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第1章 機械仕掛けの神

第3話(4)

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 前方で黒煙を噴き上げる現場と、ナビゲーション・システムが示す目的地とが一致する。研究所の権威と規模そのものを示すかのような巨大な建物は、敷地内の周囲の棟を巻きこんで、ほぼまるごと1棟がきれいに吹き飛んでいた。
 今回の依頼が、これでパーになったことは間違いない。だが、その依頼と眼前の爆破事故とが無関係であるとは、到底思えなかった。

 いったい、なにが起こったというのか。

 自分がなにに巻きこまれようとしていたのかを確認するため、シリルは速度と高度を維持しながら爆心地の周囲を旋回して様子を窺った。優れた動体視力を誇るその両眼が、不意にあるものをとらえた。


「あっ、おい、貴様! なにをしているっ!?」
「戻れっ! 入るんじゃないっ!!」

 現場に急行してきた消防や救急隊、警察関係者が集まる中、シリルは飛び交う怒号や制止の声を無視してイーグルワンを降下させ、事故現場の敷地内に着陸させた。
 機体のドアを開けると、熱風や煙が一気に吹きこんでくる。建物のあった一角で、ふたたび小爆発が起こって足もとに震動が伝わってきた。

 防護マスクを装着したシリルは、事故現場に降り立った。白煙と黒煙が入り乱れ、粉塵と炎が舞い上がる。そんな状況下で、先程、ほんの一瞬だけ視界がとらえたものの位置を見定めて目を凝らした。その先に、黒い影がわずかにチラリと浮かび上がった。
 反射的に地を蹴った男は、目標物との間合いを一気につめる。腕を伸ばして掴んだものを、迷わず自分のほうへと引き寄せた。

「大丈夫か?」

 熱風と煙、粉塵から守るように抱きこんだその躰は驚くほど華奢きゃしゃで、頼りなげな感触をシリルに伝えた。

 ――女?

 思いがけない展開に内心で驚きつつ声をかけたシリルは、さらにその相手を視認して言葉を失った。男の黒瞳が、驚愕に見開かれた。
 これほどの大事故に巻きこまれていながら、ほぼ無傷で現場内を彷徨さまよっていたと思われる生存者は、やわらかな煌めきを湛えるクリスタル・ブルーの双眸が印象的な、桁外れの美貌の持ち主だった。

「シリル・ヴァーノンですね?」

 取り乱すでなく、怯えるでなく、腕の中でじっと自分を見上げる相手の口からしずかな声が尋ねてきた。漏れ出たのは、女性の声音せいおんではなく、青年のそれだった。白い顔は煤や埃で汚れてはいたが、防護マスクなしの状態で、咳きこんだり苦痛を訴えてくる様子もない。
 落ち着いた、というより、まるで感情そのものが欠落したかのような、不気味な静寂を湛えた不審な人物。

 作り物めいた美貌を見下ろすうち、シリルの背筋にゾクリと冷たい悪寒が走り抜けた。
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