セイクリッド・レガリア~熱砂の王国~

西崎 仁

文字の大きさ
上 下
58 / 161
第5章 夢を売る街

第3話(1)

しおりを挟む
 遅い時間帯であるにもかかわらず、あたりは人で溢れ、活気に満ちていた。
 親子連れ、カップル、友人同士の集団。
 巨大市場サンマルシェのそれとは異なる華やいだ雰囲気に、美貌のヒューマノイドはいささか圧倒され、気後れしているようであった。

 バベル・リゾート。

 大地溝帯を抜け、地上に出た後にイーグルワンをしばらく走らせ、途中、幾度か休憩を挟んでシリルたちが到着したのは、世界でも最大規模を誇る娯楽都市であった。

 シリルの読んだとおり、今日1日の移動は追っ手の襲撃を受けることもなく、スムースに距離を稼ぐことができた。おかげで都市入りを果たせたのは、予定より早い、夕方に差しかかる手前の時間帯となった。
 せっかく来たついでだからと、バベルでもハイクラスのホテルに宿をとり、傷の手当てがてら数時間の仮眠をさせた後に、シリルはリュークを外へと連れ出した。
 都市まるごとひとつが巨大なテーマパークとなっているバベル・リゾートは、夕方以降になると、煌びやかな人工の光が街全体を照らし、昼と変わらない明るさの中でさまざまなアトラクションを楽しめるようになっていた。

 バベル・リゾート――またの名を不夜城バベル。

 日常とは異なる夢の世界を演出する娯楽の街は、都市全体を覆うクリスタル合板の外壁に紗幕しゃまくがかけられることはない。24時間、あえて外部から丸見えの状態を維持することで、来場者にも通りすがりの人間にも、開放的かつ享楽的イメージを印象づけた。

 陽が沈んで以降の街は、さながら砂漠の夜に落ちた宝石のような輝きを放つ。他の都市同様、コロニーへの入場に料金が取られることはないが、さまざまな施設やアトラクションを利用することで、来訪者は自然、随所で金を落とす仕組みが作り上げられていた。

「今日は、なにかのお祭りなのですか?」

 賑わう人々の様子を注意深く観察しながら、リュークははぐれることのないようシリルの横にしっかりついている。その口から、おそるおそるといった具合に質問が発せられた。あちこちでだれかしらがあげるはしゃいだ声や弾けるような笑い声、アトラクションのどこかから聞こえてくる悲鳴といったものに、すっかり畏縮しているようだった。ついでに、大勢の人間が終始賑やかに行き交う中で、リュークの美貌は周囲から見事なまでに浮き立っていた。そのおかげで、行く先々で注目を集め、終始騒がれつづけている。それが余計に、当惑の種となっているらしかった。

 気がつけばリュークの手は、シリルの右手の袖をしっかりと握りしめていた。自分がなぜ騒がれ、人々に見られるのか理由がわからず、戸惑っている様子がありありと伝わってきた。

 シリルの口許に笑みが浮かぶ。日中見せていた沈んだ様子は、別のことに気を取られているせいで完全に払拭されていた。またすぐ思い出すにせよ、気鬱の原因をいっときでも忘れさせることには成功したようである。とはいえ、あまり効果が絶大すぎて、ストレス過剰となるのもよくない。シリルは通りがかりの露天でキャップをひとつ購入すると、リュークの頭に乗せてツバを引き下ろした。
 ひたすら視線を落としてだれとも目が合わないよう、そのことだけに意識を集中させていたリュークが顔を上げる。シリルはそれへ、笑いかけた。

「それで少しは人目を避けられる。せっかく来たんだから、おまえも夢の街を楽しめ」
「ですが追っ手は……」
「大丈夫だ。問題ない」

 自信を持って請け合い、悠然と歩き出したシリルの横に、リュークもふたたびピタリとついた。衆目に曝されるプレッシャーから解放されたことで、今度はシリルの服を掴むことなく、落ち着いた様子で歩けるようになっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

社畜リーマン、ポンコツヒューマノイドのお陰でQOL爆上がり

ふた
SF
「人ってそうやって笑うんだ」 ヒューマノイドロボットの所持が一般化した世界。 仕事ばかりで疲弊した毎日を送るアラサー芳賀燈一は、部下に勧められ旧型のヒューマノイドロボットを購入する。中古品だった為取り扱い説明書が無く、製造メーカーの記載もない。何に特化したヒューマノイドか分からず、とりあえず家事支援タイプとして指示を出してみるが、家事の仕方が分からないと言う。その上、三十年以上前の筐体は貧弱で手がかかる。果たしてポンコツヒューマノイドは燈一の役に立てるようになるのか? 【芳賀燈一】 34歳男性。社畜サラリーマン。会社では仕事の出来る中堅社員だが、家事など身の回りのことが疎かになりがちでゴミ屋敷同然の部屋に住んでいる。後輩に勧められヒューマノイドを購入するも早々に後悔する。 【コハク】 ヒューマノイド。性別不明の外見小学生(芳賀は僕っ娘だと思っている)。中古の旧型なので低性能で劣化が酷い。表情の変化が乏しい。家事も炊事も出来ない。

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

ちゃぼ茶のショートショート 「世界信用銀行」

ちゃぼ茶
SF
私、ちゃぼ茶が初めて銀行の口座を作ったのは確か小学生だった気がします 初めて自分のお金、通帳を手にした時なんとも言えない高揚感 まるで大人になったかのようでした たかが通帳、されど通帳でした

New Life

basi
SF
なろうに掲載したものをカクヨム・アルファポにて掲載しています。改稿バージョンです。  待ちに待ったVRMMO《new life》  自分の行動でステータスの変化するアビリティシステム。追求されるリアリティ。そんなゲームの中の『新しい人生』に惹かれていくユルと仲間たち。  ゲームを進め、ある条件を満たしたために行われたアップデート。しかし、それは一部の人々にゲームを終わらせ、新たな人生を歩ませた。  第二部? むしろ本編? 始まりそうです。  主人公は美少女風美青年?

処理中です...