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第5章 夢を売る街
第1話(2)
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「今夜はちゃんと、ベッドで寝られるようにしてやるからな」
声をかけたシリルに、助手席におとなしく座るヒューマノイドは「はい」と応じた。
シリルは横目に、その様子をそれとなく窺った。どうも朝から様子がおかしい。もともと表情に乏しく、口数も少ないが、それでもあきらかに、昨日までとはどこか反応が違っている。目覚めてからこちら、纏う雰囲気の端々に、ひどく消沈したような様子が看て取れた。
具合が悪いのかと尋ねても、頑なに大丈夫だと言い張る。なにか気になることがあるのかと質問を変えても、なんでもないと言うばかりで、それ以上なにも語ろうとはしない。隠しているわけではなく、リューク自身、己の裡に起こった変化を掴み損ねているように見えた。
なにか気に入らないことでもあるのか、それとも実際に、どこかに不調をおぼえているのか。
「昨日のように派手に追いまわされることはないから、しんどかったらシートを倒して横になっておけ」
毛布は後ろにあると告げたシリルに、リュークはやはり、「大丈夫です」と薄い反応を返すばかりだった。
さすがに無理がたたりすぎたのかもしれない。シリルは内心で思った。
体調面のことはもちろん、精神面での負担が大きすぎることは否めなかった。研究所の中の、ごく限られた環境しか知らない状態から、突如まるっきり未知の世界に放り出されたのである。見ず知らずの人間と起居をともにするようになり、自分の生まれた研究所を破壊した連中に追いまわされて攻撃を仕掛けられ、過激なチェイスを繰り返す状況がストレスにならないはずもない。感情を持たないアンドロイドであるならまだしも、経験が浅く、自己表現のしかたがわかっていないだけで、普通の人間と変わらない情動も持ち合わせている。いっそ幼い子供のように泣き喚くなりして発散でもしてくれれば多少は安心もできるのだが、終始聞き分けよく畏まっているだけに始末が悪かった。
そのうち知恵熱でも出すような事態にならなければいいのだが、と、つい余計な懸念まで浮かんでくる。頭の中に地図を起動させたシリルは、王都までの経路と追っ手の動きを素早く計算して、次の中継点とする都市を決定した。
声をかけたシリルに、助手席におとなしく座るヒューマノイドは「はい」と応じた。
シリルは横目に、その様子をそれとなく窺った。どうも朝から様子がおかしい。もともと表情に乏しく、口数も少ないが、それでもあきらかに、昨日までとはどこか反応が違っている。目覚めてからこちら、纏う雰囲気の端々に、ひどく消沈したような様子が看て取れた。
具合が悪いのかと尋ねても、頑なに大丈夫だと言い張る。なにか気になることがあるのかと質問を変えても、なんでもないと言うばかりで、それ以上なにも語ろうとはしない。隠しているわけではなく、リューク自身、己の裡に起こった変化を掴み損ねているように見えた。
なにか気に入らないことでもあるのか、それとも実際に、どこかに不調をおぼえているのか。
「昨日のように派手に追いまわされることはないから、しんどかったらシートを倒して横になっておけ」
毛布は後ろにあると告げたシリルに、リュークはやはり、「大丈夫です」と薄い反応を返すばかりだった。
さすがに無理がたたりすぎたのかもしれない。シリルは内心で思った。
体調面のことはもちろん、精神面での負担が大きすぎることは否めなかった。研究所の中の、ごく限られた環境しか知らない状態から、突如まるっきり未知の世界に放り出されたのである。見ず知らずの人間と起居をともにするようになり、自分の生まれた研究所を破壊した連中に追いまわされて攻撃を仕掛けられ、過激なチェイスを繰り返す状況がストレスにならないはずもない。感情を持たないアンドロイドであるならまだしも、経験が浅く、自己表現のしかたがわかっていないだけで、普通の人間と変わらない情動も持ち合わせている。いっそ幼い子供のように泣き喚くなりして発散でもしてくれれば多少は安心もできるのだが、終始聞き分けよく畏まっているだけに始末が悪かった。
そのうち知恵熱でも出すような事態にならなければいいのだが、と、つい余計な懸念まで浮かんでくる。頭の中に地図を起動させたシリルは、王都までの経路と追っ手の動きを素早く計算して、次の中継点とする都市を決定した。
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