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第十二章

第297話 キカンスとの再会

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 ギィィっと、大きな扉が開かれ、一人の少年が冒険者ギルドの中へと入っていく。
 それは拠点を後にした龍之介であり、他に連れもなく一人でギルドへと顔を出していた。

 龍之介はこうして町にいる時に、ギルドをふらりと訪れる事が度々あった。
 特に目的というのはないのだが、情報を集めたり、知り合いの冒険者でもいないかな、と様子を見に来るといった感じだ。

「あっ……。えっと、たしかリューノスケ?」

「ん?」

 ギルド内をちらほら様子見しながら、目的もなく歩いていた龍之介は、声を掛けてきた相手の方へと振り向く。
 そこにはどこか懐かしい顔――実際に会うのはこれが二度目だが――があった。

「お前は……」

(やっぱ似てるな……)

 改めて龍之介はそう思った。

 小学生だった時分に出会った、酷い虐めを受けていたあの男の子。
 パッと見た時の印象が、どこかあの時の彼の事を思い出させる。

「キカンスだ。あの時は助けてくれてありがとう。おかげであの後みんな無事に脱出する事が出来たよ」

「……そっか。そいつはよかったな」

「ああ、あの時は俺の判断が間違っていた。仲間にも迷惑を掛けてしまったよ」

「まあ、しゃーねーさ。オレらだって……あー、オレらの仲間のもうひとつのパーティーも、ちょっと前の探索で判断を誤って、大分きつい目にあったみたいだしな」

「無事だったのか?」

「それは大丈夫だ。じゃなかったらこの場で話題にださねーよ」

「それはお互い良かったな」

「ああ」

 一頻り出会いの挨拶を交わすと、僅かに会話の空白期間が生まれる。
 キカンスの方は噂などで多少は知っていたかもしれないが、実際に会話するのはこれが二度目だからそれも仕方ない。

「……あ、そうだ。夕飯は食べたか? 一杯やるには少し早い時間だが、そろそろ飯にしようと思ってた所だ。この間の礼に奢るよ」

「あー……そうだな。じゃあ遠慮なく奢ってもらうとするぜ」

「了解。それじゃあ、仲間のとこまで案内するよ」

 そう言ってキカンスは、ギルド内の軽食が食べられるスペースへと移動していく。
 時間的にはあと少ししたら夕方という所で、まだ本格的にギルド内は混んではいない。


「あ、キカンス。早かったわね。依頼を軽く見てくるって……ってに"ゃあ"あ"!?」

「どうしたのだ、ルーティア。急にそのような声を上げて」

「アンタ、あの時ウチらを助けてくれた人間!」

 キカンスの隣にいる龍之介を見るなり素っ頓狂な声を上げたのは、『獣の爪』の盗賊職担当の猫獣人、ルーティアだ。

「あ、ああ。そーだけどよく覚えてたな」

 あの時は北条の指示で、戦闘が終わった後は少し会話しただけですぐに彼らとは別れてしまっていた。
 その為、龍之介もキカンス以外のメンバーについては見た目の特徴しか覚えていなかったのだが、一番人族に近い形態のルーティアは中でも一番印象が薄かった。

「それは当然よ! なんせ運命の出会いなんだからね!」

 そう言いながら、腰かけていた席からするっと立ちあがったかと思うと、まさに猫のような動きで龍之介の傍まで近づいていく。

「う、運命?」

「そうよ! リューノスケはウチと番になるの!」

 ルーティアはそう言いながらも龍之介の腕に自分の腕を絡めていく。
 龍之介は突然の事態についていけず、右腕から伝わってくるルーティアの薄い胸の感触に、どこか物悲しい気分になる。

「ちょっと、ルー! リューノスケは俺達の恩人なんだ。そう気安く接したら……」

 ルーティアの暴走に慌ててキカンスが止めに入ろうとする。
 そこへ静かに様子を見ていた鹿獣人の男、シュガルがペチッっとルーティアの額を軽くたたく。

「ルーティア、落ち着け。まずは礼からだ」

 そう言ってシュガルは改めて龍之介に感謝を述べる。
 それからシュガルに続き他のメンバーも礼を述べていくが、龍之介は「いや、もういいって」と言って途中で流れを中断させる。

「ほほう、人族にしてはなかなか殊勝な奴よな。良い、気に入ったぞ」

 このやたらと偉そうな口調で話しているのは、ジェンツ―という鳥の獣人だ。
 余り知らない相手にこのような口利きをされたら、普段の龍之介であれば何か言い返すのが普通だったが、ジェンツ―相手にはそのような気分にはなれない。
 むしろその逆だった。

 ジェンツ―は獣人の中でもほぼ人族っぽい要素がなく、二足歩行する動物といった様相をしている。
 それはつまり元になった動物とソックリという事なのだが、その元の動物というのが、鳥は鳥でも空を飛ぶことがない鳥。ペンギンのような姿をしていたのだ。

 身長は百四十センチを超えていて、地球上のペンギンと比較したら最大級の大きさをしている。
 そして本来は翼である手の部分は、流石ファンタジーというべきか、五本の鉤爪状の手の構造になっていて、ちゃんと物を持つこともできるようだ。

 しかし基本的なフォルムはペンギンそのもので、動物園や水族館でもこれだけ間近で見た事がないペンギン……ジェンツ―に対して、龍之介は触れてみたいという欲求が湧き上がっていた。

「お、おおう。突然何をする!? せっかく我が認めたというのに」

 いや、すでに反射的に龍之介はジェンツ―を撫でまわしてしまっていたようだった。

「あ、ああ、わりーわりー。つい可愛くってな」

「なっ、可愛いだと!? 誰もが振り向く美鳥の我に対し、美しいではなく可愛いなどと!?」

 怒った様子でバサバサと暴れるジェンツ―だが、そんな様子も龍之介には可愛く映っていた。

「ねぇ、リューノスケぇ。そんな鳥より、ウチの方を見てよ」

 あっさりとジェンツ―に興味が移った龍之介に、必死にアピールするルーティア。
 場が鎮まり、近くの食堂に食事をしにいくまで、今少しの時間が必要となるのだった。



▽△▽



「へー。って事は、お前らもロベルト達と同じような理由だったんだな」

「ロベルト?」

「ああ。最近オレらの仲間になったハーフエルフの兄妹でね」

 あれから場所を移し、そろそろ夕食を求めて混雑しはじめる食堂の中。
 すでに注文を終えて夕食を食べ始めていた龍之介達は、食事をしながらも会話を楽しんでいた。

 最初にこの《ジャガー町》へと来た経緯を聞いたのだが、彼らもロベルトらと同様にベネティス領の方から流れてきたらしい。
 というか、前会った時にも軽くその辺の話はしていたのだが、龍之介は覚えていなかったようだ。

「ロベルト……ロベルト……。どっかで聞いた名前なんだけどなぁ」

「んー、『碧の玉石』の人だっけ?」

「いや……、それはアーサーだろ? そうじゃなくって……」

 キカンスはロベルトという名前に聞き覚えがあるようで、ウンウンと唸っている。
 だが詳しい情報が脳内から引き出せないようだ。
 そこへ、

「ロベルト……。『巨岩割り』にそんな名の双子のハーフエルフがいた」

「あ、そうだ思い出した! 『巨岩割り』って言ったらジババさん達の印象が強すぎて、すぐに浮かばなかった」

「あー、そう言えばそんなのがいたわね」

 シュガルが正解を導き出すと、キカンスやルーも納得といった表情を浮かべる。

「あれっ……? で、でも、ロベルトさん達が『巨岩割り』から抜けて、リューノスケさん達と一緒にいるんですか?」

 疑問を口に出したのは、ティスティルというリスの獣人の女だ。
 元になった動物っぽいというべきか、どこかオドオドとした態度をしている。

「いや……、それは……」

 どうやら彼らは悪魔事件に関しては一面部分しか知っていないようで、そこに『巨岩割り』が参加していた事は知らないらしい。

「それは?」

 変に言葉を切ったせいか、余計注目を浴びる龍之介。
 キカンスが『巨岩割り』について話をしている時、まるで憧れている相手について話しているように龍之介は感じていた。
 そこへ不幸な報せを送るのはどうかと思いもしたが、調べればすぐに分かる事でもあるので、仕方なく龍之介は重い口を開いた。


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