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第7章 追憶

第2話(7)

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 汚れた服の土を払い落とすこともなく、リュークは真剣な顔で地べたを這うように自分の手から離れたリングを探し出そうとしている。それが、嬉しくなかったはずもない。だがシリルは、リュークの腕を掴むと強引に引き上げて立ち上がらせた。

「シリル!」

 抗おうとする痩身を押さえて、シリルは言った。
「おまえの気持ちは嬉しい。だが、いまはダメだ。俺たちを狙ってる奴がいる」
 シリルの腕の中で、押さえていた躰が硬張こわばった。

「あんな石ころより、生命のほうが大事だ」

 真剣な眼差しに見据えられて、事情を理解したブルー・アイが無念そうに地面の上に落ちた。

「……すみません」
「なんでおまえが謝るんだよ」
 シリルは笑った。

「リングをはずしておまえに渡したのは俺だし、おまえが差し出したリングを受け取らずに腕を掴んで引っ張ったのも俺だろ」
「ですが……」
「おまえが、こんな必死になって探そうとしてくれた。俺にはそれで、充分だよ」

 言って、シリルはリュークをうながし、奥まった場所に駐めてあったイーグルワンへ戻ろうとした。穏やかな口調に反して、シリルの全身には強い緊張がみなぎっていた。背中に感じるのは、濃密な殺意。岩壁を崩落させた敵がいまも、じっとこちらの様子を窺っていた。
 隙を見せた瞬間に、確実に撃ってくる。わかっているからこそ、シリルは全神経を研ぎ澄ませて、相手にもそれとわかるようつよい気を放っていた。

 シリルに従って、リュークもまたおとなしく歩き出す。それでもなお、名残惜しそうに視線を流した先で、その動きが不意に止まった。

「リューク?」
 声をかけたシリルを振り返って、リュークはかすかに頬を上気させた。
「ありました」
「なに?」
 訊き返そうとしたシリルの傍から、リュークが離れた。

「おい待っ――リューク!」

 ほんの2メートルほどの距離。崩れ落ちた岩壁の一部が破片となって飛び散った一角。リュークはその瓦礫の手前にあるものを拾い上げて振り返り、すぐにシリルの許へ戻ろうとした。刹那――
 地を蹴ったシリルは、ふたたびリュークの躰に覆いかぶさるように腕をかけると、強く引き倒してともに地面に転がった。激しい爆裂音が立てつづけに周辺で巻き起こる。乱射された銃弾が、周辺の地面や壁を無秩序に穿うがっていった。
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