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第1章 機械仕掛けの神
第4話(3)
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「おまえがとんでもなく高性能だってことは、よくわかった。ついでに愛玩用でもないってこともな。だが、その見てくれとさっきの様子だと、戦闘用ってわけでもなさそうだな」
「はい。戦闘機能も備わっておりません」
「それじゃ、国家機密のデータでも蓄積されてるか?」
「それについては、お答えいたしかねます」
「なるほどな。一介の運び屋風情に明かせる内容でもなかったか」
口唇の端を皮肉に吊り上げた男に、玲瓏たる美貌のヒューマノイドは無表情を崩すことなく「いえ」と応じた。
「残念ながら、機密事項ゆえの厳重なロックがかけられているため、私自身にもその内容を現時点で確認することができません」
「なんとまあ……」
シリルは呆れ口調でぼやいた。
「私にわかるのは、王都に行かねばならないこと。そしてその任務を、当初の予定どおり、シリル・ヴァーノンに受任していただくことの2点のみです」
「……って言ったって、なあ」
シリルはふたたび天井を振り仰いで、深々と大息を漏らした。
「おまえ、ここから王都まで、どれだけの距離があるかわかるか?」
「キュプロスからエリュシオンまでの直線距離は1万6723キロメートル。そのキュプロスから現在地までは――」
「ああ、いい、わかった。そのとおりだよ。直線で約1万7000キロ。イーグル飛ばしゃ、途中で幾度か休憩入れたところで2日とかからない距離だ。通常なら、明日の昼まえにも王都入りできる。これで500万なら、こんなウマい話はねえ。だがな、それはあくまで、イーグルがまともに飛んだ場合の話なんだよ」
苛立たしげな男の様子を、ガラスのように透明なブルー・アイが無言で見返した。
ヒューマノイドロボティクス研究室の関係者のみならず、おなじ建物内に拠点を構えていた他の研究施設ごと吹き飛ばした残忍な手口。まるで容赦のない攻撃は、間違いなくこのヒューマノイドに向けられていた。そして行きがかり上、そのヒューマノイドをうっかり事故現場から回収してしまったシリルは、理由もわからぬまま謎のテロリストによる集中攻撃を仕掛けられる羽目になった。
イーグルワンを手足のように操る技術力がなければ、間違いなくあの場で蜂の巣にされ、死んでいただろう。
見事な操縦技術で危急の場を切り抜けたシリルであるが、高速でビルのあいだを飛行する際、機体の一部を、飛んできた砲弾が掠ったのを感知した。巧みに操縦桿を捌いて崩れかけたバランスを立てなおし、そのまま速度も高度も維持しつつゲートまでたどり着いたが、砲弾の掠った場所とエアカーのエンジン出力の数値の変動に、嫌な予感をおぼえた。そういう、当たってほしくない予感ほど的中するのが世の常理というものである。
ゲートを抜けてジェット機に切り替えようと操作したシリルは、操縦者ならではの勘が正確に愛機の不調箇所を見抜いていたことを再確認することとなった。イーグルワンは主の命令に、うんともすんとも応えなくなっていたのである。
「はい。戦闘機能も備わっておりません」
「それじゃ、国家機密のデータでも蓄積されてるか?」
「それについては、お答えいたしかねます」
「なるほどな。一介の運び屋風情に明かせる内容でもなかったか」
口唇の端を皮肉に吊り上げた男に、玲瓏たる美貌のヒューマノイドは無表情を崩すことなく「いえ」と応じた。
「残念ながら、機密事項ゆえの厳重なロックがかけられているため、私自身にもその内容を現時点で確認することができません」
「なんとまあ……」
シリルは呆れ口調でぼやいた。
「私にわかるのは、王都に行かねばならないこと。そしてその任務を、当初の予定どおり、シリル・ヴァーノンに受任していただくことの2点のみです」
「……って言ったって、なあ」
シリルはふたたび天井を振り仰いで、深々と大息を漏らした。
「おまえ、ここから王都まで、どれだけの距離があるかわかるか?」
「キュプロスからエリュシオンまでの直線距離は1万6723キロメートル。そのキュプロスから現在地までは――」
「ああ、いい、わかった。そのとおりだよ。直線で約1万7000キロ。イーグル飛ばしゃ、途中で幾度か休憩入れたところで2日とかからない距離だ。通常なら、明日の昼まえにも王都入りできる。これで500万なら、こんなウマい話はねえ。だがな、それはあくまで、イーグルがまともに飛んだ場合の話なんだよ」
苛立たしげな男の様子を、ガラスのように透明なブルー・アイが無言で見返した。
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イーグルワンを手足のように操る技術力がなければ、間違いなくあの場で蜂の巣にされ、死んでいただろう。
見事な操縦技術で危急の場を切り抜けたシリルであるが、高速でビルのあいだを飛行する際、機体の一部を、飛んできた砲弾が掠ったのを感知した。巧みに操縦桿を捌いて崩れかけたバランスを立てなおし、そのまま速度も高度も維持しつつゲートまでたどり着いたが、砲弾の掠った場所とエアカーのエンジン出力の数値の変動に、嫌な予感をおぼえた。そういう、当たってほしくない予感ほど的中するのが世の常理というものである。
ゲートを抜けてジェット機に切り替えようと操作したシリルは、操縦者ならではの勘が正確に愛機の不調箇所を見抜いていたことを再確認することとなった。イーグルワンは主の命令に、うんともすんとも応えなくなっていたのである。
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