どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
上 下
360 / 398
第十二章

第316話 デーモンミラー

しおりを挟む

「慶介くんっ!」

 シャドウナイトに向けて放った【アイシクルランス】は、そのまま向きを逆向きに変えて慶介へと襲いかかる。

「えっ……わぁ!?」

 鬼気迫るメアリーの声を聞いて、魔法が跳ね返って来るのを認識した慶介は、咄嗟に右手で体を庇うような体勢に移行する。
 同時に左方へと回避の動きもとったが、流石に完全に回避する事はかなわなかった。
 
 慶介の翳していた右手に当たり、微かに軌道がずれた氷の槍は、慶介の右肩部分へと突き刺さっていく。

「うあああああっ!」

 思わず声を上げる慶介だが、幸いと言うべきか、慶介は"氷耐性"スキルに"氷の友"のスキルも持っている。
 どちらも氷属性の攻撃のダメージを減らす事が出来るので、見た目的にやばそうな氷の槍の直撃でも、大きなダメージは受けていない。
 これら耐性スキルがなければ、中級魔法の【アイシクルランス】をまともに食らえば、肩を貫通して穿たれる位の威力はあっただろう。

「気を付けろぉ! あの新種の鏡は、魔法をそのまま反射するスキルを使うぞぉ!」

 すでに慶介が身をもって体験していたが、他の仲間にも聞こえるように大きな声で北条が叫ぶ。
 それからオークジェネラルをほぼ倒し、残る敵前衛はシャドウナイトだけとなった事を確認し、一気に敵後衛の鏡の元へと攻め入る。

 〈サラマンダル〉を操り、ふわふわと宙に浮かんでいるイービルミラー達を、次々に割っていく北条。
 これでも全力を出していないのだが、それでも鏡はあっという間に割られていき、最後に残った新種の鏡と対峙する。

「……!?」

 とそこに、予め発動準備を整えていた、新種の鏡が構築していた魔法が効果を現す。
 その魔法の効果によって、北条の立つ位置を中心に真っ暗な闇で出来た柱が発生し、床から天井へと突き抜けていく。
 柱自体は直径数メートル程なので、他の仲間に当たる事はなかったが、北条に関しては魔法の中心地だったので、まともに喰らう事になる。

「ふんっ!!」

 しかし北条は魔法の効果が完全に終わる前に、闇の柱から飛び出していって、新種の鏡へ〈サラマンダル〉による攻撃を加える。
 それもただの攻撃ではなく、"螺旋点穴穿"という回転の力を大きく加えながら放つ、槍系の闘技秘技スキルだ。
 斧槍ハルバード専用の闘技スキルではないが、斧槍ハルバードは斧系と槍系の闘技スキルを、ある程度扱うことが出来る。

 ピシッ……。

 北条のこの大技によって、新種の鏡は表面にひびが入っていき、続く北条怒涛の追撃によって完全に鏡は割れ、やがて光の粒子となって消えていく。

「ふぅっ」

 その頃には残っていたシャドウナイトの掃討も完了していたようで、安堵のため息が幾つか漏れる。

「慶介、大丈夫かぁ?」

 北条が魔法の反射をもろに喰らっていた慶介の下まで行くと、既に近くにはメアリーが控えていて"回復魔法"による治癒がなされた後だった。

「はい、メアリーさんがもう治してくれましたし、"氷魔法"だったせいかそこまで深手でもなかったので、大丈夫です」

「んむ、そうかぁ」

「なぁ、オッサン。あの魔法の反射ってあのでかい鏡の奴がやったのか?」

 龍之介もドロップの回収は後回しにしたのか、前線だった場所から一旦慶介たちの下へと集っていた。
 龍之介のいう"でかい鏡"というのは新種の鏡の魔物の事で、これまでのスプーキーミラーやイーブルミラーと比べると、一回り大きかった。

「あぁ。解析するのが遅くなったがぁ、奴は"マジックリフレクション"というスキルを持っているようだぁ」

「"マジックリフレクション"……、そのままの意味で魔法を反射するという事ですね」

「その通り。"ソーンマジック"なら魔物に当ててダメージを与える事はできたがぁ、"マジックリフレクション"は魔物に当たる前に壁のようなもので反射されてしまう」

「壁……。確かにあの時、魔力で作られた壁のようなものがあったわね」

「あ、それ僕も魔法を撃った後に気づきました」

 "魔力感知"のスキルを持つカタリナと慶介は、不自然な魔力の動きを感知出来ていたらしい。

「ああ、それが"マジックリフレクション"の効果だなぁ。一応その壁部分を避けるように魔法を発動、もしくは誘導させてやればぁ、反射されずに当てる事もできるだろう」

「それはちょっと難しそうね。ただでさえ、イーブルミラーが時折ふらふら移動していて注意力を割かれてるのに」

「それに僕が魔法を撃とうとする直前まで、あの不自然な魔力の壁はありませんでした。たまたまスキル使用のタイミングが被ったのかもしれないですけど……」

 一般的に、魔法は上位のものほど魔法を構築するのに時間がかかる。
 それらの魔法は確かに威力などで見れば優れてはいるのだが、発動の速さでいえば、一般的なスキルの発動には敵わない。

「まぁ、なんにせよ、ここは引き返した方がいい」

「そうですね。もう一週間以上は潜っていますし」

「あ、いやぁ。ダンジョンを脱出するのもそうだがぁ、この階層はまだ早いことが分かったぁ。これは次からは探索するとしたら、いっこ前の三十六層までだなぁ」

「そんなにヤバイのか、オッサン?」

「そりゃーヤバイでしょ。今までは魔法のダメージを一部喰らう程度だったけど、今度の鏡は全反射してくるのよ?」

 いまいち実感のない龍之介に、説明を加えるカタリナ。
 カタリナの使う"精霊魔法"は、自分が直接魔法を使うのではなく、あくまで精霊が変わりに魔法的な効果のある攻撃なり、支援魔法なりを使用する。

 そうして放たれた魔法攻撃は、"マジックソーン"を持つイーブルミラーに当てた場合、イーブルミラーが負ったダメージの何パーセントかが、精霊自身にも跳ね返っていく。
 精霊にもHPは設定されているので、それがゼロになると姿を保っていられなくなって消えてしまう。

 契約してある精霊ならば、本体は精霊石などに宿らせてておけるので、消えてしまっても再召喚は可能だ。だがその場合、数時間以上は間を空けて精霊の回復を待たないといけない。


 "マジックリフレクション"だと魔法そのものを反射する壁が生み出される。
 先ほどの【アイシクルランス】の挙動からして、魔力の壁の反対方向へと跳ね返すようだ。
 つまり壁の設置する位置や角度によっては、あの【アイシクルランス】を他の人へと反射する事も可能だという事だ。
 これまでは"ソーンマジック"を警戒しつつも、敵の前衛には魔法攻撃も使って対処してきたが、あの新種の鏡が混じるとそうもいかなくなる。

「う、それは確かにキツそうだな……」

「それになぁ。そもそもあの新種の鏡――デーモンミラーというらしいんだがぁ、ありゃあBランクの魔物だぞぉ」

「Bランクっ!?」

 北条の解説に反応した声が幾つも重なる。

「あぁ。さっき最後にデーモンミラーが使ってきた【ダークネスピラー】も、上級の"闇魔法"だしなぁ。他にも奴は"光魔法"も上級レベルだったし、"暗黒魔法"も中級レベルで使ってくるぞぉ」

「上級って……。まともに喰らったのにピンピンしてるから、そんな大層な魔法だとは思わなかったわ」

「気を付けろよぉ? 多分あれをお前たちがまともにくらったら、大分HPを持ってかれるぞぉ」

「うへぇ、そりゃあきちぃなあ」

「あの……。これ、拾って、きました……」

 北条らが先ほどの戦闘について話している間にも、楓はしっかりとドロップを拾い集めていたようで、北条の下までもっていく。
 
「おお、スマンなぁ」

「い、いえ。これくらい全然……」

 拾い集めたドロップを渡す楓は満足げな表情を浮かべる。
 楓が手渡したのは、魔物たちが落とした魔石と、鏡系の魔物がドロップした鏡の破片。
 シャドウナイトのドロップした墨液に、オークジェネラルドロップの肉や牙などだ。

 それらのアイテムを受け取った北条は、"アイテムボックス"へと突っ込んでいく。
 それから当たりを見渡すようにしてキョロキョロ顔を横に振る。

「さっきの分岐を探索させていたアーシアも、行き止まりにぶつかって今こちらに向かってきてる所みたいだぁ。合流したら、さっさと三十三層まで戻ってダンジョンを脱出しよう」

「おう!」

「分かったわ」

 厄介な敵が出てくる事が判明したので、その後の『サムライトラベラーズ』の行動は迅速だった。
 それにはまず、別行動をしているアーシアと合流する必要があった。

 これは最近になって試験的に始めた探索方法で、ある程度地図を埋めていくと、構造的にこの分岐の先は広くないだろうな、と推測できる箇所などが出てくる。

 ただそうした分岐であっても、奥の行き止まりに宝箱が設置されているかもしれないし、下へと続く階段があるかもしれない。
 そういった分岐先を探索するのに、アーシアを用いるようになったのだ。

 "召喚魔法"で他にも適切な魔物を召喚し、そいつらをアーシアに率いさせて分岐先を探索させる。
 魔物だけでうろつくことになるので、他の冒険者に見つかったら攻撃される危険性があるため、他に人にいない階層でないとこの運用方法は難しい。

 それでも探索時間の削減にはなるので、これまで何度かテスト運用をしていた。
 罠に関してはこのミラーエリアにも存在しているのだが、アーシアが先頭になって、全ての罠を食らいながら強引に突き進むことで、罠問題はどうにかしている。
 これも数々の耐性スキルとタフさがあってこその、ゴリ押し戦法だ。


「お、あれじゃねーか?」

 龍之介の指さす方向には、先ほどアーシアと別れたT字路があり、そこには魔物たちを率いたアーシアの姿があった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました

璃音
ファンタジー
 主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。 果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?  これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。  

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...