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第1章 機械仕掛けの神
第4話(5)
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「ともあれ、仮契約を結んでおまえを王都に届けないことには、俺は完全なお尋ね者ってわけだな?」
「はい」
いまでさえ大手を振っておもてを歩ける堅気者とは縁遠いというのに、これで本当に指名手配されて警察に追いまわされることにでもなったのではシャレにならない。うっかり余計なお荷物を抱えてしまったせいで、すでに正体不明の犯罪組織集団のブラックリストの筆頭に載せられていることは間違いないのだ。これ以上厄介な事態になることだけは避けたかった。
「で? 王都のどこへ届ければいいって?」
「それはまだ、私にもわかりません」
「そいつも機密事項に含まれてるってわけか」
たしかに、科学開発技術省のトップですら暗殺対象となった事案である。さまざまなことが事前に秘されているのは、当然の措置と言えるかもしれない。ついでに言うなら、相場を遙かに上回る今回の報酬額は、運搬物の価値に見合ったものとして設定されたわけでなく、相応の危険を伴うがゆえの生命の対価ということだったのだろう。
「……ったく、この俺が陸路使うとか、なんの冗談だよ。王都まで、どんだけかかると思ってんだ」
苦々しげに呟いた男は、取り出した煙草を銜えて火を点ける。そして、深々と煙を吐き出した。
「べつに知らなきゃそれでかまわんが、おまえを狙ってるのはどういう種類の連中だ?」
とくに答えを期待したわけではない。おそらくそれもまた、おいおい判明していくのだろうと思いつつ、頭に浮かんだ疑問をそのまま口にしただけだった。それと同時に、朝食を摂り損ねたことも思い出して眉間に皺が寄る。空の移動ならば、ひとっ飛びで最寄りのミスリルまで戻って食料を調達できるが、山越え込みでの陸移動となると、いったい何時間後になることか。
質問を投げたシリルの思考は、すでに今後のスケジュールと、王都に向けてたどるべき道のりへと移行していた。その耳に、ポツリとした回答が投げ返された。
「王室管理局です」
無言で顧みた男の視線を、平静に凪いだ眼差しが受け止めた。
なにかを言いかけた男は、その言葉を呑みこむとフッと口許を歪めた。
「了解。道中狙われるだけでなく、手ぐすね引いて待ち構える敵陣の中に、自分から飛びこんでいくことになるってわけだな」
うますぎる話には必ず裏がある。すでにイーグルワンの修理費用が発生していることは間違いない。これで本当に生命まで落として報酬をもらい損ねたのでは、到底割に合わなかった。
「はい」
いまでさえ大手を振っておもてを歩ける堅気者とは縁遠いというのに、これで本当に指名手配されて警察に追いまわされることにでもなったのではシャレにならない。うっかり余計なお荷物を抱えてしまったせいで、すでに正体不明の犯罪組織集団のブラックリストの筆頭に載せられていることは間違いないのだ。これ以上厄介な事態になることだけは避けたかった。
「で? 王都のどこへ届ければいいって?」
「それはまだ、私にもわかりません」
「そいつも機密事項に含まれてるってわけか」
たしかに、科学開発技術省のトップですら暗殺対象となった事案である。さまざまなことが事前に秘されているのは、当然の措置と言えるかもしれない。ついでに言うなら、相場を遙かに上回る今回の報酬額は、運搬物の価値に見合ったものとして設定されたわけでなく、相応の危険を伴うがゆえの生命の対価ということだったのだろう。
「……ったく、この俺が陸路使うとか、なんの冗談だよ。王都まで、どんだけかかると思ってんだ」
苦々しげに呟いた男は、取り出した煙草を銜えて火を点ける。そして、深々と煙を吐き出した。
「べつに知らなきゃそれでかまわんが、おまえを狙ってるのはどういう種類の連中だ?」
とくに答えを期待したわけではない。おそらくそれもまた、おいおい判明していくのだろうと思いつつ、頭に浮かんだ疑問をそのまま口にしただけだった。それと同時に、朝食を摂り損ねたことも思い出して眉間に皺が寄る。空の移動ならば、ひとっ飛びで最寄りのミスリルまで戻って食料を調達できるが、山越え込みでの陸移動となると、いったい何時間後になることか。
質問を投げたシリルの思考は、すでに今後のスケジュールと、王都に向けてたどるべき道のりへと移行していた。その耳に、ポツリとした回答が投げ返された。
「王室管理局です」
無言で顧みた男の視線を、平静に凪いだ眼差しが受け止めた。
なにかを言いかけた男は、その言葉を呑みこむとフッと口許を歪めた。
「了解。道中狙われるだけでなく、手ぐすね引いて待ち構える敵陣の中に、自分から飛びこんでいくことになるってわけだな」
うますぎる話には必ず裏がある。すでにイーグルワンの修理費用が発生していることは間違いない。これで本当に生命まで落として報酬をもらい損ねたのでは、到底割に合わなかった。
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