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第2章 波乱の幕開け
第2話(4)
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うながされるまま静かに食事を進める様子は、じつに気品があって、むしろ店の雰囲気のほうが合っていないほどである。この世に誕生してまもないロボットなどとは、だれも思うまい。
「テーブルマナーも学習済みか?」
ナイフとフォークを器用に操り、口に運ぶ動作がじつにさまになっているので尋ねると、リュークはそのとおりだと首肯した。
「外の世界に出ても、日常生活に支障が出ない程度の常識は身につけておくようにと訓練を受けました」
「なるほどね」
いくぶん苦笑気味に応じたシリルに、美貌のヒューマノイドは「それから」と意外なことを口にした。
「私のオリジナルのデータも、少しですが、その手助けになっているかもしれません」
「オリジナル?」
「はい。私はかつて存命した、ある人物の遺伝子データをもとに造られておりますので」
「なんだそれ。おまえ、完全な人造物じゃないのか?」
「ご質問の意味が、有機的部分を含むか含まないか、ということであれば、私の場合、ニュアンスとしてはバイオロイドに近いものと言えるかと思います」
シリルはその回答に愕然とした。
「ちょっと待て。それじゃ、おまえ、生身の部分もあるってのか?」
「肉体の構造部分に関しては、6割がた、あなたがた人間とおなじ構造を持っています」
聞いた途端、シリルはテーブルに突っ伏した。
「シリル?」
怪訝そう――抑揚は殆どなかったが――に声をかけられ、男はガバッと起き上がると、身を乗り出して目の前の麗人に詰め寄った。
「おまえなっ! そういうことはもっと早く言えってんだよっ」
「なぜ怒っているのですか? 私の言動の中に、なにか問題でも?」
「おおありだよっ。おまえはじめに、『プログラムされた機能を超えて生命活動をおこなうことはない』とかなんとか言ってただろがっ」
「はい。残り4割は生身ではありませんので。私の『生命活動』に関する重要な機能はすべてそちらに集まっています。私の言動は、そこにプログラムされた内容をもとに出力される仕組みとなっておりますので」
回答を聞くなり脱力して、シリルは背後の背凭れにドサッと寄りかかった。ついでにそばを通りかかった店員を呼び止め、ウィスキーをロックで追加注文する。
「シリル、先程1杯だけだと――」
「うるせー。この先のこと考えたら飲まずにいられるか」
不機嫌に応じて、やれやれと吐息を漏らした。
「最初の不十分すぎる説明に加えてセックス機能がついてないだの、栄養補給が必要ないだの言うから、危うく騙されるとこだったじゃねえか」
「仰る意味がわかりません。私の発言の中に、あなたを騙す要素はなかったはずですが」
「そうだろうよ。訊かれなかったから言わなかっただけだもんな。けどな、おまえの躰が生身に近い状態か否かで、こっちの対応のしかたも変わってくるんだよ。事前に申告はしておくべきだろうが」
「いま仰ったふたつの点でお怒りなのでしたら、私に生殖能力がないことは間違いありません。快楽に関する情動や生理的作用、大脳皮質における脳内物質の分泌といった面でも、私の存在意義とのあいだで必要性が認められなかったため、あらかじめ取り除かれています」
「けど、オリジナルが存在したってことは、中性だったり無性別だったりってことはないんだろ?」
「生物学的分類でいうなら、あなたとおなじ、男性ということになります」
「その見てくれは、オリジナルのコピーか?」
「本来の遺伝子保有者の容姿が引き継がれているのか、という意味であれば、そのとおりです」
「マジかよ……」
男はげんなりとぼやいた。
「テーブルマナーも学習済みか?」
ナイフとフォークを器用に操り、口に運ぶ動作がじつにさまになっているので尋ねると、リュークはそのとおりだと首肯した。
「外の世界に出ても、日常生活に支障が出ない程度の常識は身につけておくようにと訓練を受けました」
「なるほどね」
いくぶん苦笑気味に応じたシリルに、美貌のヒューマノイドは「それから」と意外なことを口にした。
「私のオリジナルのデータも、少しですが、その手助けになっているかもしれません」
「オリジナル?」
「はい。私はかつて存命した、ある人物の遺伝子データをもとに造られておりますので」
「なんだそれ。おまえ、完全な人造物じゃないのか?」
「ご質問の意味が、有機的部分を含むか含まないか、ということであれば、私の場合、ニュアンスとしてはバイオロイドに近いものと言えるかと思います」
シリルはその回答に愕然とした。
「ちょっと待て。それじゃ、おまえ、生身の部分もあるってのか?」
「肉体の構造部分に関しては、6割がた、あなたがた人間とおなじ構造を持っています」
聞いた途端、シリルはテーブルに突っ伏した。
「シリル?」
怪訝そう――抑揚は殆どなかったが――に声をかけられ、男はガバッと起き上がると、身を乗り出して目の前の麗人に詰め寄った。
「おまえなっ! そういうことはもっと早く言えってんだよっ」
「なぜ怒っているのですか? 私の言動の中に、なにか問題でも?」
「おおありだよっ。おまえはじめに、『プログラムされた機能を超えて生命活動をおこなうことはない』とかなんとか言ってただろがっ」
「はい。残り4割は生身ではありませんので。私の『生命活動』に関する重要な機能はすべてそちらに集まっています。私の言動は、そこにプログラムされた内容をもとに出力される仕組みとなっておりますので」
回答を聞くなり脱力して、シリルは背後の背凭れにドサッと寄りかかった。ついでにそばを通りかかった店員を呼び止め、ウィスキーをロックで追加注文する。
「シリル、先程1杯だけだと――」
「うるせー。この先のこと考えたら飲まずにいられるか」
不機嫌に応じて、やれやれと吐息を漏らした。
「最初の不十分すぎる説明に加えてセックス機能がついてないだの、栄養補給が必要ないだの言うから、危うく騙されるとこだったじゃねえか」
「仰る意味がわかりません。私の発言の中に、あなたを騙す要素はなかったはずですが」
「そうだろうよ。訊かれなかったから言わなかっただけだもんな。けどな、おまえの躰が生身に近い状態か否かで、こっちの対応のしかたも変わってくるんだよ。事前に申告はしておくべきだろうが」
「いま仰ったふたつの点でお怒りなのでしたら、私に生殖能力がないことは間違いありません。快楽に関する情動や生理的作用、大脳皮質における脳内物質の分泌といった面でも、私の存在意義とのあいだで必要性が認められなかったため、あらかじめ取り除かれています」
「けど、オリジナルが存在したってことは、中性だったり無性別だったりってことはないんだろ?」
「生物学的分類でいうなら、あなたとおなじ、男性ということになります」
「その見てくれは、オリジナルのコピーか?」
「本来の遺伝子保有者の容姿が引き継がれているのか、という意味であれば、そのとおりです」
「マジかよ……」
男はげんなりとぼやいた。
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