上 下
64 / 161
第5章 夢を売る街

第4話(2)

しおりを挟む
 ローレンシアの人々にとって、国王の存在とは、不可侵の信仰そのものだった。
 人々は知らない。いま、その神聖なる血筋に、なにが起こっているのか。

 国王の寝所であがる絶叫。それは、国王自身のものであるときもあれば、国王に仕える世話係のものであるときもあった。
 いましがたのそれは、後者の発したものであり、それがその者の、この世で発した最期の声となった。

「ああ、また……」

 報告を受けた王室府侍従長、エセルバート・ベルンシュタインは苦悩の呻きを漏らした。
 決して外部に知られてはならない王室の秘密。

 国王は、いた――

 初代国王ベンジャミン・ウィリアムは、即位後、王国における己の神格化を極めることに心血を注いだ。当時の技術力を駆使してその肉体にあらゆる手を加え、より理想とする姿に近づくべく改良に改良を重ねた。そのため、78歳という年齢で崩御した際、その外見は、50代でもとおる若々しさを維持していたという。
 聖君と讃えられたベンジャミンは、実際、人を魅了する天性のカリスマと圧倒的な統率力を備えていた。人々をして神の申し子、時代の救世主と心酔せしめたベンジャミンは、己の能力にみずからもまた、なみなみならぬ誇りを持ち、強い執着を抱いた。

 玉座を受け継ぐ者は、王国のためにも、民衆のためにも、もっとも神に近しき者でなければならない。

 己の遺伝子の中で優秀な素養を持つものをすべて抽出させた国王は、それを我が子に引き継がせるべく医局に命じて施術させた。国王にはその時点ですでに、17歳と13歳になるふたりの息子がいたが、次代の国王として父の跡を継いだのは、3番目に誕生した、初代国王に生き写しのギルバート・ウィリアムとなる。
 以降、玉座を引き継ぐ君主らにはすべて、初代国王より抽出された遺伝子が導入されていく。

 ベンジャミンの遺志であり、決して背くことが許されない、王家における絶対の家訓となった。
 この秘事を知る者は、当然のことながら非常に限られている。国王自身と施術を担当する医局の者。王室府侍従長。科学開発技術省長官。初代国王より抽出した遺伝子を管理・保管するシュミット研究所バイオテクノロジー開発局のゲノムプロジェクト・チーム。その中でもとくに、『ブルー・ブラッド・プロジェクト』に携わる者。

 厳重に守られつづけてきた王家の秘密が漏れることは決してない。
 だが、人道に反した遺伝子操作は、代が進むごとに歪みを生じさせ、正常の領域から転げ落ちていくこととなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

夜明けのカディ

蒼社長
SF
惑星マナへリア。地球から遠く離れたその星では、地球を巣立った者たちの子孫が故郷を模した文化を気づき、暮らしていた。 不安定かつ混沌とした世界は、S.Oという一つの組織によって秩序を保たれていた。 人々の尊厳や命、平和を守り、正しきを体現するS.Oに故郷を壊された『カディ・ブレイム』は、消えぬ炎を心に灯したまま、日々を生きていた。 平和で穏やかな毎日も、大切な人とのかけがえのない時間を持ってしても、その炎は消せなかった。 スレッドという相棒と出会い、巨大人型機動兵器『イヴォルブ』を手に入れたカディは、今の楽しい日々で消えなかった炎を完全に鎮めるため、復讐を決意する。 これは大切なものを奪われたカディが紡ぐ、復讐と反抗の物語。 悪も正義もない。ただ己の魂を鎮めるためだけに、カディは進む。蒼のイヴォルブ『ルオーケイル』とともに。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

angel observerⅣ 夢幻未来

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時は過ぎ去り新たな旅が始まる。ヒルデは皆と平穏に暮らしていたが真夏のとある日、一人の少女をきっかけに未来に囚われてしまう。少女をめぐり未来の世界でヒルデが再び剣を取り戦い抜く、未来とは何か、ヒルデは元の時間軸に戻れるのか! angel observerⅣ夢幻未来ここに開幕!

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

SF世界に転生したら人類どころか人外で人類史の空白だった件~人間じゃないけど超優秀な配下を従えてます~

黴男
SF
黒川新谷(くろかわあらた)は多少不真面目な大学生だった。 空虚な今までの人生を捨てて、新しく生まれた弟にいい格好をするために努力していた最中のアラタだったが、病気にかかり命を落としてしまう。 しかし、アラタの人生はそこで終わりではなかった。 次元の壁を越え、アラタの魂は新たな肉体へと生まれ変わる。 しかし、その肉体はすでに人間ではなかった。 「Ve‘z(ヴェズ)」と呼ばれる、異世界で遥か昔に勃興した帝国の、最後の末裔。 その予備のクローンに転生した。 クローンの持ち主は既に死に、多くの機械兵士が目的を失い彷徨っていた。 アラタはエリアスと名を変え、数千年ぶりに主人を手にした機械達を従え、新たな人生を歩み始める。 ※小説家になろう/カクヨムでも連載しています

クローバー

ドラゴン
SF
ーあなたには、誰かを救う決意がありますかー ※この作品には多少のショッキングな表現が含まれます。気分を害する場合がございますので、ご注意をよろしくお願いします。

処理中です...