どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第十二章

第295話 リフレインボイス

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 ロアナが拠点を去っていった後。
 丁度全員が集まったという事で、しばらく中央館の会議室ではおしゃべりが続いていた。

「にしても、拠点の開発か……。確かに、それも必要になるだろうな」

「そーだな! オレ達もこれまでの冒険でそこそこ稼いでいるしな」

「未だに《ジャガー町》の方の開発は盛んだけど、人も増えてきた分、家の建設を頼める所もあるだろう」

 現在の《ジャガー町》は引く手数多という事で、《鉱山都市グリーク》はおろか、噂を聞きつけた近隣の《アルザス》や《ルイトボルド》からも、建築業者や商人などが集まってきていた。

「あ、そうだ、忘れてたぁ。どっかの業者に建物の建築を依頼するならぁ、排水関係とか幾つか話しておくことがある。依頼をする際にその事も伝えておいてくれい」

「排水って、北条さんが作ってたあの下水道と繋げる奴ですよね?」

「そうだぁ。下水道の構造は俺が一番詳しいし、下手に外部の者を下水道の中に入れたくはない。建設した建物の排水周りは俺が直々に手を加えるつもりだぁ」

 北条の作っていた下水道は、王都の貴族の住むエリアもかくやというような、色々な魔法装置だのが設置されている。
 隠蔽工作が施されているとはいえ、その中には一般に希少であるとされている魔水晶がふんだんに使用されていた。

 これは北条の"砂魔法"によって生み出されたもので、同様のものは『ウェディングウォーター』や『スーパー銭湯』などの施設にも使われている。
 魔力を蓄積するという特性を持つ魔水晶は、魔法道具や魔導具によく用いられる素材だが、天然での産出量は少ない。

 主にダンジョンの宝箱や魔物のドロップが供給源となるのだが、"砂魔法"の【クリエイトクリスタル】の魔法でも一応生み出すことが可能だ。
 しかし【クリエイトクリスタル】は上級の"砂魔法"であり、更に上級の中でも扱いが難しい魔法で、扱えるものは少ない。
 そもそも"砂魔法"自体が、"土魔法"と比べてユーザーが少ないのだ。

 北条の場合"砂魔法"だけでなく、"土魔法"、"金属魔法"、"重力魔法"などいくつもの魔法やスキルを併用して扱い、尋常じゃない品質の魔水晶を作る事に成功している。

 北条は一度その魔水晶を、ギルドの鑑定士としてやってきた、"鑑定"スキル持ちのコーネストに見せた事があった。
 その時にベラボーな値段をつけられて以来、特に魔水晶の扱いには気を遣うようになった経緯がある。

「どうせなら、北条さんが建物まで建てればいいんじゃないの?」

「俺ぁ色々と忙しいんでなぁ。今建てている建物の続きもやらないといかんし、ロアナの言っていた農民用の家も用意せんといかん」

 魔力やスキルが豊富にあろうが、そこは一人の人間である以上、一度にやれる事には限界があるようだ。

「それに防犯の事も考えんとだめだなぁ」

「防犯?」

「この拠点の広さに対して、戦力は今の所ツィリルと、アーシアの眷属のスライム達だけだぁ。スライムは下水道や水堀の方を重点的に見てもらっているから、地上部分の守りをもう少しどうにかしたい」

「でも、人を雇うのも難しいんじゃない? 腕の立つ人となればそれだけお金もかかるでしょうし」

「うむ。そこでこういったものを利用していきたい」

「これは……何ですか?」

 北条が取り出したのは、何らかの拳大の石のようなものだった。
 別段鉱物に詳しという訳ではないメアリーには、そこいらに転がっている石との区別もつかない。

「こいつぁ〈ストーンゴーレムの核〉、だぁ。こいつに"刻印魔法"などを使ってゴーレムを作り出す」

 ダンジョンに出現するゴーレム系の魔物は、レアドロップとして核を落とす事がある。
 この核を利用してゴーレムを生み出し、従わせる方法は古来より研究されていた。

 北条もスキルとしてはゴーレムを作るのに必要なものは揃えていたが、実際に作った事はない。魔水晶の時のように、探り探りしながら作っていく事になるだろう。

「ふぅ、まったくここはとんでもない要塞になりそうね」

「違うぞぉ、カタリナぁ。ここはあくまで"拠点"なのであって、砦だとか要塞だとかそんなんじゃあない」

「はいはい。呼び方になんの拘りがあるのか知らないけど、拠点ね拠点」

 呆れた様子のカタリナは、「ちょっと町までいってくるわ」と言うと、その場に残りたそうにしていたロベルトを引き連れて、町まで行ってしまう。
 他の面子も話題が散逸的になってきたので、雑談をやめて何か別の行動に移ろい始める……そんな時。話題がふとスキルの話に変わった。


「そういえば私、"音魔法"っていう魔法スキル覚えたんですけど、これ何か役に立つんですかねえ?」

 特に練習していたという訳でもないのだが、咲良は新たに"音魔法"という魔法スキルを習得していた。
 これはその名の通り、音に関する事を扱う魔法だ。

「"音魔法"は音を操る事が出来る魔法だな。蝙蝠の魔物なんかも使っていただろぅ?」

「ああ、あのキンキンうるさい奴っすね」

 "音魔法"には超音波を発して敵を攻撃する魔法もあるが、基本的に戦闘に向いた系統の魔法ではない。
 ただ使い方次第では化けることもある。

 "音魔法"で有名なのは【ディテクション】という魔法で、「ガアーン」という音と共に音波を周囲に走らせ、周囲で隠れている存在や、隠遁系のスキルの効果を打ち消す効果もある。
 実際に北条が【ディテクション】を使って見せると、最初に響いた「ガアーン」という音の大きさに、居合わせた者は一様に耳をふさいだ。

「……ッ、これは煩いけど、場面によっては役立ちそうですね……」

 若干顔をしかめながらも、有効そうな場面を想像する咲良。

「他にも【リフレインボイス】っていう、一度だけ自分の声を閉じ込める魔法なんかもあるぞぉ」

 こちらは魔石などの、多少なりとも魔力を持っている物に対象が絞られるが、物品に自分の声を保存しておける魔法になる。
 録音したものに触れて魔力を流せば、録音した声を聞くこともできるが、一度聞くと保存されていた内容は消えてしまう。
 逆にそれが機密保持の面では役に立つので、重要なメッセージなどを伝えるのに、この魔法が用いられることもあった。

「へぇ……。これは面白そうですね」

「こっちのが魔法の難度は低いから、練習すればすぐに使えるようになるだろぅ」

「じゃあまずはこの【リフレインボイス】を練習してみます」

「そうするといい。ああ、それと咲良はこの"音魔法"で魔法系スキルが八個目になる。称号が『魔法を知る者』から『マジックマスター』になって、より魔法の威力が上がったはずだぁ」

「あ、なんか妙に魔法の威力が強くなったのは、魔力の祝福の効果だけじゃなかったんですね」

「うむ。戦闘では余り使えない"音魔法"でも、称号を強化するには重要なコマって事だぁ」

「はぁ……。咲良はどんどん強くなってくわね」

「陽子も他とは違う得難いスキルが多い。そう悲観することもないぞぉ」

「別に悲観してるって訳でもないんだけど……」

「陽子はすでに"取得経験値上昇"スキルを覚えているし、なんかいつの間に"取得技能経験値上昇"のスキルまで覚えてる。長期的に見れば、陽子の方が伸びるのは早いだろう」

「あー、あれねえ。私もいつ覚えたのかさっぱり覚えてないんだけど……」

 先日のDランク昇格でギルド証を更新した際に、いつの間にか覚えていたその二つのスキルに、陽子ははてなマークが頭に浮かんでいた。

「その二つはレアスキルだからそう簡単に覚えられるもんじゃあない。よかったな!」

「う、んーーん。まあ悪いスキルではないんでしょうけど……」

 そんな事を話しつつ、各々が中央館を後にする。
 すると訓練場の辺りで何やら騒いでいる声が聞こえてくる。
 どうやら先に表に出ていた由里香たちに何かあったらしい。

 最後に中央館を後にした北条や咲良たちは、引き寄せられるようにその騒ぎの現場へと向かった。


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