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第2章 波乱の幕開け
第2話(1)
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シリルがふたたびミスリルに戻ったのは、キュプロスを出た13時間後のことだった。
往路が1時間ちょっとであったことを考えると、信じがたい移動時間である。シリル自身、たかだか1000キロにも満たない距離を、これほど時間をかけて移動したのははじめての経験だった。否、直線にすれば900キロメートル程度の距離だが、両都市間に聳える山岳地帯を迂回したため、移動距離そのものは1200キロほどになったかもしれない。だが、それにしても、である。
「クッソ、シリル様ともあろう者が情けねえっ」
ミスリルの街に到着してイーグルワンを停めたシリルは、地上車仕様の愛機から降りるなり、臀部をさすりながらぼやいた。戻りたくて戻ったわけではないが、直近の街がこの軍事都市だったのだから、やむを得ない選択だった。
「おい、おまえ、食事はできるんだよな?」
おなじく助手席から降り立った相手に、そっけなく尋ねる。その問いかけに、問われた相手も単調な反応で薄く応じた。
「はい。ですが、栄養補給は殊更必要ありませんので、余分な食事代をかけることもないかと」
「俺が困るんだよ」
シリルは苦々しげに呟いた。
「おまえみたいに繊弱なの連れ歩いて、俺だけバカみたいに食ってたら悪目立ちするだろうが」
シリルの言葉に、クリスタル・ブルーの双眸が不思議そうに瞬く。シリルは「いいから付き合え」と面倒くさそうに美貌のヒューマノイドをうながした。テッドの電話で起こされてからこちら、シリルが口にしたのはキュプロスでのコーヒーひと口と、イーグルワンに載せてあった非常食と水のみ。空腹も限界だった。
深夜営業の飲食店は、日付が変わった時刻にもかかわらず比較的賑わっていた。もっとも、その殆どが酔客といったところで、皆、いい感じにできあがっている。シリルがリュークを連れて入店すると、彼らの目はいっせいに桁外れの美貌の持ち主であるヒューマノイドへと注がれ、釘付けになった。なかには下品に口笛を吹いて囃し立てる者もいる。一瞥して、あまり質のよくない酔いかたをしている連中が相当数いることも看て取ったが、シリルは気にせず空いている席に着き、適当にふたりぶんの食事を注文した。
「とりあえず今夜は、このあと近場に宿をとってミスリルに1泊する。明日はおまえの着る物も含めて、必要な物を調達してから出発だ。陸路での移動になるから、王都までは1カ月くらい見ておけ」
「わかりました」
素直に頷いたところを見ると、いまの説明内容で疑問に思う箇所はなかったのだろう。
キュプロスからの道中、王都に向かうまえにイーグルワンを修理しないのかと問われたが、シリルはそれをきっぱりと否定した。イーグルワンは機体そのものが稀少であるうえ、シリルの所有する機体は殊に特別なカスタマイズが施されている。備品の取り寄せに時間がかかるばかりか、修理後の調整などにも相応の手間がかかることが予想された。その間、希望すれば代用機も利用できるが、いまのこの状況を考えれば、その選択は得策とは思えなかった。
往路が1時間ちょっとであったことを考えると、信じがたい移動時間である。シリル自身、たかだか1000キロにも満たない距離を、これほど時間をかけて移動したのははじめての経験だった。否、直線にすれば900キロメートル程度の距離だが、両都市間に聳える山岳地帯を迂回したため、移動距離そのものは1200キロほどになったかもしれない。だが、それにしても、である。
「クッソ、シリル様ともあろう者が情けねえっ」
ミスリルの街に到着してイーグルワンを停めたシリルは、地上車仕様の愛機から降りるなり、臀部をさすりながらぼやいた。戻りたくて戻ったわけではないが、直近の街がこの軍事都市だったのだから、やむを得ない選択だった。
「おい、おまえ、食事はできるんだよな?」
おなじく助手席から降り立った相手に、そっけなく尋ねる。その問いかけに、問われた相手も単調な反応で薄く応じた。
「はい。ですが、栄養補給は殊更必要ありませんので、余分な食事代をかけることもないかと」
「俺が困るんだよ」
シリルは苦々しげに呟いた。
「おまえみたいに繊弱なの連れ歩いて、俺だけバカみたいに食ってたら悪目立ちするだろうが」
シリルの言葉に、クリスタル・ブルーの双眸が不思議そうに瞬く。シリルは「いいから付き合え」と面倒くさそうに美貌のヒューマノイドをうながした。テッドの電話で起こされてからこちら、シリルが口にしたのはキュプロスでのコーヒーひと口と、イーグルワンに載せてあった非常食と水のみ。空腹も限界だった。
深夜営業の飲食店は、日付が変わった時刻にもかかわらず比較的賑わっていた。もっとも、その殆どが酔客といったところで、皆、いい感じにできあがっている。シリルがリュークを連れて入店すると、彼らの目はいっせいに桁外れの美貌の持ち主であるヒューマノイドへと注がれ、釘付けになった。なかには下品に口笛を吹いて囃し立てる者もいる。一瞥して、あまり質のよくない酔いかたをしている連中が相当数いることも看て取ったが、シリルは気にせず空いている席に着き、適当にふたりぶんの食事を注文した。
「とりあえず今夜は、このあと近場に宿をとってミスリルに1泊する。明日はおまえの着る物も含めて、必要な物を調達してから出発だ。陸路での移動になるから、王都までは1カ月くらい見ておけ」
「わかりました」
素直に頷いたところを見ると、いまの説明内容で疑問に思う箇所はなかったのだろう。
キュプロスからの道中、王都に向かうまえにイーグルワンを修理しないのかと問われたが、シリルはそれをきっぱりと否定した。イーグルワンは機体そのものが稀少であるうえ、シリルの所有する機体は殊に特別なカスタマイズが施されている。備品の取り寄せに時間がかかるばかりか、修理後の調整などにも相応の手間がかかることが予想された。その間、希望すれば代用機も利用できるが、いまのこの状況を考えれば、その選択は得策とは思えなかった。
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