どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第十一章

第279話 罠エリアの新たな魔物たち

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「グルルルル……」

 燃えるような赤い目に、大きな黒い体をした犬の魔物が、断末魔の声を上げながら倒れていく。
 すでに同じ種類の他の魔物は咲良の魔法によって止めが刺されており、残るはダンゴとマンジュウが戦っているスライムだけだ。

 こちらのパーティーには"解析"スキルを持つ北条もおらず、知識系のスキルを持つカタリナもいない為、見たことの無い魔物と出会ってもその正体が特定しにくい。
 とはいえ、この犬の魔物とスライムの魔物についてはロベルトが知っていて、彼からふわっとした情報は得られた。

 犬の魔物はヘルハウンドという名前で、"闇魔法"を使ってくる、物理と魔法双方を備えた魔物だ。
 光属性が弱点との事で、信也の"光魔法"がかなり効果を発揮していた。

 スライムの方はナイトスライムという名前のスライムで、これは北条の契約しているアーシアが最初に進化した時の特殊進化先の種族だった。
 名前の一部に爵位など立場を冠するスライムは、耐性スキルが多く、上のランクになるほど倒しにくくなってくる。

 ナイトスライムはこのシリーズの中では最弱ではあるし、攻撃も体の一部を変形して殴ってきたりなど、物理攻撃しかしてこない相手だが、そのタフさだけはこの段階から既に持ち合わせていた。

「ウァォオオオオン!」

「ぷるるるる~」

 しかしそんなタフなナイトスライムも、最後に残った一匹をマンジュウとダンゴが蹴散らしていた。

「よ~しよし。えらいね~」

「わふぅ……」

「あはは。マンジュウったらすっごいシッポをブンブン振ってるよ!」

 見事魔物を倒したマンジュウを芽衣が撫でていると、心底嬉しそうな声でマンジュウが芽衣にスリスリしていく。
 その尻尾部分は由里香の言う通り、激しく上下に振られていた。

「ふう。この辺りで一端休憩にしよう」

「了解ッス!」

「分かったわ。じゃあ【物理結界】を張りなおすから、一旦みんな私の近くに集まって」

「うぃッス! 今行くッス、姐さん」

「ちょっと……。その呼び方はよしてって言ったでしょ」

「えーっ! でもヨーコさんはザ・『姐さん』って感じですし」

「もう、何なのよそれぇ」

 膨れた顔をしつつも、呼び方の矯正にそこまで断固とした意思を見せない陽子。この様子だと姐さん呼びが定着しそうだ。
 この場にロベルトの性格を知り尽くしたカタリナがいれば、間違いなくそうなっていくだろう事が予見出来た事だろう。

「にしても、流石に少ししんどくなってきたッスね」

「……そうね。一回一回の魔物たちとの戦闘だけみれば、まだ戦えない事はないんだけど」

「しかし消耗が増してきているのは確かだ。長尾さ……長尾も召喚枠いっぱいまで魔物を常時召喚してもらっているからな」

 これまで余りユリメイコンビと接する機会のなかった信也だが、同じパーティーを組むことになったので、律儀な信也はパーティーが決まってからちょこちょこと二人に話しかけたりしていた。

 その際に、二人からは名前は呼び捨てで構わないとのお墨付きはもらったのだが、今でも時折さん付けが出てしまうあたり、まだまだ信也も慣れていないようだ。

「うーん。十一層と十八層に迷宮碑ガルストーンがあったから、このペースだと次の迷宮碑ガルストーンは二十五層ですかね」

「ううむ。とりあえずまだどうにか進めてはいるが、次の迷宮碑ガルストーンでまた出現する敵が変わったら、ついていけなくなりそうだ」


 現在彼らが探索しているのは、地下迷宮―罠エリアの二十三層だ。
 十八層の迷宮碑ガルストーンの階層を境に、新たに先ほどのヘルハウンドやナイトスライム。
 それから出会いはしたものの名称の分からない『逆さ男』に、こちらはその特殊な能力が独特で有名な、トラップメーカーと呼ばれる魔物が新たに姿を見せるようになってきた。

 逆さ男はまんま言葉通りの意味で、迷宮内の天井部分をまるで床のようにしてひっそりと歩いて近寄ってきて、手にした紐で冒険者の首などを締めあげてくるという、なかなかに恐ろしい事をしてくる魔物だ。

 正式名称をリバースウォーキングと言い、Dランクに分類されているこの魔物は、ダンジョン以外での目撃証言がない事で知られている。
 そのため特に迷宮探索をメインとする冒険者以外には、驚くほど知名度が低い。

 こいつ逆さ男もウォールイミテーターと同じく、ダンジョンに設置された罠に気を取られている隙を襲われかねない、危険な魔物だ。
 しかしそれも同じ陽子の【物理結界】によって、不意打ちを受ける事はなくなる。
 陽子の張っている結界に何かが触れると、魔力的な触感のようなもので術者がそれを感じ取れるのだ。

 なのでリバースウォーキングに関しても、彼らにとってはそれほど問題ではなかった。
 厄介なのはもうひとつのトラップメーカーという魔物の方だ。

 こいつは球体関節の体を持つ、木製の操り人形のようなボディーを持っている。
 そして"罠戦闘"や"魔法罠設置"のスキルを使い、間接的に冒険者に攻撃をしてくるのだ。

 トラップメーカーの設置する罠は魔法罠と呼ばれるもので、通常の"罠解除"スキルで解除する事が出来ない。
 "罠感知"スキルで感知する事はできるので、盗賊職が声を掛ければ罠の位置を知らせることは出来るが、魔法罠は設置数に限度があるものの、魔力を使って手軽に設置が出来るのが強みのひとつだ。

 "魔法罠設置"のスキルは、自分の設置した罠なら即座に削除する事も可能なので、盗賊職が声を掛けた後に罠を解除し、罠を避けて進もうとした先に新たに罠を設置するなんて事もしてきたりする。

 由里香などは最初罠を気にもせずトラップメーカーに特攻をかけ、ダメージを負いながらも倒す、という戦法を取っていた。
 それを見かねた芽衣が、召喚した魔物を肉壁代わりに使うようにしてみた事もあった。

 たが、トラップメーカーの罠の仕掛け方はなかなか巧妙であった。
 肉壁の魔物をただ突っ込ませるだけだと、なかなか本体に手が届かないのだ。
 それこそ由里香のようなフィジカルの高い者が特攻でもかけないと、なかなか本体の所まで辿り着かせてはくれない。


 結局最終的には魔法をメインに使って倒す事になったのだが、ただでさえウォールイミテーター相手に魔法多めで戦っていたので、MP的に負担を強いられている。
 特に十八層からはウォールイミテーターの床版、フロアイミテーターも出現するようになっていて、しかもこちらはDランクの魔物であった。

 こいつも石で出来た床に擬態した魔物であるので体が硬く、なおかつ床に同化して移動してくるので攻撃がしにくい。
 全体的な能力もDランク相当になっていて、倒すのにウォールイミテーター以上のMPを消費していた。

 そうした事もあって、探索の間に休憩のペースを挟む機会は増えている。

「でもまー、ぶっちゃけこれまでが異常なだけで、これくらいのペースで休憩入れるのが普通なんッスけどね」

「そうなのかもしれないが、これでは探索も思うように進まんな」

「いやいや、十分これで早いと思うッスよ。そもそも多くの迷宮冒険者たちは、こんな熱心に探索はしないッスからね」

 日々の糧の為に迷宮に潜る冒険者たちは、下手すれば迷宮碑ガルストーンがある階層だけをひたすら毎日通い詰めるなんて事もある。
 それを繰り返し、レベルが上がってから別のエリアに赴いたり、エリアの先を進んだりなどといった選択を取る。
 つまり冒険者という割には冒険的な行動を取るのではなく、毎日のルーチンワークを繰り返す連中の方が多いのだ。

「そんなものなのか」

 リーダーとしての責任感からなのか、それとも早く日本へ帰りたいという思いからなのか。
 信也は同じ日本人の由里香や芽衣から見ても、ダンジョンの探索にかける気構えが強いように思える。

「カティがいれば少しは変わるんッスけどね」

「ああ、アレの事ね。確かに便利だったわ」

 ロベルトが言っているのは、カタリナの持つ特殊能力系スキル、"トリックボックス"の事だった。
 このスキルは発動させると本人にしか触れられない箱が出現する。
 箱はからくり仕掛けになっていて、毎回違う手順で開けられるようになっていて、制限時間内に空けられないと効果が何も発動しない。
 しかし時間内に無事開ける事が出来ると、十メートル四方に特殊なフィールドが展開され、この内部にいる間はHPやMPなどの回復量が増加する。

 レイドエリアを探索していた時は、何度もこのスキルのお世話になっていたものだ。

「スキルといえば、ロベルトさんは北条さんから何か良さ気なスキルを借りたりはしない……んですか?」

 ふと思いついたことを口にした咲良だったが、言葉尻になる辺りで声が萎んでいく。
 あの時のロベルトとのやり取りを思い出したからだ。

「あ、いや。別に無理にとは言わないですけど」

「……そッスね。二つ目が盗めるようになったらそれもありッス……」

 普段は腰の低い態度が多いロベルトだが、この話題になるとどこかアンニュイな雰囲気を漂わせる。
 咲良は失言しちゃったな、と思いつつ話題を変えようと口を開けようとしたが、その前にロベルトが話を続ける。

「僕が今使ってる"神聖魔法"のスキルは、亡くなった母さんから譲り受けたものなんッス……」

 この事には触れてほしくないのか、それとも話を聞いてもらいたいのか。
 そのどちらかは判然としなかったが、ロベルトはそう言って過去の出来事を語り始めた。



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