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第8章 急襲
第1話(2)
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マティアスはタイミングよくと言おうか悪くと言おうか、なにも知らずにデータを届けにやってきて、そのまま今日まで付き合う羽目になった――正確には、とてもそのまま捨て置くことができず、自主的に居残った――ということらしかった。
「いやあ、はじめはエラい警戒されちまって大変だったんですわ」
マティアスはそう言って、バツが悪そうに頭を掻いた。もともとの顔相の悪さに加えて前科があるのだから当然だろう。
「ただ、嬢ちゃんも相当切羽詰まってたみてえで、事情説明して敵じゃねえってわかるなり、シリルの兄ィを見ててくれっつって」
マティアスがシリルのイーグルワンより数ランクほど下の空陸両用機、ブラック・バードに乗ってきたとわかるや否や、リュークはすぐに戻るから貸してくれと、マティアスの返事も待たずに飛び乗ったという。そのうえで、もし機体を破損させるようなことがあったら修理代は自分の躰で払うと言い放ち、止めるまもなくエアカー仕様に切り替えると飛び去っていった。
それを聞いたシリルは愕然とした。
「……そだろ。あいつ、操縦……」
「それが、あとで聞いて危うく腰抜かすところでしたわ」
マティアスは心底恐ろしそうな様子で己の逞しい両腕を抱きしめると、ブルブルと身震いした。
マティアスにあとのことを託して消えたリュークは、1時間半ほどで戻ってきた。
後部座席からいろいろ取り出すリュークにどこに行っていたのか尋ねると、最寄りの都市、リマまで行っていたという。テントやエアマット、治療に必要な医療器具や薬剤など、時間的にも閉まっている店が多い中、片っ端から無理やり開けさせて買いそろえてきたということだった。
見かけによらず押しの強いところがあると驚いたのも束の間、山賊のような風体の巨漢は、さらに喫驚することとなる。もし借りた機体に不具合などが生じるようなことがあった場合は、後日修理費を支払うので言ってほしい。出発前にもおなじことを言っていたリュークがふたたびそう口にしたため、その理由を尋ねたマティアスは、危うくその場で卒倒しそうになった。肝が冷えたなどというものではない。それもそのはず。おとなしやかな麗人は、操縦資格もなければ操縦自体も今回が生まれてはじめての経験であったという。にもかかわらず、見知らぬ場所をエアカーとはいえ、夜間に飛行したというのだからムチャクチャもいいところである。
操縦方法についてはシリルの見よう見まねだったということで、ジェット機であればひとっ飛びであったところをエアカーにしたのも、そういう理由であったらしい。
「可愛い貌して、とんでもねえムチャやらかしまさあ」
思い出しただけでゾッとする。マティアスの腕には、本当に鳥肌が立っていた。
「悪い。迷惑かけたな」
リュークがムチャをした原因が自分にあるため、シリルは思いのほか無鉄砲なヒューマノイドにかわって謝罪の言葉を口にした。
「いや、とんでもねえ。止めらんなかったオレの責任でさあ」
「機体は無事か?」
なにごともなくてよかったと胸を撫で下ろす巨漢に、シリルは尋ねた。マティアスはそれに対して「おかげさまで」と応じた。
「見かけによらず、たいした度胸ですよ。ま、それだけ必死だったってことなんでしょうけどね」
言って、人相の悪い巨漢はシリルの背後にあるテントを見やった。その奥では、意識を失ったリュークがいまも眠っている。自分のかわりに倒れたリュークをマットに寝かせたシリルは、テントの外に出て、くわしい経緯をマティアスに聞いているところだった。
「いやあ、はじめはエラい警戒されちまって大変だったんですわ」
マティアスはそう言って、バツが悪そうに頭を掻いた。もともとの顔相の悪さに加えて前科があるのだから当然だろう。
「ただ、嬢ちゃんも相当切羽詰まってたみてえで、事情説明して敵じゃねえってわかるなり、シリルの兄ィを見ててくれっつって」
マティアスがシリルのイーグルワンより数ランクほど下の空陸両用機、ブラック・バードに乗ってきたとわかるや否や、リュークはすぐに戻るから貸してくれと、マティアスの返事も待たずに飛び乗ったという。そのうえで、もし機体を破損させるようなことがあったら修理代は自分の躰で払うと言い放ち、止めるまもなくエアカー仕様に切り替えると飛び去っていった。
それを聞いたシリルは愕然とした。
「……そだろ。あいつ、操縦……」
「それが、あとで聞いて危うく腰抜かすところでしたわ」
マティアスは心底恐ろしそうな様子で己の逞しい両腕を抱きしめると、ブルブルと身震いした。
マティアスにあとのことを託して消えたリュークは、1時間半ほどで戻ってきた。
後部座席からいろいろ取り出すリュークにどこに行っていたのか尋ねると、最寄りの都市、リマまで行っていたという。テントやエアマット、治療に必要な医療器具や薬剤など、時間的にも閉まっている店が多い中、片っ端から無理やり開けさせて買いそろえてきたということだった。
見かけによらず押しの強いところがあると驚いたのも束の間、山賊のような風体の巨漢は、さらに喫驚することとなる。もし借りた機体に不具合などが生じるようなことがあった場合は、後日修理費を支払うので言ってほしい。出発前にもおなじことを言っていたリュークがふたたびそう口にしたため、その理由を尋ねたマティアスは、危うくその場で卒倒しそうになった。肝が冷えたなどというものではない。それもそのはず。おとなしやかな麗人は、操縦資格もなければ操縦自体も今回が生まれてはじめての経験であったという。にもかかわらず、見知らぬ場所をエアカーとはいえ、夜間に飛行したというのだからムチャクチャもいいところである。
操縦方法についてはシリルの見よう見まねだったということで、ジェット機であればひとっ飛びであったところをエアカーにしたのも、そういう理由であったらしい。
「可愛い貌して、とんでもねえムチャやらかしまさあ」
思い出しただけでゾッとする。マティアスの腕には、本当に鳥肌が立っていた。
「悪い。迷惑かけたな」
リュークがムチャをした原因が自分にあるため、シリルは思いのほか無鉄砲なヒューマノイドにかわって謝罪の言葉を口にした。
「いや、とんでもねえ。止めらんなかったオレの責任でさあ」
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