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第2章 波乱の幕開け
第1話(3)
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事故現場の映像を、ケネスもまた、つぶさに確認した。小爆発を繰り返し、熱風吹き荒れるあの現場の中に、いくら空陸両用機の中でも最高ランクの性能を誇る機体とはいえ、乗り入れること自体、正気の沙汰とは思えなかった。それも、エンジンの状態を地上車とジェット機の中間にあたるエアカーの状態でなど、まともな人間ならばまずあり得ない選択肢である。航空関連の専門家も呼び寄せ、くだんの映像を見せて意見を求めたが、全員が全員絶句し、合成映像ではないのかと逆に何度も確認される始末だった。
シリル・ヴァーノン。
噂には聞いていたが、これほどの技能の持ち主とは思わなかった。
滑走なしでのエアカーの浮上。そこから狭い空間内への信じられない速度での飛びこみ。危うげなく機体を操り、砲弾による攻撃が掠ってなお、瞬時にバランスを立てなおして、ついには逃げきってみせた。普通の人間ならば、この間に何度死んでいるかわからない。それどころか、事故現場の真っ只中に機体を着陸させることさえ不可能だっただろう。ニュートラルで不安定なエアカーのエンジン出力では、熱風に煽られた瞬間に操縦桿を持っていかれ、制御不能となることは必至である。爆発により飛んでくる破片ひとつで地面に真っ逆さまということもあり得る状況だった。
男が超人じみていたのは、そればかりではない。あれほどの凄まじい爆発と建物の倒壊による爆音や衝撃波が周辺の空気を揺るがしつづけた現場にあって、あの男は正確に、自分たちを狙うスナイパーらの存在を感知していた。それどころか、先に走らせたヒューマノイドを攻撃から護り、みずからも躱して逆に反撃さえしてみせた。走りながら銃口を向けた先は3方向。煙と粉塵が舞う一帯は、防塵マスクを装着しただけの状態では視界などゼロにも等しいありさまだったはずである。そんな中で、攻撃が仕掛けられたと思われる方角に無造作に撃ち返した。ただそれだけの行為にみえた。だが――
専用の暗視スコープを装着し、安全な場所から獲物を狙っていたスナイパーたちは、あの瞬間に全員、仕留められていた。
味方にできるものならば、いくら金を積んでもいいくらいである。
だが、男は決して組織に与し、権力に尻尾を振って他者に迎合することはないという。
どこまでも孤高を貫き、自由でありつづけることに価値を置いて、鎖で繋がれることに死に物狂いで抗い抜く。そんな性情の持ち主であるらしかった。
飼い馴らせるものならば、たっぷり時間をかけて、とことんまで従順さを躾け、服従させるのも悪くなかった。気性の激しい、誇り高い悍馬は嫌いではない。だが、いまはそんな悠長なことを言っている場合ではなかった。
シリル・ヴァーノン。
噂には聞いていたが、これほどの技能の持ち主とは思わなかった。
滑走なしでのエアカーの浮上。そこから狭い空間内への信じられない速度での飛びこみ。危うげなく機体を操り、砲弾による攻撃が掠ってなお、瞬時にバランスを立てなおして、ついには逃げきってみせた。普通の人間ならば、この間に何度死んでいるかわからない。それどころか、事故現場の真っ只中に機体を着陸させることさえ不可能だっただろう。ニュートラルで不安定なエアカーのエンジン出力では、熱風に煽られた瞬間に操縦桿を持っていかれ、制御不能となることは必至である。爆発により飛んでくる破片ひとつで地面に真っ逆さまということもあり得る状況だった。
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専用の暗視スコープを装着し、安全な場所から獲物を狙っていたスナイパーたちは、あの瞬間に全員、仕留められていた。
味方にできるものならば、いくら金を積んでもいいくらいである。
だが、男は決して組織に与し、権力に尻尾を振って他者に迎合することはないという。
どこまでも孤高を貫き、自由でありつづけることに価値を置いて、鎖で繋がれることに死に物狂いで抗い抜く。そんな性情の持ち主であるらしかった。
飼い馴らせるものならば、たっぷり時間をかけて、とことんまで従順さを躾け、服従させるのも悪くなかった。気性の激しい、誇り高い悍馬は嫌いではない。だが、いまはそんな悠長なことを言っている場合ではなかった。
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