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第3章 ミスリルの巨大市場

第2話(1)

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 食事を終えて路地裏の店に戻ったのは、当初の予定より1時間近く遅れてのこととなった。
 相変わらず人の出入りはなく、それどころか店の周辺を行き交う人間すら見当たらない。市場の喧噪が嘘のような異空の気配を漂わせる店内で、店主はもはや、リュークの美貌に関心を払うこともなく、注文の品をカウンターの上に置いた。

「サイズが合えば、問題ないかと」

 店主の差し出したトレイから品物を受け取ったシリルが傍らを顧みる。

「右手を出せ」

 言われて、掌を上に差し出したリュークの手を裏側に返し、その薬指に手にしていたものを嵌める。そのうえで、軽く抜き差しして嵌まり具合やゆるさを確認すると、最後にリューク本人にも、きつくはないな?と着け心地を尋ねた。

「シリル、これは?」

 自分の指に嵌められた指輪を、美貌のヒューマノイドは不思議そうに見つめた。

「おまえのIDだ。むろん、正規のものじゃないが、これから目的地に着くまでのあいだ、おまえにも身分を証明するものが必要だろう」
「依頼内容に、このようなことは含まれていなかったかと思いますが」
「俺の独断だ。任務遂行に必須と判断したうえでのオプションってとこだな。ま、細かいことは気にするな」

 先程の食事中の一件でのシリルの言葉が効いているのか、しばし指に嵌められたリングを眺めていた堅物の麗人は、やがて納得したようにこっくりと頷いた。

「おまえ専用の口座も開いてあるから、そのリングで、これからは自由に買い物もできる」
「口座に振り込まれているのは、あなたのお金ですか?」
「そうだが、常識の範囲内で必要な物を買うなら、いちいち断らなくとも好きに使っていい」

 その『常識』がどこまで通用するか、どの程度身につけさせてやれるかは今後次第なのだが、それについてはいまから気にしたところでしかたがない。金銭感覚が大幅にズレていたなら、そのときはそのときの話だった。



 最後の買い物を終えたシリルは、リュークをうながしてイーグルワンに戻った。
 はじめての人混みで疲れたであろうリュークを先に車に乗せ、到着していたカートから荷物を車内に移し替える。手早く作業を済ませてみずからも車に乗りこむと、出発前に再度、火傷の手当てをすることにした。

 昨夜から3度目ということもあって、リュークも慣れた様子でシリルに手当てを任せる。火傷の程度が軽かった箇所はだいぶ炎症が落ち着いてきたが、重度の怪我を負っていた部分については、放置した時間が長かったぶん、昨夜より見た目が悪化している印象だった。
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