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第6章 変化

第2話(1)

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『心』の成長に伴って起こったリュークの変化は、その中に封印されていた別の要素も引き出すこととなった。否、兆候それ自体はシリルが身柄を預かった当初からあった。ただし、その時点では、リューク自身にもはっきりしたことがわかっていなかった。
 時折見せる、沈んだ様子。

 感情そのものに蓋をしていたリュークにとって、はじめは己の心が重苦しさをおぼえているという自覚すらなかった。シリルも最初のうちは、怪我による不調や、大きな環境の変化からくるストレスによるものだろうと、さして深刻にはとらえていなかった。だが、ともに過ごす時間が増えるにつれ、それは次第に頻繁に、そしてより明確になって濃いかげを落とすようになっていった。



 深夜、照明を落とした室内で、シリルは隣のベッドでかすかにあがった息を呑む気配に目を開けた。暗がりの中、隣で眠るはずのリュークが身じろぎをする。こちらに背を向け、布団にもぐりこむような姿勢。

「また、見たのか?」
 静かに声をかけると、布団から覗く金色の頭が、薄闇の中でピクリと反応した。

「申し訳ありません。また、おやすみの邪魔をしてしまいました」

 ゆっくりと振り返ったリュークの口から、冷静を装った声が漏れた。
 人間らしさが増すとともに、余計な気遣いばかりがうまくなる。苦笑したシリルは、己の布団を持ち上げて手招きをした。ゆっくりと起き上がったリュークが、隣のベッドを抜け出してくる。素直に自分の許にやってきたその躰を、シリルはみずからの腕の中に抱きこんだ。

「だんだん頻繁になってきてるんじゃないのか?」

 自分の胸にピタリと耳を押しつけるリュークの頭を抱きながら尋ねると、その頭が小さく頷いた。その反応を見て、シリルはあやすように軽く背を叩きながら苦笑を深くした。
「もういっそのこと、これからはツインじゃなくてダブルの部屋をとるか。最初からひっついて寝たほうが、おまえも気が休まるだろう」

 シリルの提案に、金色の頭が持ち上がった。あっさり同意するものと思っていると、珍しく「でも」と言う。

「それでは逆に、あなたのほうが休まりません。ハンドルや操縦桿をほぼ1日握るあなたに、そこまで負担をかけるわけには……」
「別々で寝て、ちゃんと眠れてるかどうか気にかけるほうが神経遣う」
 即答したあとで、シリルは「第一」と付け足した。

「俺はそこまでやわじゃねえよ。正規じゃなくたって、一応軍人の端くれだからな。あったかい布団で横になれるなら、体力は充分維持できる。イーグル飛ばすのに、なんの支障もない。おまえは余計な気をまわさなくていい」

 シリルの言葉に、美貌のヒューマノイドはようやく安心したように全身の力を抜いた。手足がひどく冷たいのは、それだけ緊張が強かった証拠だろう。いいからもう休め、というシリルの言に従って、リュークはシリルの腕にすっぽりとおさまって目を閉じた。

 リュークに起こりはじめた変化――

 ここに来てリュークは、夢に悩まされるようになっていた。
 ただの夢ではない。己自身ではなく、遺伝子保有者オリジナルの過去が眠りの中に流れこむようになってきたのである。
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