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第5章 夢を売る街

第2話(2)

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 命知らずでありながら、着実に逃げきるだけの技量と胆力。あの自信を、根底から踏みにじってやらなければ気がすまなかった。
 シリルには、この先も追撃のプロ集団をいいように翻弄し、存分に逃げてもらわねばならない。そのくらいでなければ、落とし甲斐がないというものだった。
 追いつめて追いつめて、たっぷりといたぶり尽くし、どちらが上か思い知らせてやるのだ。

 2年前あのときやられたのは、決して自分の能力が劣っていたからではない。ほんの少し油断した。ただそれだけのことだった。任務にかこつけ、生きる価値のないクズどもを片っ端からなぶり殺しにして最高の気分を味わっていたというのに、あの男は妙な正義感と責任感を振りかざして自分のまえに立ちはだかった。
 強者には媚び、弱者にはとことんまで残酷になれる。自分が手をかけた闇組織の連中は、まさにそういう、救いようのないゴミどもだった。欲望に忠実で、他人の生命など虫けら程度にも思わない。ラクして荒稼ぎをするために、他人の利益を平気で横取りにして権利を踏みにじる。泣こうが喚こうが知ったことではない。自分さえよければそれでいい。そんな考えの連中が、それこそ泣いて自分に命乞いをするさまは、あまりに哀れで惨めで、心の底から愉快だった。

 ある意味、自分はあの連中にこそ近い資質を持ち合わせているのだろう。
 おまえたちの味わう悦楽が、俺にもよくわかる。他人の苦しみほど甘く美味い汁はない。そうだ、俺たちは同士だ。だれより深く解り合える。だから俺の愉しみのために、最高に惨めったらしい姿を曝して死んでいけ。

 愉しくて愉しくてしかたない。これ以上の快感など存在しないくらいだ。
 俺のためにもっと哀願しろ。俺を満足させるためにもっと苦しめ。もっと深い絶望と色濃い恐怖を味わうがいい。もっと弱さをさらけ出せ。もっともっと醜く泣き叫べ――

 次々に浴びせられる大量の血飛沫ちしぶきに酔いしれ、最高のエクスタシーを味わっているさなかにあの男は現れた。
 その後に味わった屈辱を、決して忘れることはできない。


 シリル・ヴァーノン。己の人生最大の汚点を作り上げた男。


 おまえがいるかぎり、この屈辱と煮えたぎる怒りはおさまらない。おまえを思い浮かべるだけで癒えたはずの傷口が激しく疼き出す。疼いて疼いてしかたがねえ。
 いい気になるな。貴様が強かったわけじゃない。この俺が油断した。ただそれだけのことなのだ。

 ずっと機会を窺っていた。報復などというかわいいものではない。自分たちは、おなじ時代に生きることが許されない宿命にあったのだ。
 おまえのぶんまで、たっぷり楽しんで生きてやるよ。だからおまえは、絶望に引き裂かれながら地獄の底に沈んでいけ。


 ――隊長さんよ、今度こそきっちり、決着をつけようぜ……。



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