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第5章 夢を売る街
第4話(2)
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ローレンシアの人々にとって、国王の存在とは、不可侵の信仰そのものだった。
人々は知らない。いま、その神聖なる血筋に、なにが起こっているのか。
国王の寝所であがる絶叫。それは、国王自身のものであるときもあれば、国王に仕える世話係のものであるときもあった。
いましがたのそれは、後者の発したものであり、それがその者の、この世で発した最期の声となった。
「ああ、また……」
報告を受けた王室府侍従長、エセルバート・ベルンシュタインは苦悩の呻きを漏らした。
決して外部に知られてはならない王室の秘密。
国王は、壊れていた――
初代国王ベンジャミン・ウィリアムは、即位後、王国における己の神格化を極めることに心血を注いだ。当時の技術力を駆使してその肉体にあらゆる手を加え、より理想とする姿に近づくべく改良に改良を重ねた。そのため、78歳という年齢で崩御した際、その外見は、50代でもとおる若々しさを維持していたという。
聖君と讃えられたベンジャミンは、実際、人を魅了する天性のカリスマと圧倒的な統率力を備えていた。人々をして神の申し子、時代の救世主と心酔せしめたベンジャミンは、己の能力にみずからもまた、なみなみならぬ誇りを持ち、強い執着を抱いた。
玉座を受け継ぐ者は、王国のためにも、民衆のためにも、もっとも神に近しき者でなければならない。
己の遺伝子の中で優秀な素養を持つものをすべて抽出させた国王は、それを我が子に引き継がせるべく医局に命じて施術させた。国王にはその時点ですでに、17歳と13歳になるふたりの息子がいたが、次代の国王として父の跡を継いだのは、3番目に誕生した、初代国王に生き写しのギルバート・ウィリアムとなる。
以降、玉座を引き継ぐ君主らにはすべて、初代国王より抽出された遺伝子が導入されていく。
ベンジャミンの遺志であり、決して背くことが許されない、王家における絶対の家訓となった。
この秘事を知る者は、当然のことながら非常に限られている。国王自身と施術を担当する医局の者。王室府侍従長。科学開発技術省長官。初代国王より抽出した遺伝子を管理・保管するシュミット研究所バイオテクノロジー開発局のゲノムプロジェクト・チーム。その中でもとくに、『ブルー・ブラッド・プロジェクト』に携わる者。
厳重に守られつづけてきた王家の秘密が漏れることは決してない。
だが、人道に反した遺伝子操作は、代が進むごとに歪みを生じさせ、正常の領域から転げ落ちていくこととなる。
人々は知らない。いま、その神聖なる血筋に、なにが起こっているのか。
国王の寝所であがる絶叫。それは、国王自身のものであるときもあれば、国王に仕える世話係のものであるときもあった。
いましがたのそれは、後者の発したものであり、それがその者の、この世で発した最期の声となった。
「ああ、また……」
報告を受けた王室府侍従長、エセルバート・ベルンシュタインは苦悩の呻きを漏らした。
決して外部に知られてはならない王室の秘密。
国王は、壊れていた――
初代国王ベンジャミン・ウィリアムは、即位後、王国における己の神格化を極めることに心血を注いだ。当時の技術力を駆使してその肉体にあらゆる手を加え、より理想とする姿に近づくべく改良に改良を重ねた。そのため、78歳という年齢で崩御した際、その外見は、50代でもとおる若々しさを維持していたという。
聖君と讃えられたベンジャミンは、実際、人を魅了する天性のカリスマと圧倒的な統率力を備えていた。人々をして神の申し子、時代の救世主と心酔せしめたベンジャミンは、己の能力にみずからもまた、なみなみならぬ誇りを持ち、強い執着を抱いた。
玉座を受け継ぐ者は、王国のためにも、民衆のためにも、もっとも神に近しき者でなければならない。
己の遺伝子の中で優秀な素養を持つものをすべて抽出させた国王は、それを我が子に引き継がせるべく医局に命じて施術させた。国王にはその時点ですでに、17歳と13歳になるふたりの息子がいたが、次代の国王として父の跡を継いだのは、3番目に誕生した、初代国王に生き写しのギルバート・ウィリアムとなる。
以降、玉座を引き継ぐ君主らにはすべて、初代国王より抽出された遺伝子が導入されていく。
ベンジャミンの遺志であり、決して背くことが許されない、王家における絶対の家訓となった。
この秘事を知る者は、当然のことながら非常に限られている。国王自身と施術を担当する医局の者。王室府侍従長。科学開発技術省長官。初代国王より抽出した遺伝子を管理・保管するシュミット研究所バイオテクノロジー開発局のゲノムプロジェクト・チーム。その中でもとくに、『ブルー・ブラッド・プロジェクト』に携わる者。
厳重に守られつづけてきた王家の秘密が漏れることは決してない。
だが、人道に反した遺伝子操作は、代が進むごとに歪みを生じさせ、正常の領域から転げ落ちていくこととなる。
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