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第十二章

第330話 強襲! シルヴァーノ

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◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 信也達がダンジョンから脱出し、拠点に戻ってきた時には、拠点に在住している農民一家などしかいなかった。
 北条達『サムライトラベラーズ』も、ゼンダーソンもダンジョンに向かってから戻っていないらしい。

 ロアナからそう報告を受けた信也達は、ひとまずドロップ買い取りのためにギルドへ向かう事にした。
 なおマンジュウとダンゴは拠点でお留守番だ。

 拠点から冒険者ギルドまでは歩いて数十分といった所だが、この世界の暮らしに慣れてきた異邦人たちは、これくらいの距離なら最早ご近所レベルに感じてきている。

 今回の冒険での話などを交えながら、ギルドにたどり着いた一行は、すぐさま買い取りや依頼の確認などを済ませ、長居せずにギルドを出る。
 当初の予定ではこの後は各自自由行動となる予定だったが、信也の緊張した声がそれを打ち消した。

「みんな、悪いが自由行動はなしだ。このまま全員で拠点に戻るぞ」

「え、リーダーどうしたんですか?」

 きょとんとした表情で尋ねる咲良。

「俺の"悪意感知"に何かが引っかかった。……それもねっとりとした、かなりに強い悪意だ」

「それは……」

 信也にそう言われて、咲良の脳裏に浮かんだのはやはりあの自称『勇者』の事だった。
 咲良以外の面々も、軒並み渋い顔つきになっている。

「念のため"付与魔法"を掛けておいた方がよさそうね」

「ああ、頼む。それとこちらが気づいたことを感付かれたくない。出来るだけいつも通りに振舞ってくれ」

「う、うう。そう言われてもー」

「由里香ちゃんは変に後ろを振り向かないで、前だけ向いて歩いてればいいよ~」

「うん……そーする」

 由里香と芽衣がそんなやり取りをしてる中、陽子は"付与魔法"を掛けていく。
 比較的長時間持つ~増強系のステータスアップ系と、【レジストサンダー】と【レジストマジック】を全員に施していく。
 【レジストマジック】は魔法に対する抵抗力を上げ、更に【レジストサンダー】で、雷属性の攻撃に対しての抵抗力と、防御力を上げる。

 これは事前に北条から知らされた情報を参考にしたもので、シルヴァーノは"雷魔法"を上級レベルで扱い、更に上位魔法である"轟雷魔法"も使えるという事だった。

 これらレジスト系の魔法は、ステータス増強の魔法より効果時間が短かったが、ふんだんに魔力を込めて出来るだけ効果時間を延ばして使用される。
 こうして一通り魔法を掛け終わったころには、すでに町のはずれに到達しており、ここから先拠点までの間は、何もない平野が広がっている。


「……どーやら、後をつけていた気配は町の端っこで止まったみたいッス」

 ロベルトが"生命感知"によって得た情報を報告する。
 このような人の多い町中では、よほどの熟練者であったり、対象人物をよく知ってでもいない限り、"生命感知"で個人を特定する事はできない。

 しかし予め信也に、悪意を向けて尾行してくる者がいると知らされていたので、自分たちの後をついてくるような動きの生命反応を注意してみれば、尾行者の位置を掴むことは出来た。

「前回が前回だっただけに、大分警戒しちゃったけど、流石にこれ以上手出しはしてこないようね」

「というか、前回あれだけ騒動起こしておいてお咎め無しってのもどーかと思うッス」

 結局この間のギルドでのもめ事は、冒険者同士の喧嘩として処理されていた。
 にしても、Aランク冒険者がDランク冒険者に絡んでいくというのは、普通は見ない光景だ。
 そんな事をすれば、Aランク冒険者側の評判が著しく低下するのは目に見えている。

「ギルド側としても、Aランク冒険者がそのような問題を起こした事を公にしたくなかったのかも……なぁっ!?」

「ん、これって!?」 

「マズイッス! やる気ッス!」

 それまで普通に話していた信也は、最後何かに気づいたように語尾が上がる。
 ついで、"野生の勘"スキルに引っかかった由里香も反応を示す。
 そしてただ一人、シルヴァーノからは殺しても構わないと判じられていたロベルトは、"危険感知"スキルによって異常に気付く。

「凄いスピードで近寄ってきてるッス! ヤバイッス!!」

「……私に考えがあるわ。上手くいくか分からないけど、成功するにしても失敗するにしても、打って出るのはその後にして」

「分かった。コレは使用しても構わんか?」

 刻々と悪意の塊が迫ってくる中、最早綿密な打ち合わせをする余裕は彼らにはなかった。
 信也は仲間を信じつつも、自分でも出来ることを模索し提案する。

「ええ、それなら問題ないわ。とにかく結界内から出なければ……」

「……ッ来るッス!!」


 "機敏"スキルを使用までして、ここまで一瞬で駆けてきたシルヴァーノは、有無を言わさず先制攻撃をしかけてくる。
 その第一弾は、北条からの前情報にも合った通り、お得意の"雷魔法"だった。

「無数の落雷よ、俺の前に立ちふさがる愚か者どもに降り注げ。【ライトニングストーム】」

 ロベルト以外の面子に関しては、生きたまま捉えるのが目的であったが、それにしてはシルヴァーノの選んだ魔法は強力なものだ。
 上級"雷魔法"の【ライトニングストーム】は、【落雷】の魔法を指定の範囲内に何発も打ち付ける魔法だ。
 そこいらのDランク冒険者では、場合によってはこの魔法だけで命を落としてしまう危険もある。

 だというのにこの魔法を最初に選択したのは、予め"鑑定"スキルによって信也達が普通の冒険者ではないと知っていたからだ。
 特に"結界魔法"がかかってるなら、そうそうにくたばることはない。

 実際、シルヴァーノのその予想は間違っていなかった。
 しかし魔法を放った後に、更に距離を詰めていったシルヴァーノが見たのは想定外の状態だった。

(ちっ、どういう事だ。全員ピンピンしてるじゃねーか)

 全くのノーダメージという事は流石になかったが、見た感じだと大してダメージを与えているようには見えない。
 それどころか、咲良の【キュアオール】によって即座にほぼフルHP状態にまで持ち直していく。

「みんな、速攻で行くわよ! 【敏捷低下】」

 前衛の由里香や信也は、最初に陽子が言っていた通り、魔法を打ち終わった隙に前に出るような真似はせず、陽子の結界内にて待機していた。
 そして最初に陽子が選んだ手は、〈スロウワンド〉と【敏捷低下】による速度の低下だ。

 これまで北条の摸擬戦や悪魔との闘いの時に、一番厄介だったのは動きがはやすぎてついていけてないという事だった。
 その問題点をまず真っ先に潰す。

 予め"エンハンスドスペル"と"増魔"スキル。それから【敏捷低下】に込められる限界ギリギリまでの魔力を込め、先制で放つ。
 これによって、〈スロウワンド〉の効果は抵抗されてほぼ無力化されてしまったが、【敏捷低下】の方はきっちり入っていた。

 そして先ほどの陽子の掛け声と同時に、由里香が"機敏"を使って高速に接近戦を仕掛けにいく。
 信也も"光の魔眼"と"闇の魔眼"を発動させながら、その後に続く。

 最初は二つ同時に発動することさえ出来なかった信也だが、今では戦闘しながら魔眼を発動させる事も可能になっていた。
 しかし、魔眼ダブル発動時は体の動きの方に割く思考が弱まり、動きが鈍ってしまう。
 なので、今の所は攻撃する事を放棄し、防御や注意を引くことに専念しつつ、魔眼を発動し続けるというスタイルを取っていた。

「雑魚どもが調子に乗りやがって!」

 思わぬ反撃にシルヴァーノが罵声を浴びせている間にも、次々と攻撃の手が紡がれていく。

「わたしの呼びかけに応え、肉壁として頑張ってください~。【妖魔召喚】」

「私と、私の仲間たちが自由に動き回れる場を。【加速領域】」

 芽衣の"召喚魔法"によって、トロールウォリアーが五体召喚され、命令通りに愚直にシルヴァーノの方へと向かっていく。
 そしてほぼ同時に完成した陽子の【加速領域】によって、今召喚されたばかりのトロールウォリアーを含めた全員の敏捷が強化される。

 Aランク冒険者であるシルヴァーノだが、世界各地を旅してまわったという事もなく、狭い範囲の物事しか知らない。
 "結界魔法"の使い手自体は会ったこともあるが、普通は貴族などに囲われているので戦闘することなどない。
 "召喚魔法"に至っては、芽衣が初めて出会った使い手だ。

 こうした戦い慣れないスキルの使い手を相手に、さしものシルヴァーノであっても初めは完全に抑え込まれていた。
 ここまでは陽子が最初に取った作戦勝ちだと言える。

 しかし地力で勝るシルヴァーノは、いつまでも格下相手にいいようにされているのを良しとはしなかった。

「て、めえらああッ! よほど死にたいらしいなあッ!!」

 ここでシルヴァーノは"纏気術"を発動させ、身体能力を向上させる。
 未だに【敏捷低下】の影響は受けたままだが、それでも"纏気術"の発動によって、並のCランク戦士であれば身体能力だけでごり押せるほど強化される。

 唐突に始まったシルヴァーノと『プラネットアース』の闘いは、第二ラウンドに突入しようとしていた。


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