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第十二章
第314話 拠点への案内
しおりを挟む「うん! あたし達と同じグループの人なんだよ」
「同じグループ……つまりクランみたいなもんか」
「んーと、多分そう、かな? 今はもう一つのパーティーと一緒にダンジョンに潜ってるとこだよ」
「ほおう。そら一度会ってみたいもんや」
「えっと、北条さんと会ってどうするつもりなんですか?」
ここで陽子がゼンダーソンの意図について質問する。
北条本人が余り騒がれたりするのを好まないのをは知っていたので、ゼンダーソンがどう反応するかについて知っておきたいという考えだ。
「決まっとるやろ。強い奴とは戦いたくなるゆうんが、男ちゅうもんや」
「そ、そうですか……」
バトル脳全開のゼンダーソンに、陽子は返す言葉もないようだ。
「んー、北条さんたちなら、多分あと数日で帰って来るんじゃないかなー?」
「んならまずは宿を探さんといかんな。町について早々ギルドに来てもうたから、まだ宿泊する所すら決まっとらん」
「あ、じゃあウチにくるー?」
「ウチって嬢ちゃんとこのクランハウスか何かか?」
「んーと、仲間のみんなと一緒に暮らしてるとこがあるんだよ!」
「ほーー。それは助かるが、広さは大丈夫なんか? ほれ、見ての通り俺はタッパがあるからなあ。小さな宿だと屈まへんと中に入れん事もあるんや」
「うううん、多分だいじょぶじゃないかなー? そんなに余裕はないかもしれないけどー」
「ちょ、ちょっと由里香ちゃん……」
困惑した様子の陽子に気づかず、次々と話を進めていく由里香。
陽子や他のメンバーからしても、危ない所を助けてもらったので口を挟む事も出来ないでいる。
「ほんでウチってのはどこにあるんや?」
「あ、それならちょっと待ってくれ。今ダンジョンのドロップを買い取りに出してる所なんで、それが終わったら一緒に行こう」
「了解や」
結局信也もゼンダーソンを拠点に迎える事を認めたようで、拠点までの案内を申し出る。
拠点ではメンバーの持ち家の建築ラッシュが始まって以降、中央館にも来客用の部屋などが増設されていた。
なんだかんだあって、預かっているジャドゥジェムは現在農業エリアの方でテントを張って暮らしているので、ゼンダーソンを迎えれば初めての本格的な客室利用者になる。
査定の結果を待っていた信也達は、シルヴァーノの一件で思いのほか時間を取られていたせいか、その後すぐに番号札の呼び出しがかかり、今回の探索の成果を受け取る。
それからすぐに、ゼンダーソンを連れて拠点へと向かう事になるが、その道中で陽子が拠点内部での事については、秘密を守るようにお願いしていた。
「なんやよう分からんけど、分かったで。こう見えて口は堅いから任しとき」
そんな事を言っていたゼンダーソンだが、拠点に近づくに連れて陽子の言っていた言葉の意味が薄々理解出来てきたようだ。
「お、おお? アレか? アレが嬢ちゃん達の言うとる拠点なんか?」
『ユーラブリカ王国』ではSランク冒険者として、広大な敷地の豪華な家を持っているゼンダーソンであったが、敷地面積だけでいえば恐らく同程度はありそうな拠点の様子に、驚いた様子だ。
それも周囲を囲む外壁はゼンダーソンの家よりも堅固であり、水堀なんてものは街中に建てられているゼンダーソンの家周りには存在していない。
「見たとこ、魔物暴動に備えて建てられた砦のようやが……」
これは外部から流れてきた冒険者が、この町に着いてこの拠点を見た時によく抱く感想だった。
というか、未だにそうだと信じている冒険者も僅かながら存在している。
「これは主に北条さんが中心になって造った拠点なんだよ!」
「ホージョーが造った? ホージョーいうんは、建築家か何かなのか?」
「うううん。北条さんは、何でも出来る人だよ!」
「何でも……?」
首を傾けながらも、西門を潜り抜けて拠点の中へ入っていく一行。
すると目に飛び込んでくるのは、無駄に高い構造物であるウェディングウォーターだ。
一番高い部分で十五メートルほどの高さがある、明らかに人工的に作られたウェディングウォーター。
最も高い中央部から湧き出した水が、周囲を伝って下へと流れていくその様は、初めてみる者を圧倒させる。
「ほおおお、こらまたごっついオブジェやな」
「だよね! これもホージョーさんが造ったんだよ」
「……どんな奴かまったく想像できんくなってきたわ」
そう言いつつも、ウェディングウォーターそのものは気に入ったようで、感心した様子のゼンダーソンであったが、北条に対するイメージがますます謎のベールに包まれているようだ。
その後も、拠点内を警備しているゴーレムのアルファやベータ。
アーシアやだんごが"眷属服従"で支配しているスライムや、マンジュウなどの使役されている魔物を見て、益々ここが特殊な場所だという事をゼンダーソンは実感していく。
「という事なんで、ツィリルさん。この人をよろしくッス」
「うん、分かったよ。ボクに任せてくれ」
ロベルトに対して自信有り気に答えるツィリル。
定期的に北条からの治療のようなものが続けられているせいか、既に表面上はほとんど問題なさそうに見える。
先ほどの発言も、ツィリルの感情が少し載せられていたように感じられる。
しかし当人の感覚では、相変わらずその辺りの情動の機微が薄かった。
さっきの発言も、周囲の人の様子をつぶさに観察するようにしていたので、それらしい振る舞いが出来るようになったに過ぎない。
「ん、自分。なかなかやるな」
「ツィリルさんは元Bランク冒険者なんッスよ」
そんなツィリルと対面したゼンダーソンは、すぐに相手の力量を見て取ったようだ。
ゼンダーソンは"鑑定"のようなスキルは持っていないが、これまでの経験や"野生の勘"などのスキルで、対峙した相手の力量がおおよそ量れる。
「そら納得や。にしても、あの姉ちゃんが秘密にしてくれ言うんも納得やわ」
中央館の建物の中は、セントラルヒーティングのように全体的に暖かく保たれているが、ゼンダーソンが外から見た限りでは煙突から煙は上がっていなかった。
つまり、この暖かさは魔法道具などによるものなのだろう。
ゼンダーソンも超一流の冒険者として、こうした魔法道具などは見慣れたもんだった。
そしてこれら魔法道具ひとつひとつが、売り払えば中々の値段になる事も知っている。
そういった高価なものを取り揃えているだけあって、ここが普通ではないという事を更に実感するゼンダーソン。
その後、ゼンダーソンを来客用の部屋に案内し、夕食などを共にしながら色々な話を聞く信也達。
なんでも、久々にダンジョンから戻ってきたら、異国に最大規模のダンジョンが新たに出現したという情報を聞いたらしい。
そこで仲間をほっぽって、単身この町までやってきたとの事だ。
「仲間の人を置いてきぼりってなんでッスか? 幾らSランク冒険者でも、仲間がいないと深い所までは潜れないんじゃ……」
「あー、それな。実は、『ブレイヴキャッスル』に出てくる悪魔との戦いで、仲間が少しやられてしまってな。今は冒険活動は休止中なんや」
「悪魔……ッスか」
「そや。奴らの使う"暗黒魔法"や"漆黒魔法"はホンマ厄介なんや。俺らでも、まともに喰らうと、今回のように後遺症が続くことがあってな」
「後遺症?」
「悪魔の使うた魔法によって症状はちゃうんやけど、今回のは魔力の最大値が減って、更に回復速度も若干下がったってとこやな」
「……それって治るんッスか?」
真剣な様子のロベルトを見て、そういえばここでも悪魔との戦闘があったんだなと思い出すゼンダーソン。
「まあ、俺らはこれでもユーラブリカでは名の知れた冒険者や。格上の悪魔相手ならともかく、同格の悪魔の魔法なら、少し休めば元に戻るやろ」
「そう……ッスか」
「あ、そうそう。その悪魔についてだけど、色々教えてもらえないかしら?」
ゼンダーソンの話を聞いて落ち込むロベルト。
しかし以前に比べて、ツィリルも大分良くはなってきているので、そこまで落ち込むには至らなかった。
ただちょっと場の雰囲気が暗くなってしまったので、慌てたように陽子が話題を少し変えていく。
完全に話題を変えていかないのは、実際に悪魔と戦ってきたというゼンダーソンから色々話を伺いたいからだ。
こうしてゼンダーソンを拠点に迎え、時に模擬戦の相手をしてもらったり、時に冒険に役立つ話をしてもらいながら、『サムライトラベラーズ』が帰還するのを待つ日々が続いた。
結局『サムライトラベラーズ』が帰還したのは、それから四日後。
それまでの間、『プラネットアース』としても休息日として、有意義な時間を過ごすのだった。
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