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第2章 波乱の幕開け
第2話(2)
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シリルの所有機は、仕事の状況に応じて所有者登録の内容を偽造できる仕掛けになっていた。だが、代用機を使えば、その機体をシリル・ヴァーノンが借り受けていることが明白な事実として記録に残ってしまう。そればかりか、シリルの操縦技術に合わせて仕込まれたもろもろの戦闘用の装備すらひとつも搭載されていない、丸腰同然の状態になることも避けられなかった。
いかに王都までの移動時間を短縮できたところで、ここにいるので狙ってくださいと言わんばかりの無防備な姿をさらけ出したのでは意味がない。なにより、修理を請け負う業者に、敵の手がまわっていないとは考えにくかった。そうなれば、代用機にどんな仕掛けがされるともかぎらず、修理に出した愛機そのものにさえ不用意な手が加えられないともかぎらない。ざっと見たかぎり、不具合箇所はジェットエンジンへの切り替え機能のみ。その不具合を起点に、イーグルワン自体が故障する可能性はない以上、たとえ移動時間がかかろうとも、愛機を手もとに残すことこそが最善と思われた。
シリルのその説明を、生まれたてのヒューマノイドは素直に受け容れた。
半日をともに過ごしてみてわかったのは、世間知らずであるがゆえに理解が及ばないことは多々あるが、きちんと理を説いて説明さえすれば、それを理解し、ただちに学習する優秀な機能が備わっているということである。いわば、無知ではあるが、バカではないといったところか。インプットした情報を自分なりのパラダイムに振り分け、別の情報と照合して独自に判断し、結論づける能力にも優れている。融通の利かなさはあるが、生真面目な幼稚園児くらいに思っておけばたいして気にならなかった。なにより、自己主張もなく、必要以上にうるさくないのもよかった。
「食事のあとは、徒歩で宿泊先まで移動するのですか?」
唐突な問いかけに、グラスを口許に運びかけていたシリルの手が止まった。
なぜそんな質問が発せられたのかは、おおまかな性格を把握したあとなのでおおよその見当はついた。シリルが口にしようとしていたのは、食前酒だった。
「いや、イーグルを放置するわけにはいかない。車移動だ」
「飲酒運転は法律で禁じられています」
模範生の見本のような注意に、シリルは肩を竦めた。
「大事な預かりもんがあるってのに、正体なくすほど飲まねえよ。今日1日の労働の対価だ。1杯ぐらい見逃してくれ」
シリルの言葉を聞くと、精巧な造りのヒューマノイドはあっさり引き下がった。
リュークは、シリルに対して驚くほど従順だった。人間に対して、あまり従順すぎるのもどうかと気になりはしたが、すべての人間におなじように従順なわけでなく、自分を王都へ運ぶ人間の言うことには殊更素直に従うよう、事前に研究所の職員に言い含められていたのだという。
いかに王都までの移動時間を短縮できたところで、ここにいるので狙ってくださいと言わんばかりの無防備な姿をさらけ出したのでは意味がない。なにより、修理を請け負う業者に、敵の手がまわっていないとは考えにくかった。そうなれば、代用機にどんな仕掛けがされるともかぎらず、修理に出した愛機そのものにさえ不用意な手が加えられないともかぎらない。ざっと見たかぎり、不具合箇所はジェットエンジンへの切り替え機能のみ。その不具合を起点に、イーグルワン自体が故障する可能性はない以上、たとえ移動時間がかかろうとも、愛機を手もとに残すことこそが最善と思われた。
シリルのその説明を、生まれたてのヒューマノイドは素直に受け容れた。
半日をともに過ごしてみてわかったのは、世間知らずであるがゆえに理解が及ばないことは多々あるが、きちんと理を説いて説明さえすれば、それを理解し、ただちに学習する優秀な機能が備わっているということである。いわば、無知ではあるが、バカではないといったところか。インプットした情報を自分なりのパラダイムに振り分け、別の情報と照合して独自に判断し、結論づける能力にも優れている。融通の利かなさはあるが、生真面目な幼稚園児くらいに思っておけばたいして気にならなかった。なにより、自己主張もなく、必要以上にうるさくないのもよかった。
「食事のあとは、徒歩で宿泊先まで移動するのですか?」
唐突な問いかけに、グラスを口許に運びかけていたシリルの手が止まった。
なぜそんな質問が発せられたのかは、おおまかな性格を把握したあとなのでおおよその見当はついた。シリルが口にしようとしていたのは、食前酒だった。
「いや、イーグルを放置するわけにはいかない。車移動だ」
「飲酒運転は法律で禁じられています」
模範生の見本のような注意に、シリルは肩を竦めた。
「大事な預かりもんがあるってのに、正体なくすほど飲まねえよ。今日1日の労働の対価だ。1杯ぐらい見逃してくれ」
シリルの言葉を聞くと、精巧な造りのヒューマノイドはあっさり引き下がった。
リュークは、シリルに対して驚くほど従順だった。人間に対して、あまり従順すぎるのもどうかと気になりはしたが、すべての人間におなじように従順なわけでなく、自分を王都へ運ぶ人間の言うことには殊更素直に従うよう、事前に研究所の職員に言い含められていたのだという。
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