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第4章 渓谷のオアシス
第1話(3)
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「我々には、ただ成功することを祈るしかない。そういうことになりますか」
ゴードンの呟きに、ベルンシュタインもまた、言葉少なに頷いた。
「ときに、医局長」
侍従長はあらたまった口調で呼びかけた。
「先程もお尋ねしましたが、その、陛下のご様子は……」
なにごとにおいても筋道を立ててきちんと発言する正大な人物には珍しく、言葉尻が濁る。その気持ちが察せられるだけに、ゴードンも難しい顔でかすかにかぶりを振った。
「お変わりはなく、と先程申し上げましたが、正直なところ、これ以上はどこまで隠しおおせるか、非常に厳しい段階に入っております」
医局長の回答に、日頃冷徹さを崩すことのない侍従長は「ああ」と悲痛な呻きを漏らした。
常時身近に接する立場にあるからこそ、だれより実感し、同時に怖れていることでもあった。専門家による専門の知識ならではの見立てならば、あるいはもう少し見解が異なるかもしれない。そんな淡い期待に望みを抱かずにはいられないほど、事態は深刻を極めていた。
断腸の思いで計画を実行に移しておきながら、それでもひょっとすると事態が好転することがあるのではないか。少なくとも一定の状態を維持させておくことができはしまいか。そんな希望的観測を期待しながら今日まで来た。だが、時間の経過に伴って、それらの希望は形を失い、潰え去っていくばかりだった。
「医局長、かくなるうえは、いかなることがあっても『鍵』を喪うわけにいきません。王家の存続は、すべてそこにかかっているのです」
侍従長の言葉に、ゴードンもまた頷いた。
「ご期待にかなう成果を上げることができず、医局を預かる身といたしましても誠に遺憾のかぎり。慚愧の念に耐えません。ですが、今後も変わらず、身命賭して王家に仕えさせていただく所存です」
「お願いします、ゴードン医局長。頼める方はもはや、あなたしかおられない。この難局をなんとしても乗り越えられるよう、お力を貸していただきたい」
深々と頭を下げる医局長の手を、ベルンシュタインはテーブル越しにしっかりと握りしめた。
ゴードンの呟きに、ベルンシュタインもまた、言葉少なに頷いた。
「ときに、医局長」
侍従長はあらたまった口調で呼びかけた。
「先程もお尋ねしましたが、その、陛下のご様子は……」
なにごとにおいても筋道を立ててきちんと発言する正大な人物には珍しく、言葉尻が濁る。その気持ちが察せられるだけに、ゴードンも難しい顔でかすかにかぶりを振った。
「お変わりはなく、と先程申し上げましたが、正直なところ、これ以上はどこまで隠しおおせるか、非常に厳しい段階に入っております」
医局長の回答に、日頃冷徹さを崩すことのない侍従長は「ああ」と悲痛な呻きを漏らした。
常時身近に接する立場にあるからこそ、だれより実感し、同時に怖れていることでもあった。専門家による専門の知識ならではの見立てならば、あるいはもう少し見解が異なるかもしれない。そんな淡い期待に望みを抱かずにはいられないほど、事態は深刻を極めていた。
断腸の思いで計画を実行に移しておきながら、それでもひょっとすると事態が好転することがあるのではないか。少なくとも一定の状態を維持させておくことができはしまいか。そんな希望的観測を期待しながら今日まで来た。だが、時間の経過に伴って、それらの希望は形を失い、潰え去っていくばかりだった。
「医局長、かくなるうえは、いかなることがあっても『鍵』を喪うわけにいきません。王家の存続は、すべてそこにかかっているのです」
侍従長の言葉に、ゴードンもまた頷いた。
「ご期待にかなう成果を上げることができず、医局を預かる身といたしましても誠に遺憾のかぎり。慚愧の念に耐えません。ですが、今後も変わらず、身命賭して王家に仕えさせていただく所存です」
「お願いします、ゴードン医局長。頼める方はもはや、あなたしかおられない。この難局をなんとしても乗り越えられるよう、お力を貸していただきたい」
深々と頭を下げる医局長の手を、ベルンシュタインはテーブル越しにしっかりと握りしめた。
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