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第2章 波乱の幕開け
第1話(1)
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「バカなっ! あの状況下で失敗しただとっ!?」
室内に怒声が響いた。
報告者はひたすら頭を低くして怒りを受け止めた。
「誠に申し訳ございません」
「詫びて済む問題かっ。いったいこの始末、どうつけるつもりだっ」
声を荒らげるほどに、報告を受けた側の怒りの感情が増していく。
王室管理局の長、ジルベルト・ケネス。年齢はすでに50代に突入しているが、長身痩躯の、いかにも切れ者といった風情の男である。公の場では終始絶やすことのない愛想のいい笑顔が、いまは見事に消え去り、神経質そうな細い眉が吊り上がっていた。同時に、引き結んだ口許は、感情の昂ぶりを示すがごとくヒクヒクと痙攣していた。
「なんのために、ああまで大々的に過激テロを装った大事故を仕組んだと思う。たかだかヒューマノイド1体を回収できなかったばかりか、いちばん厄介な相手におめおめと鼻先で奪われるとは!」
「申し訳ありません。まさか、あのような危険な現場に機体を乗り入れるなど、夢にも思いませんで」
「ヒューマノイドが単独で逃走を図ったのも、想定の範囲外か?」
「人間を差し置いて自身の保身を図るなどということは、これまでの個体では考えられないことでしたから」
「馬鹿者っ!!」
ケネスは今度こそ、こめかみに青筋を立ててヒステリックに眼前の部下を怒鳴りつけた。青白い顔で足もとの絨毯を見つめていた第一秘書ミハル・ハロネンの両肩が、途端にビクッと慄える。日頃、上司の落とす雷には慣れているはずの彼も、さすがに小太りの躰を小さく縮め、その額から冷や汗が吹き出るのを抑えることができなかった。
今回の失敗が、始末書程度で済まないことはあきらかだった。
世界最高峰と名高いシュミット研究所の建物が、もとの形すら想像もできないほど無惨に、勤務中の職員ごと吹き飛ばされたのである。世界中の注目を集めることとなった大惨事を引き起こしておいて失敗に終わったなど、到底許されることではなかった。
ハロネンひとりの責任ではないにせよ、今回の件は、ケネスの指示を受けて実行者らに命令を下す立場にあったことは間違いない。事が明るみになるような事態にでもなれば、組織の長であるケネスにかわって王室管理局長官の右腕であるハロネンが首謀者の名乗りを上げ、全責任を取らされることになるのは目に見えていた。場合によっては、『自殺』というかたちで決着をつけさせられるかもしれなかった。
烈火のごとき王室管理局長官の怒りのまえで、もともと表情の乏しいハロネンの四角い顔は、いまや土気色の土偶といった様相を呈していた。
室内に怒声が響いた。
報告者はひたすら頭を低くして怒りを受け止めた。
「誠に申し訳ございません」
「詫びて済む問題かっ。いったいこの始末、どうつけるつもりだっ」
声を荒らげるほどに、報告を受けた側の怒りの感情が増していく。
王室管理局の長、ジルベルト・ケネス。年齢はすでに50代に突入しているが、長身痩躯の、いかにも切れ者といった風情の男である。公の場では終始絶やすことのない愛想のいい笑顔が、いまは見事に消え去り、神経質そうな細い眉が吊り上がっていた。同時に、引き結んだ口許は、感情の昂ぶりを示すがごとくヒクヒクと痙攣していた。
「なんのために、ああまで大々的に過激テロを装った大事故を仕組んだと思う。たかだかヒューマノイド1体を回収できなかったばかりか、いちばん厄介な相手におめおめと鼻先で奪われるとは!」
「申し訳ありません。まさか、あのような危険な現場に機体を乗り入れるなど、夢にも思いませんで」
「ヒューマノイドが単独で逃走を図ったのも、想定の範囲外か?」
「人間を差し置いて自身の保身を図るなどということは、これまでの個体では考えられないことでしたから」
「馬鹿者っ!!」
ケネスは今度こそ、こめかみに青筋を立ててヒステリックに眼前の部下を怒鳴りつけた。青白い顔で足もとの絨毯を見つめていた第一秘書ミハル・ハロネンの両肩が、途端にビクッと慄える。日頃、上司の落とす雷には慣れているはずの彼も、さすがに小太りの躰を小さく縮め、その額から冷や汗が吹き出るのを抑えることができなかった。
今回の失敗が、始末書程度で済まないことはあきらかだった。
世界最高峰と名高いシュミット研究所の建物が、もとの形すら想像もできないほど無惨に、勤務中の職員ごと吹き飛ばされたのである。世界中の注目を集めることとなった大惨事を引き起こしておいて失敗に終わったなど、到底許されることではなかった。
ハロネンひとりの責任ではないにせよ、今回の件は、ケネスの指示を受けて実行者らに命令を下す立場にあったことは間違いない。事が明るみになるような事態にでもなれば、組織の長であるケネスにかわって王室管理局長官の右腕であるハロネンが首謀者の名乗りを上げ、全責任を取らされることになるのは目に見えていた。場合によっては、『自殺』というかたちで決着をつけさせられるかもしれなかった。
烈火のごとき王室管理局長官の怒りのまえで、もともと表情の乏しいハロネンの四角い顔は、いまや土気色の土偶といった様相を呈していた。
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