上 下
47 / 161
第4章 渓谷のオアシス

第3話(2)

しおりを挟む
「なるほどな、どおりで攻撃のしかたが執拗なわけだ。まさかこんなかたちでおまえに再会することになるとはな」
「俺も嬉しいよ、ヴァーノン隊長。あんたとは、どうしても決着がつけたかったからな。諦めきれなくて、地獄の底から戻ってきたぜ」

 雑音まみれのスピーカーの向こうで、通話相手がクククッと喉を鳴らした。シリルは前方を見据えていた両眼を、スッとすがめた。

「悪いが、おまえと遊んでる暇はない。ほかをあたってくれ」

 言うなり、ハンドルを切る。方向転換した直後、眼前に迫ったのは漆黒の壁。イーグルワンは間近に迫った砂嵐の真っ只中へとつっこんでいた。
 凄まじい暴風に翻弄されながら、視界ゼロの塵芥じんかいの中をシリルは迷うことなく機体を前進させた。いまにも吹き飛ばされそうになる暴風の中、巧みにハンドルを操作してギリギリのところで横転を回避する。だが不意に、ガクンという強い振動とともに、臓腑が浮き上がる感覚が機内にいたふたりを襲った。突如途切れた陸地から、イーグルワンは勢いよく崖下へと転落していった。その間にも、砂嵐によって吹き荒れる強風が、小さな機体を激しく翻弄して揺さぶりつづけた。

 凄まじい嵐の影響は、機体が転落していくうちに次第に薄れていった。だが、上空を覆い尽くす塵芥のせいで、周囲は暗黒に覆われたまま見通すことができない。そんな中にあっても、シリルはあわてることなく終始冷静にハンドルを操作し、肉眼では把握できない周囲の様子を窺っていた。

 地上車仕様のイーグルワンが、次第に加速しながら底の見えない深淵へと落下していく。永遠にも思われる時間が過ぎたかと思われたそのとき、ハンドルを握っていたシリルの手が、素早く愛機の機能を切り替えた。落下の速度が急速に落ちた反動で、機体は強い衝撃を伴って大きく揺れる。エアカーへと切り替わった機体の操縦桿を、シリルは悠然と操作した。真っ逆さまに落ちていたイーグルワンの機体が立てなおされ、ふわりとした浮遊感につづいて機首が上向いた。それからほどなく、安定した飛行態勢へと移行していった。
 上空の様子を窺ったシリルは、そこではじめて小さく息をついた。そのまましばらく闇の中を移動する。シリルがふたたびイーグルワンを操作してライトをつけたのは、充分な距離を稼いだあとのことだった。

 機体の灯す光で、ようやく周辺の様子がわずかに肉眼でも把握できるようになった。そこは、最初に襲撃を受けた渓谷よりも遙かに狭く、深い谷間の底部となっていた。
 岩が大きく張り出した箇所の真下を移動しているため、おそらく砂嵐が通過していたとしても、上から見たかぎりでは機体の位置を把握することは不可能と思われた。岩壁に沿って愛機を直進させていたシリルが、途中であらわれた支路を選択して左折する。そこからさらにしばらく進んだ後に、ゆっくりと着陸させた。

 エンジンを止めたところで、シートに凭れかかったシリルは天井を仰いで太い息を吐き出した。

「やれやれ、まさかしょっぱなからこうなるとはな」

 ぼやいたあとで、身を起こして傍らのヒューマノイドを顧みて苦笑した。

「悪い、おまえには少しハードだったな。大丈夫だったか?」

 訊かれて、リュークはようやく小さな声で「はい」と応じた。機内灯をつけると、その光を反射して白磁の肌が浮かび上がる。白い頬から血の気が失せて見えるのは、光の加減ばかりでもないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

処理中です...