上 下
55 / 161
第5章 夢を売る街

第1話(2)

しおりを挟む
「今夜はちゃんと、ベッドで寝られるようにしてやるからな」

 声をかけたシリルに、助手席におとなしく座るヒューマノイドは「はい」と応じた。
 シリルは横目に、その様子をそれとなく窺った。どうも朝から様子がおかしい。もともと表情に乏しく、口数も少ないが、それでもあきらかに、昨日までとはどこか反応が違っている。目覚めてからこちら、纏う雰囲気の端々に、ひどく消沈したような様子が看て取れた。
 具合が悪いのかと尋ねても、頑なに大丈夫だと言い張る。なにか気になることがあるのかと質問を変えても、なんでもないと言うばかりで、それ以上なにも語ろうとはしない。隠しているわけではなく、リューク自身、己の裡に起こった変化を掴み損ねているように見えた。

 なにか気に入らないことでもあるのか、それとも実際に、どこかに不調をおぼえているのか。

「昨日のように派手に追いまわされることはないから、しんどかったらシートを倒して横になっておけ」
 毛布は後ろにあると告げたシリルに、リュークはやはり、「大丈夫です」と薄い反応を返すばかりだった。

 さすがに無理がたたりすぎたのかもしれない。シリルは内心で思った。
 体調面のことはもちろん、精神面での負担が大きすぎることは否めなかった。研究所の中の、ごく限られた環境しか知らない状態から、突如まるっきり未知の世界に放り出されたのである。見ず知らずの人間と起居をともにするようになり、自分の生まれた研究所を破壊した連中に追いまわされて攻撃を仕掛けられ、過激なチェイスを繰り返す状況がストレスにならないはずもない。感情を持たないアンドロイドであるならまだしも、経験が浅く、自己表現のしかたがわかっていないだけで、普通の人間と変わらない情動も持ち合わせている。いっそ幼い子供のように泣き喚くなりして発散でもしてくれれば多少は安心もできるのだが、終始聞き分けよくかしこまっているだけに始末が悪かった。

 そのうち知恵熱でも出すような事態にならなければいいのだが、と、つい余計な懸念まで浮かんでくる。頭の中に地図を起動させたシリルは、王都までの経路と追っ手の動きを素早く計算して、次の中継点とする都市を決定した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

クリスマスプレゼント

奈落
SF
TSFの短い話です

Condense Nation

SF
西暦XXXX年、突如としてこの国は天から舞い降りた勢力によって制圧され、 正体不明の蓋世に自衛隊の抵抗も及ばずに封鎖されてしまう。 海外逃亡すら叶わぬ中で資源、優秀な人材を巡り、内戦へ勃発。 軍事行動を中心とした攻防戦が繰り広げられていった。 生存のためならルールも手段も決していとわず。 凌ぎを削って各地方の者達は独自の術をもって命を繋いでゆくが、 決して平坦な道もなくそれぞれの明日を願いゆく。 五感の界隈すら全て内側の央へ。 サイバーとスチームの間を目指して 登場する人物・団体・名称等は架空であり、 実在のものとは関係ありません。

ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三
SF
※本作はフィクションです。実在の人物や団体、および事件等とは関係ありません。 ※本作は海洋生物の座礁漂着や迷入についての記録や資料ではありません。 ※本作には犯罪・自殺等の描写などもありますが、これらの行為の推奨を目的としたものではありません。 ※本作はノベルアッププラス様でも同様の内容で掲載しております。 ※本作は「ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~」の続編となります。そのため、話数、章番号は前作からの続き番号となっております。  LH(ルナ・ヘヴンス歴)五一年秋、二人の青年が惑星エクザローム唯一の陸地サブマリン島を彷徨っていた。  ひとりの名はロビー・タカミ。  彼は病魔に侵されている親友セス・クルスに代わって、人類未踏の島東部を目指していた。  親友の命尽きる前に島の東部に到達したという知らせをもたらすため、彼は道なき道を進んでいく。  向かう先には島を南北に貫く五千メートル級の山々からなるドガン山脈が待ち構えている。  ロビーはECN社のプロジェクト「東部探索体」の隊長として、仲間とともに島北部を南北に貫くドガン山脈越えに挑む。  もうひとりの名はジン・ヌマタ。  彼は弟の敵であるOP社社長エイチ・ハドリを暗殺することに執念を燃やしていた。  一時は尊敬するウォーリー・トワ率いる「タブーなきエンジニア集団」に身を寄せていたが、  ハドリ暗殺のチャンスが訪れると「タブーなきエンジニア集団」から離れた。  だが、大願成就を目前にして彼の仕掛けた罠は何者かの手によって起動されてしまう。  その結果、ハドリはヌマタの手に寄らずして致命傷を負い、荒れ狂う海の中へと消えていった。  目標を失ったヌマタは当てもなくいずこかを彷徨う……  「テロリストにすらなれなかった」と自嘲の笑みを浮かべながら……

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

超能力者の私生活

盛り塩
SF
超能力少女達の異能力バトル物語。ギャグ・グロ注意です。 超能力の暴走によって生まれる怪物『ベヒモス』 過去、これに両親を殺された主人公『宝塚女優』(ヒロインと読む)は、超能力者を集め訓練する国家組織『JPA』(日本神術協会)にスカウトされ、そこで出会った仲間達と供に、宿敵ベヒモスとの戦いや能力の真相について究明していく物語です。 ※カクヨムにて先行投降しております。

サイバーオデッセイ - バーチャル都市の守護者と精霊たち - (挿絵アニメ)

寄代麻呂人
SF
未来×リアル&バーチャル(サイバーパンク)×AI(神)×ファンタジー×サイバー攻撃の物語。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 西暦3666年、地球上のいくつかの都市がすでに水没。 それでも3つの人間の抗争が千年繰り返されており、度重なる戦いや環境破壊の影響のため、 人々は10万人規模の自給自足可能な水上都市上にリアルとバーチャルが融合したバーチャル都市で生活を営んでいた。 第一部 デジタル国家編 進化を望む人間の物語 人々は、自立分散国家を形成し、 ・シーブリーズサンクチュアリ ・アクアメトロポリス ・ブルーホライゾン ・アトランティスリボーン といった水上都市国家(アクアポリス)で生活を営んでいる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 最初はゆっくりと物語は進んでいきます。 書きたいテーマとなんとなくの荒筋は決まっているので、 ちょっと退屈な「話」のときもありますが、読み進めていくとつながりがあり、 基本毎日更新するので、気長に読んでください。 AIやコンピュータ関連のネタをちりばめていきます。 第二部 デジタルゴット編 第三部 TOK YO編 クリックしてみてくださいとある挿絵は、挿絵が動きます。 (第14話~漆黒の女~ の最初の女性画像等) 挿絵みるだけでも面白いと思うので、ぜひご覧ください。

処理中です...