奇跡のクマと勇者の話

西崎 仁

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6 夢で会いましょう

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 目を開けると、先程同様、間近からこちらを覗きこむ顔があった。だがそれは、たったいままで一緒だったガキのものではなく、母親のものだった。

「あ……、え? ――あれ……?」
「直之っ!」

 目が合った途端、不安げに揺れていた母親の瞳が大きく見開き、直後に顔全体がくしゃりと歪んだ。

 ――なんだ……?

「直之っ! 直之っ。心配したのよっ。あんたって子はもうっ。よかったっ! ほんとによかった……っ」

 肩口に顔をうずめるようにして母親が泣き崩れる。茫然とする目に、白い天井が映った。
 白い天井。埋めこまれたカーテンレール。
 目に映る光景は、先程とまったく変わらない。

 ――病院?

 戸惑いながら視線を巡らせると、少し離れた位置からやはりこちらを覗きこんでいた父親と目が合った。
 声をかけるまえに、その目が逸らされる。

「先生、呼んでこよう」

 赤い目を誤魔化すように顔を背け、親父はそのまま背を向けた。そして、そそくさと出ていった。
 自分が置かれている状況がうまく呑みこめず、茫然とする。


『おじちゃん、奇跡は必ず起こるよ』

 あいつは、どこへ行った……?

 だれかに訊きたくても、だれに尋ねればいいのかわからい。それどころか、この現状を、どう受け止めればいいのかすらもわからなかった。



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