セイクリッド・レガリア~熱砂の王国~

西崎 仁

文字の大きさ
上 下
23 / 161
第2章 波乱の幕開け

第2話(2)

しおりを挟む
 シリルの所有機は、仕事の状況に応じて所有者登録の内容を偽造できる仕掛けになっていた。だが、代用機を使えば、その機体をシリル・ヴァーノンが借り受けていることが明白な事実として記録に残ってしまう。そればかりか、シリルの操縦技術に合わせて仕込まれたもろもろの戦闘用の装備すらひとつも搭載されていない、丸腰同然の状態になることも避けられなかった。

 いかに王都までの移動時間を短縮できたところで、ここにいるので狙ってくださいと言わんばかりの無防備な姿をさらけ出したのでは意味がない。なにより、修理を請け負う業者に、敵の手がまわっていないとは考えにくかった。そうなれば、代用機にどんな仕掛けがされるともかぎらず、修理に出した愛機そのものにさえ不用意な手が加えられないともかぎらない。ざっと見たかぎり、不具合箇所はジェットエンジンへの切り替え機能のみ。その不具合を起点に、イーグルワン自体が故障する可能性はない以上、たとえ移動時間がかかろうとも、愛機を手もとに残すことこそが最善と思われた。

 シリルのその説明を、生まれたてのヒューマノイドは素直に受け容れた。
 半日をともに過ごしてみてわかったのは、世間知らずであるがゆえに理解が及ばないことは多々あるが、きちんと理を説いて説明さえすれば、それを理解し、ただちに学習する優秀な機能が備わっているということである。いわば、無知ではあるが、バカではないといったところか。インプットした情報を自分なりのパラダイムに振り分け、別の情報と照合して独自に判断し、結論づける能力にも優れている。融通の利かなさはあるが、生真面目な幼稚園児くらいに思っておけばたいして気にならなかった。なにより、自己主張もなく、必要以上にうるさくないのもよかった。


「食事のあとは、徒歩で宿泊先まで移動するのですか?」

 唐突な問いかけに、グラスを口許に運びかけていたシリルの手が止まった。
 なぜそんな質問が発せられたのかは、おおまかな性格を把握したあとなのでおおよその見当はついた。シリルが口にしようとしていたのは、食前酒だった。

「いや、イーグルを放置するわけにはいかない。車移動だ」
「飲酒運転は法律で禁じられています」

 模範生の見本のような注意に、シリルは肩を竦めた。

「大事な預かりもんがあるってのに、正体なくすほど飲まねえよ。今日1日の労働の対価だ。1杯ぐらい見逃してくれ」

 シリルの言葉を聞くと、精巧な造りのヒューマノイドはあっさり引き下がった。
 リュークは、シリルに対して驚くほど従順だった。人間に対して、あまり従順すぎるのもどうかと気になりはしたが、すべての人間におなじように従順なわけでなく、自分を王都へ運ぶ人間の言うことには殊更素直に従うよう、事前に研究所の職員に言い含められていたのだという。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...