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第5章 夢を売る街

第3話(5)

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 あっという間の20分。1周したゴンドラが地上に戻ってなお、花火は打ち上がっていた。
 リュークを連れて場所を移動したシリルは、円形状の斜面が周囲を取り囲む広場の空きスペースにリュークを座らせた。一面に芝が植えられているのは、花火観賞やパレードの見物用に設けられた場所だからだろう。いまも大勢の人々が、シリルたちとおなじように芝の上に座り、あるいは寝転がって夜空に咲く大輪の花を眺めていた。広場の中央にある噴水も、照明が落ちた空間の中で夜空を映し、水面に光のシャワーを煌めかせている。やがて30分足らずの光と闇の競演が幕を閉じると、人工の光がふたたびテーマパーク内に灯り、クリスタル合板の天井が頭上を覆っていった。

 花火観賞を終えた人々が、夢の世界から目覚めたかのように動き出す。綿菓子を抱えこんでいたリュークもまた、ずっと見上げっぱなしにしていた首を戻して小さく息をついた。


「思った以上に見応えがあったな」

 斜面に立ったシリルが手を差し出すと、リュークは無言でその手に掴まって立ち上がった。どこか放心したような表情があどけない。充分いい刺激と気分転換になったようだと満足して、シリルはリュークを伴い、のんびりとした歩調で歩きはじめた。
 夜遊びの締めくくりには、ちょうどいい見物みものだった。

 宿泊先のホテルに足を向けながら、ふと傍らを顧みると、美貌のヒューマノイドはキャップのツバを引き下げることも忘れて一心に歩いている。シリルの視線にも気づかず、立ち上がる際に差し出された手をいまだ掴んだまま、放し忘れていることにも気づいていない。この様子では迷子になりかねないためシリルもそのままにしていたが、手を繋いでいる、というよりは、手を引いてやっているといったところだった。
 無表情であっても、わずかに頬が紅潮している。はじめて目にした花火に、興奮冷めやらずといったところか。さんざん歩きまわった疲労も手伝って、このままホテルに戻ってベッドに入れば、即座に熟睡すること間違いなしだろう。

 華奢な骨格と抜きん出た麗容のおかげで、すれ違う人々にはゲイのカップルなどと、あらぬ疑いをかけられることもなく済んでいる。だが、どうにもシリルの感覚では、大きな子供の父親にでもなった気分だった。
 透きとおるような美貌と安物のキャップ、ファンシーなキャラクターが描かれた綿菓子の袋がなんともミスマッチでちぐはぐな印象を受ける。しかし、そのアンバランスさは、リュークの内面そのものを映し出している気がした。

 怜悧で崇高で、それでいてなにものにも染まっていない純然たるはかなさ。
 従順で慎ましやかな人形などではなく、固い殻を打ち破って、その内に閉じこめられている本来の姿を自由に解放させればいい。

 豊かな感受性を備えたその心を、シリルは好ましく思った。
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