どこかで見たような異世界物語

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第十三章

閑話 北条と吸収スキル その2

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≪スキル吸収 種別:レジェンドスキル≫


 相手のスキルを吸収出来るという、"スキル吸収"のスキルは、"身体ステータス吸収"と同様に、スキルそのものを吸収する事は出来ない。
 つまり、スキルには個別に熟練度が設定されているが、相手の数値が下限の1.00になるまで吸収は出来るが、それ以上は吸収する事が可出来なくなるという事だ。

 そして吸収した側の北条は、吸収したスキルを獲得できる訳なのだが、それにはある程度の量の熟練度を吸わないといけない。
 その具体的な量だが、"スキル吸収"はレジェンドスキルゆえに、"解析"スキルで詳しく調べる事が出来ない。

 後に北条が試した結果として、相手のスキル熟練度1.40~1.50のスキルを、1.00になるまでチューチューと吸収すると、スキル一覧に名前が載って正式取得になるようだ。

 また、スキルを吸収した段階でスキルを覚えられなくても、その後にそのスキルの練習をすることで、スキルを覚える事は出来た。
 という事は、"解析"で見たときに表示されるスキルの熟練度は、内部的には1.00以下の数値もちゃんと存在しているという事だろう。
 そしてその内部数値が1.00に達した段階で、初めてステータスに表示される。


 こうして"スキル吸収"を覚え、吸収しまくっていた北条だが、最初の内は魔物が落とした魔石からスキルを吸収していた。
 しかし、魔石からとなるとスキルが一部破損していたり、元々持っていたはずの熟練度が大幅に減少してしまう。

 とはいえ、吸収系のスキルは全て相手と接触した状態でないと、発動が出来ない。
 まだ戦闘能力に乏しかったこの頃の北条では、間近まで近寄って直に触れるというのはリスキーだった。

 実際最初は攻撃を喰らうの前提で、ケイブバットに自分の腕を噛みつかせ、"生命力吸収"のスキルを使ったりもしていた。
 しかしこのままではもっとやばい敵が現れた場合、接近して吸収系スキルを使うのは厳しくなる。

 そこで北条が最初編み出して実践したのが、『装備も体の一部』理論だった。
 これも漫画からの知識であったが、なんだかんだ言ってこの世界では、こうした発想が役に立つことが往々にして存在する。

 北条が参考にしたのは、体の周りだけを魔力や気力で覆って戦うのではなく、手にしていた武器の周囲にも気力や魔力を張り巡らせる事で、攻撃力を上げるといったものだ。

 この理論の実践のため、北条は最初のゴブリン罠部屋でドロップとしてゴブリンランスを、メイン武器として使う事に決めた。
 剣よりリーチの長い槍の先端で魔物に触れ、そこから吸収系スキルを発動させる。

(……おし! どうやら上手くいったようだ)

 この目論見は成功し、わざわざ自分の手で触れなくても槍で触れた魔物に吸収系スキルを使えるようになった。
 ……のだが、

(アカン。確かに"生命力吸収"は発動できるけど、"身体ステータス吸収"と"スキル吸収"を発動してる間に、魔物のHPが持たずに死んでしまう)

 槍で触れるということは、基本的に槍先で相手を突くという事であり、その時相手にしていたHランクのケイブバットなどは、それだけで瀕死の重傷になってしまう。
 かといって下手に加減すると、敵意の高いダンジョンの魔物は我武者羅に攻撃をしかけてくる。


 今後の事も考えると、更に相手との接触方法について考えた方が良さそうだ。
 そう判断した北条は、これまでに吸収したスキルを確認して、新たな接触方法を生み出すことになる。
 それは、ジャイアントスパイダーの持っているスキルが齎してくれた。

 蜘蛛系の魔物は、自前の体から出す糸とは別に、"粘糸"や"硬糸"などのスキルも持っている。
 これらのスキルは、元々糸を吐き出す能力を持っている蜘蛛の魔物が使えば、より糸の強度や粘度などが増す。
 だが、糸を作り出す能力がない人間にも、これらのスキルを使用する事は可能だ。

(……ううむ。"粘糸"も"硬糸"もゆっくりとしか出せない上に、強度も脆いな)

 もし自在に糸を出すことが出来たら、それを相手に張り付けるだけで吸収系スキルも使えるのではないか?
 そう思った北条だったが、糸を操る"操糸"のスキルの方はともかく、糸を出す方の"粘糸"などは扱いが難しかった。

(蜘蛛の糸ってのは、要するにタンパク質な訳だろ? それなら、どうにかこうにかして作りだせないもんか……)

 このまま"粘糸"や"硬糸"のスキル熟練度を上げていけば、もう少し使いやすくはなってくるだろう。
 だが北条としては、早いうちに敵との接触方法を確立しておきたかった。
 それには、この蜘蛛の糸をこっそり相手に繋ぎ、そこから吸収系スキルを発動するというのが、相手にもばれにくいだろうし優秀だと判断する。

(うーーん、このスキルでなんとかならんもんか)

 苦慮の末、北条が目を付けたのは"変形"のスキルだった。
 これはブルージェリルから吸収したスキルで、スライム系の魔物は大体持っているのだが、人間で持っているものはいないというスキルだ。

 こういった魔物にしか使い手がいないようなスキルは多く存在し、同じスライム系が持つ"分裂"スキルなど、人間では全く使用できないスキルも存在している。
 しかし"変形"スキルに関しては、ある程度人間にも使用可能だった。

 薄暗い洞窟の中とはいえ、すでにある程度他の人間に容姿を見られていた北条。
 それゆえ派手に使用する事は避けたが、実は既に体の何か所かを"変形"スキルで整形済だった。

 この"変形"スキルは、体のつくりを一から変えてしまう……それこそDNAレベルで作り変える事も可能で、レアスキルに分類されている。
 このスキルによって全体的にアンチエイジングを施し、中年太りの腹をへこませ、剥げてきていた頭部に緑を取り戻させた。
 日本で暮らしていた頃の北条を知るものが見たら、まるで別人のように感じる事だろう。

(この"変形"スキルで、糸を生成する器官を作れんかな)

 大分突飛な発想ではあったが、"解析"スキルで"変形"スキルを調べた結果、かなり汎用性というか、可能性が広い事が分かっている。
 それこそスライム系の魔物は、この"変形"スキルと"環境適応"を活用して、様々な種類のスライムに派生している。
 中には金属質な体を持つ、メタル系のスライムも存在しているので、"変形"スキルのもたらす効果はかなり幅があるといえる。

(自分の体を弄った時は、イメージしたらスキルの方で勝手に補佐してくれた感じだったが、糸を出すとなると元々人間の体にない器官だからなあ……)

 北条は試しに、指先から糸が出るようなイメージをして"変形"スキルを使ってみたが、何も変化が現れなかった。

(まー、そりゃあそうか。んー、あの蜘蛛の魔物を参考に出来んかなあ)

 それから蜘蛛の魔物と戦うたびに、"解析"スキルで体の構造についてを調べていった。
 "解析"スキルはその名の通り、ただ相手のステータスを調べるだけでなく、調べる対象を指定して解析することも出来る。

 蜘蛛の魔物の遺伝子情報や、糸を吐き出す仕組みなどといった情報についても調べる事が可能で、無駄に蜘蛛の生態に詳しくなってしまった北条。

(んー、どうやら糸は体内では液状で存在していて、体外に出ると糸状になるようだが……分からん!)

 いくら"解析"スキルの手助けがあろうと、人間に蜘蛛の器官を作り出すというキメラ的発想は、そうそう上手くいくものではない。
 どん詰まっていた北条は、最後にもう一度だけ"変形"スキルを試す事にした。

(最初に"変形"スキルを使った時は、体の構造とか意識せずにイメージだけで成功した。……そこに、"解析"で判明した蜘蛛の情報をリンクさせ、指先から糸を出せるように"変形"スキルで弄れないものか)

 余計な考えを頭から追いやり、蜘蛛を解析した時の情報と、"変形"スキルだけを強く意識する北条。
 そして変形させる指先に、成功した時のイメージを強く投射させる。
 あとはスキルの補佐を信じて、"変形"スキルを発動させるだけだ。

(……上手くいったか? 見た目的に変化はないが)

 これまでと違い、スキルが発動した時の感覚を感じていた北条。
 視線を移すと、変形させようと意識していた人差し指には、特に形状の変化は見られない。
 しかし、何かこれまでとは違うものを感じた北条は、試しに"粘糸"を発動させてみる。
 すると……、

(お、おお? これまでより糸がしっかり出てるぞ!)

 一体自分の体にどういった変化が起きたのかは分からないが、"粘糸"や"硬糸"のスキルが、各段に向上している事が判明した。
 こうして糸系のスキルを使えるようになった北条は、それからは糸を使っての吸収系スキル発動の練習を始める。

 初めこそは上手くいかなかったが、スキルを使用していくうちにスキル熟練度も上がっていき、更に"合成糸"や"魔力糸"。"絶糸"などのスキルも新たに習得していった。
 こうして相手を問わず、気づかれないように相手のスキルを吸収する方法を、北条はついに確立させた。



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