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第十二章

第315話 ミラーエリア

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◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「オッサン! また鏡の奴が……それもなんか一つだけ見た事ねーのが混じってんぞ!」

「んなこたー見りゃあ分かる。各自、魔法を使うときは注意するように!」

「はいッ!」

「まずは手前のオークジェネラルから着実に減らすぞぉ!」


 北条の号令が響く中、魔物たちとの戦いが始まった。
 ここは地下迷宮エリア二十層から分岐した先の場所で、辺り一面の壁が鏡張りになっているミラーエリア、その三十七層だ。

 この鏡張りの構造は、分岐した直後の二十一層から変わっておらず、探索していると感覚が少しおかしくなったり、妙に気疲れする感じがして、なかなか探索が進んでいない。

 鏡はこの世界の一般的な鏡と比べると、断然に映りがよくて、現代日本で見かけるそれと大差ない。
 これをそのまま持ち帰る事が出来れば、それなりの値段が付きそうではあるのだが、まずダンジョンの構造物というのはかなり頑丈だ。

 それでもどうにかして破壊出来たとしても、鏡の部分を割らずにというのはかなり難しい。
 まあ破片程度なら持ち出せるかもしれないが、一番の問題は、ダンジョンの構造物はダンジョン外に持ち出すと、時間経過ですぐに光の粒子となって消えてしまうという特性がある事だ。
 これは地下迷宮エリアなどに配置されている、松明などを持ち帰っても同様だ。


 そしてミラーエリアだが、出てくる敵がまた厄介な奴が多かった。
 かつて不意打ちを食らった隠密猿コバートエイプに、"光学迷彩"スキルで姿を消している『カルンマ』というカメレオン系の魔物。

 他にも"隠遁"スキルを持つバチスネークという蛇の魔物に、シャドウリザードという自分の影の中に潜って、密かに接近してから襲いかかって来る魔物など、やたらと隠密系だったり姿を隠したりする系が多く、油断がならない。

 それでも最初の方は魔物のランクがD~Cであったので、探知に優れる北条がいれば、対処は可能であった。
 そのお陰で探索自体は進んでいったのだが、このエリアが厄介なのは、次の迷宮碑ガルストーンがなかなか見つからなかったという理由もあった。

 二十一層のエリア最初の地点に設置された迷宮碑ガルストーンから、下る事十層以上。
 三十三層になって、ようやく次の迷宮碑ガルストーンが発見されたという有様だ。

 それも、下層に潜っていくにつれて、隠密系の敵以外にも厄介な敵が増えてくる。
 その一つが今も戦っている鏡系の魔物で、最初の方に出て来たスプーキーミラーというDランクの魔物はまだそれほど厄介な魔物ではなかった。

 しかし三十層に近づいていった辺りから、スプーキーミラーの上位種である、イーブルミラーというのが出現し始める。
 こいつは魔法攻撃を食らうと、そのダメージの一部を魔法使用者に反射する、"ソーンマジック"というスキルを使ってくる。

 最初、いつも通りに範囲魔法で先に先制攻撃をしてしまった慶介と楓が、イーブルミラーの"ソーンマジック"で軒並みダメージの一部を反射されまくって、一気に二人とも瀕死状態に陥った事があった。

 それ以降は鏡に対して敏感になってしまった一行だが、後衛の慶介などはやはり魔法攻撃がメインであり、それを封じられると余り活躍が出来ない。
 そこでイーブルミラーと一緒に出てきた別の魔物が単体でいる所を狙い、単体攻撃魔法を使用して削っていく、という方針に切り替わっていった。

 というのも、北条の"解析"スキルによって、"ソーンマジック"のスキルは使用者にしか効果がないものだと判明したからだ。
 このミラーエリアではオーク種も良く出てくるので、そちらは単体攻撃魔法でちまちまと片付けていき、鏡だけになったらパリンパリンと割っていく。
 そんな戦い方が基本となっていった。


 今もCランクのオークジェネラルに、同じくCランクのイーブルミラー。
 他にもシャドウナイトという、全身が影で出来た人型の魔物もいて、こいつは体が影で出来ているせいか、物理攻撃が余り効かない。
 北条の"解析"によると、シャドウナイトは"影体"というスキルを持っていて、このスキルのせいで物理攻撃の威力は半減してしまうらしい。

 鏡系の魔物は後衛から魔法で攻撃をしてくるのだが、こちらからは魔法攻撃が迂闊に出来ないので、敵の魔法攻撃に晒されながら、敵の前衛をまず打ち砕かなければならない。

 北条と龍之介、それからメアリーが積極的に前衛としてオークジェネラルを倒していき、それを楓が遊撃としてフォローをしていく。
 慶介は単体の攻撃魔法を、主にシャドウナイトに対して使用していく。
 カタリナも同様に、精霊による魔法攻撃を加えていくが、彼女の場合は更に弓矢による攻撃を、敵後衛の位置でぷかぷかと浮かんでいる鏡へとぶち当てていく。

 フィールドエリア以外では弓矢というのは使いにくいが、遠距離に物理攻撃を当てられるので、こういった特殊な状況では大いに役立つ。


「フゥッッ。"パワーショット"」

「…………。"投げ苦無"」

 今も弓の基本的な闘技スキルである"パワーショット"がイーブルミラーへと命中し、更にそこへ楓の苦無の闘技スキル、"投げ苦無"が命中し、鏡がパリンと割れていく。

「この割れる音を聞くとちょっと爽快な気分になるわね」

「少しでもあの鏡の数を減らしてくれると、僕としても助かります」

 いやらしい事に、イーブルミラーは後衛の位置に居座って魔法を撃つだけでなく、時折ふわふわと前衛の位置まで飛んでいく事がある。
 この動きによって、前衛のオークを狙った単体攻撃魔法を、イーブルミラーが自ら体ごともらいにいくこともあった。

「くぅぅ……、はあああぁぁぁ!!」

 前線では、メアリーが後衛のイーブルミラーが放った魔法攻撃を食らいながらも、それがどうしたとばかりに、〈ブラッディメイス〉を振り回しているのが見える。

 二つ目のエリアを攻略した際に、メアリーは祝福として"高速再生"というレアスキルを授かっていた。
 "再生"スキルの上位である"高速再生"は、その名の通りダメージを負うと高速でHPが回復していくというスキルだ。

 といっても、傷が目に見えてみるみると塞がっていくという程ではない。
 だが、小さな傷なら十分ほどで。かすり傷程度なら一分位で元通りになるので、最近のメアリーはこのスキルを活かして前衛でブイブイと言わせていた。

 他にも"鬼撃"という、槌系の闘技秘技スキルや、"鬼手掻拳"という鋭い爪のついた鬼の手を生み出すという、特殊能力系のスキルまで身に付けている。
 鬼と名が付くスキルを得たのも、恐らくは『鬼子母神』の職業補正によるものだろう。

 とにかく、"高速再生"と攻撃系のスキルなどを得て、メアリーはすっかり前線で暴れまわる鬼のようになっている。


 一方龍之介は、職業系スキルでは上位に当たる"剣士の心"というレアスキルを得て、ますます剣に磨きがかかっている。
 そしてこまごまと新たなスキルは覚えているが、メアリーのような特徴のあるスキルは特に覚えていない。

 しかし、剣に関するスキルには磨きがかかっており、ついに剣術スキルが上級にまで達した。
 派手なスキルに比べると一見地味に思える戦闘系スキルだが、決して疎かにしていいものではない。
 剣による攻防の全てにおいて、"剣術"スキルというのは関わっていて、根幹をなすスキルなのだ。

 その高いスキル熟練度によって、龍之介はレベル的には格上に当たるオークジェネラル達を次々と屠っていく。
 物理が通りにくいシャドウナイトにも、"風斬"などの属性を持つ攻撃はダメージが通りやすいので、時折そういった攻撃も織り交ぜていく。


 北条はそうした仲間の動きを常に意識しながら、敵にも注意を払い、積極的に倒しにいくのではなく、何かあった時にすぐに対処できるように立ち回っていた。

 なにせ、北条を除いて他の仲間はまだレベル五十以下、Dランク冒険者の範疇であるのに対し、周囲の敵は全てがCランク以上の魔物たちなのだ。
 足りないレベルの分はスキルで補ってはいるのだが、やはりそれだけだと普通は厳しい。
 実際、信也達『プラネットアース』も、Cランクの魔物がメインで出てくる階層では、せっぱ詰った戦いになる事もある。

 しかし、『サムライトラベラーズ』においては、その辺は大分楽になっている。
 北条が常時発動の支援系スキルを幾つも使用しているからだ。
 それも北条のスキルは称号効果によって、効力が大いに高められている上に、そもそもスキルの熟練度が高いので、その分基本性能も高くなっている。
 これら支援スキルの積み重ねによって、ランクひとつ分位は軽くブーストできる程、北条の支援スキルは凶悪だった。

 『プラネットアース』でも信也が"指揮"スキルによって、パーティーメンバーの強化を行ってはいる。
 だが北条の場合、人数が制限される事で、効果が通常の"指揮"よりアップする"パーティー指揮"のスキルを発動させている。

 他にも、使用者に対し帰属意識のある者にだけ効果があり、"指揮"スキルとも効果が重複する"従属指揮"のスキル。それから本来指揮官系の魔物しか使用できないと思われていた、"同族強化"のスキル。

 これらのスキルの影響を常に受けているからこそ、ここまで前衛が万全に機能していると言えた。
 すでにメアリーと龍之介によって、オークジェネラルの数も大分減っており、余裕が出て来た北条は、初めて見る鏡の魔物に"解析"をかけてみる。

「これはっ……」

 その解析結果を見た北条は、仲間へと警告の声を発する…………前に、懸念された事態がすでに現実になっていた事に気づく。


 慶介がシャドウナイトに向けて放った、中級の"氷魔法"【アイシクルランス】。
 途中に障害物もなく、そのまま命中すると思われた長さ一メートル程もある氷の槍は、突如進路を逆転させ、飛んでいった勢いそのままに、慶介へと襲いかかっていた。


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