17 / 161
第1章 機械仕掛けの神
第4話(6)
しおりを挟む
「とりあえず、公的機関に2方向から追いまわされるのだけは勘弁してもらおうか」
銜え煙草で端末を操作したシリルは、テッドから送られてきた契約書を呼び出した。
契約を取り交わす当事者の欄が空白となった文書にざっと目を通し、無造作にパネルにタッチする。生体情報を読みこんだ端末は、ただちにそこから入手した内容をデータ化して契約文書内に情報を反映させた。
受託欄に自分の名前が記されたのを確認したシリルは、末尾の返送ボタンをふたたびタッチする。本来であれば、委託側と直接細かな契約内容を確認して双方の意見を擦り合わせ、合意を得たうえでの契約締結となる。だが今回は、不測の事態が発生した中でのやむを得ない契約ということで、契約書内に設けられていた『仮契約』のチェック欄にマークを入れることで対応することとした。
「ったく、テッドの持ってきやがる話に碌なのはねえな」
小さくぼやいた男は、操縦桿わきに備えつけられたアッシュトレイで煙草の火を揉み消すと、あらためて助手席に座る血の通わない麗人を顧みた。
「おまえ、名前は?」
「デウス・エクス・マキナ=プロトタイプHCです。ミスター・ヴァーノン」
「俺に早口言葉やらせる気か。そりゃ名前じゃなくて型番だろが。研究者のあいだで通ってた呼び名とか愛称はねえのかよ」
「それでしたら、『クラヴィス』と」
―― 鍵 、ねえ……。
「ミスター・ヴァーノン?」
「あ~、おまえ、そのかたっ苦しい呼びかたやめろ。シリルだ」
「わかりました、シリル」
「でもって、おまえは……」
人の姿を模して造っておきながら、道具と見做すやり口が気に入らなかった。
なんらかの筋書きの中で、『鍵』となる用途を割り振られた高性能のヒューマノイド。
開発にあたって莫大な費用を注いだにせよ、精巧すぎる人形の存在は、どんな理由があろうと趣味がいいとは言いがたかった。そんな連中に倣うなど、シリルの矜恃が潔しとしない。
「そうだな」
呟いた男は、思案をめぐらせた。
黒煙と粉塵が乱れ舞うなか引き寄せた、一点の曇りもないクリスタルの耀き――
「『リューク』――これでいくか」
「シリル?」
「リューク・クラヴィス――いまからそれが、おまえの名前だ。俺が請け負ったからには、きっちり無傷でおまえを王都まで連れてってやるよ。よろしくな、相棒」
腹をくくった男の晴れやかな笑みを、クリスタル・ブルーの煌めきを放つ美しい双眸が謐かに見返した。
銜え煙草で端末を操作したシリルは、テッドから送られてきた契約書を呼び出した。
契約を取り交わす当事者の欄が空白となった文書にざっと目を通し、無造作にパネルにタッチする。生体情報を読みこんだ端末は、ただちにそこから入手した内容をデータ化して契約文書内に情報を反映させた。
受託欄に自分の名前が記されたのを確認したシリルは、末尾の返送ボタンをふたたびタッチする。本来であれば、委託側と直接細かな契約内容を確認して双方の意見を擦り合わせ、合意を得たうえでの契約締結となる。だが今回は、不測の事態が発生した中でのやむを得ない契約ということで、契約書内に設けられていた『仮契約』のチェック欄にマークを入れることで対応することとした。
「ったく、テッドの持ってきやがる話に碌なのはねえな」
小さくぼやいた男は、操縦桿わきに備えつけられたアッシュトレイで煙草の火を揉み消すと、あらためて助手席に座る血の通わない麗人を顧みた。
「おまえ、名前は?」
「デウス・エクス・マキナ=プロトタイプHCです。ミスター・ヴァーノン」
「俺に早口言葉やらせる気か。そりゃ名前じゃなくて型番だろが。研究者のあいだで通ってた呼び名とか愛称はねえのかよ」
「それでしたら、『クラヴィス』と」
―― 鍵 、ねえ……。
「ミスター・ヴァーノン?」
「あ~、おまえ、そのかたっ苦しい呼びかたやめろ。シリルだ」
「わかりました、シリル」
「でもって、おまえは……」
人の姿を模して造っておきながら、道具と見做すやり口が気に入らなかった。
なんらかの筋書きの中で、『鍵』となる用途を割り振られた高性能のヒューマノイド。
開発にあたって莫大な費用を注いだにせよ、精巧すぎる人形の存在は、どんな理由があろうと趣味がいいとは言いがたかった。そんな連中に倣うなど、シリルの矜恃が潔しとしない。
「そうだな」
呟いた男は、思案をめぐらせた。
黒煙と粉塵が乱れ舞うなか引き寄せた、一点の曇りもないクリスタルの耀き――
「『リューク』――これでいくか」
「シリル?」
「リューク・クラヴィス――いまからそれが、おまえの名前だ。俺が請け負ったからには、きっちり無傷でおまえを王都まで連れてってやるよ。よろしくな、相棒」
腹をくくった男の晴れやかな笑みを、クリスタル・ブルーの煌めきを放つ美しい双眸が謐かに見返した。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる