てっ、め……、よくも……っ」

 対峙しているノエラもまた、臨戦態勢を整え、押さえていた手首のリストホルダーからチェーンを引き抜いた。自分を支えて立つリュークの肩を抱くシリルの手に、力が籠もる。ノエラがチェーンを構え、スッと身を屈めた瞬間、腕の中にいたリュークがシリルから離れた。
 チェーンを振りかぶるノエラの腕めがけて、シリルの構えた銃が火を噴く。その隙を衝いてシリルに襲いかかろうとしたラーザに、リュークが飛びついていた。
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