どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
上 下
289 / 398
第十一章

第256話 龍破斬烈槍

しおりを挟む

 パトリア―クホースとの闘いが始まってから、一時間ほどが経過した。
 領域守護者エリアボスとはいえ、元の魔物にスキルを幾つか増やし、耐久力が上がったくらいで、攻撃力などはそこまで通常種から変化していない。
 そのせいかこれまで危険な場面が訪れる事もなく、常に優位を保って戦闘を続けることが出来ていた。


「北条さん、お願いします~」

「おう! 止まれえええええいッ!」

 芽衣の合図を元に、北条が"強圧"と"咆哮"のスキルをダブルで使用し、未だにすばしっこく動き回るパトリア―クホースの足を止める事に成功する。
 素早く走り回り続ける相手に、範囲攻撃でもないと避けられてしまう可能性が高かったが、これで当てるのに問題がなくなった。
 このタイミングに合わせ、芽衣以外の遠距離攻撃持ちも一斉に攻撃を打ち込む。

「フゥ……ッ!」 「そおおいっ!」

「ぷるるんっ」

「ロイド、今よ! 水の槍を叩っきつけてっ」

「では僕は"雷魔法"で……。【雷の矢】」

「あ、私も! 【雷の矢】」

「うぁふううう!」

「おいおい、お前ら余裕だなあ。【エアハンマー】」

 陽子や楓が"投擲術"による攻撃を行い、アーシアが"闇魔法"を使用する。
 啓介と咲良は取得したばかりの"雷魔法"を使い、マンジュウもそれに合わせて魔法で攻撃を叩きこむ。
 啓介と咲良がなつかしの【雷の矢】を使用しているのは、熟練度が低いためまだ他の魔法が使えないからだ。

 それを敢えて使用したのは、魔法は一人で練習するよりも魔物相手に実際に使ったほうが伸びやすい、という北条の指摘があったためだ。
 要するにタフな領域守護者エリアボスを熟練度上げの練習相手にしようという訳だ。

 龍之介の"風魔法"の後にも、信也が魔眼スキルを使いつつの"闇魔法"による攻撃を加えたり、ロベルトが"風魔法"を使うなど、フルレイドパーティーでもありえないほどの量の魔法が次々と放たれていく。

 それらは初級ランクの、火力が抑えめの魔法ばかりだった。
 しかしこうも何発も打ち込まれれば、通常の魔物ならよほど高ランクでない限り、お陀仏になっている頃だろう。
 しかし、まだまだパトリアークホースの瞳に宿る殺意の炎が消えることはない。

「ううぅぅ……。い、いきま~す。"龍破斬烈槍"」

 最後に芽衣が新しく覚えたスキルを使用する。
 これは特殊能力系の攻撃スキルで、範囲は慶介の"ガルスバイン神撃剣"よりは狭いが、単体に与えるダメージ……というより貫通力・・・に関してはかなりの力を持っていた。

 芽衣が苦痛に耐え、力を込めてスキルを発動させた瞬間、芽衣のすぐ近くの空中に槍が姿を現す。
 長さは三メートルほどで、太さも長さに合わせてか少し太い。
 シンプルな作りをしていて、その形状から突き刺す事に特化していることが見て取れる。

 音もなく芽衣の近くに現れた槍は、再び音もなく的であるパトリアークホースの元へと高速ですっとんでいく。
 攻撃を連続で喰らっていたパトリアークホースは、そろそろ状態異常の効果も切れかかってはいたが、この速さで飛来してくる槍を避けることはかなわなかった。

「ヒイイイイイイイインゥ!」

 初級魔法の連続攻撃の時にも上げなかった大きな悲鳴を上げて、その場でのたうち回るパトリアークホース。
 重要な器官のある場所から外れた場所へと、なんとか槍の攻撃を逸らすことは出来たが、命中した場所はぽっかりと穴が開いており、そこからはどす黒い血が垂れている。

 これまでの戦闘の中で、北条が"暗黒魔法"の上位魔法である"漆黒魔法"を打ち込んだ場面があった。その時もパトリアークホースは同様に大きな声を上げている。
 ただ"漆黒魔法"は"暗黒魔法"同様に直接HPを削る系統なので、見た目的には実際どれくらい効いているのかが判別しにくかった。

 しかし芽衣の"龍破斬烈槍"は、パトリアークホースの左後ろ足の根本近くに
命中しており、そのせいか自慢の足の速さにも陰りが出てきたようだ。
 北条のスキル影響下から抜けたあとは、以前のような素早さがなりを潜めていた。

「よし! 今がチャンスだ」

「わわっ……。あたしもーーーっ!」

 そんな相手の状態を見て取った信也は、今度は武器を手にパトリアークホースの元へと乗り込んでいく。
 遠距離攻撃手段に乏しく、これまでなかなか出番のなかった由里香も、慌てたように後に続き、他にも近接攻撃の出来るものが軒並み近づいていく。

 一時間もの戦闘によって疲労がたまっていた一行だが、動き回るというよりは遠距離攻撃が多かったので、身体的疲労はそこまででもない。
 ただ魔法やスキルを多く使ったので、そちらの方は人によっては大分MPを使い果たしていたりもする。

 なので逆に武器による戦闘の方が助かるといった側面があった。
 それに魔法だけでなく、戦闘スキルを磨くにもやはり実戦で魔物と戦うのは効率がいい。

 油断……とも違うのだが、すでに相手の力量が大体分かってきた信也達は、取り囲むようにしてパトリアークホースに攻撃をしかける。
 悲惨な事に、北条と陽子による"呪術魔法"によるデバフをこれでもかと掛けられ、四方八方から様々な武器で攻撃を受け続けるパトリアークホース。

 ただ敵を倒すだけならわざわざそんな事までしなくてもいいのだが、慶介や咲良などの後衛職もこのタコ殴りには参戦していた。
 そして北条とロベルト兄妹は、洞窟系エリアではなかなか使いどころのない弓矢による攻撃を行っている。

 北条の手にしている弓は、ダンジョン内の木の宝箱から手に入れたもので、特に魔力のない普通の弓だ。
 それを、ロベルト兄妹らが思わず弓を引く手を止めて見つめてしまうほどの練達した動きで、次々と矢を放っていく。

 このようにして、時を重ねるごとに傷が増えていくパトリアークホースは、それでも最後まで諦める様子を見せることはなかった。
 どんなに深い傷を負っても、油断したやつがいたら蹴り殺してやろうと、鋭い眼光を向ける。
 それは囲んでる側も重々承知で、北条が言っていた"後ろ足蹴り"というスキルを警戒し、隙があったとしても決して背後から近づくことはしなかった。



 そうして二十~三十分ほど物理主体でタコ殴りにした結果、ようやくその巨体が完全に沈黙し、さほど間をおかずして光の粒子へと変わっていく。
 その場に残されたのは、本来Dランクであるパトリアークホースのものと比べると、より深い青みの光を滲ませている魔石。
 それから領域守護者エリアボス番人キーパー特有の、特別なドロップアイテムが幾つか。
 それらのアイテムは、デデン! と置かれた鉄の箱の上に置かれていた。

「うひょおおおお! やったぜ、宝箱だ!」

「これは……鉄箱だから中身もそこそこ期待できるわね」

 迷宮を探索する冒険者にとって、宝箱とは魅惑の言葉である。
 低レベルの木の箱や銅の箱であれば、そこまで狂喜乱舞するほどではないのだが、それ以上となってくると話も変わってくる。

 以前信也達が《フロンティア》で番人キーパーを倒した際にも宝箱はでていたが、あれは宝箱を守る番人キーパーだったからであり、番人キーパーが宝箱をドロップした訳ではない。

 領域守護者エリアボス番人キーパーよりも宝箱のドロップ率は高いとはいえ、そうホイホイとでるものでもないので、今回は運がよかったと言えるだろう。

「えーっと、こういった形ででる宝箱には罠はないんだっけか?」

「そうッスね。罠部屋の報酬で出てくるような奴は、罠はかかってないッス」

「じゃあまずは箱の上に乗ってるのを片してから箱を開けるか」

「おう!」

 信也の提案に二つ返事で返す龍之介。
 箱の上に乗っている、Dランク領域守護者エリアボスのドロップも、それなりに価値のあるものが並んでいる。しかし、龍之介はそれよりも箱の中身が気になって仕方ないようだ。

「それじゃあ北条さんか里見さん。回収をしてもらえるか?」

「おう。それじゃあ"解析"しながら一つずつ収納していこう」

 そう言ってドロップ品をひとつひとつ手にしていく北条。
 ドロップ品というだけあって、その多くはノーマルのパトリア―々ホースが落とす、肉やしっぽ。それから鬣などが多かった。
 ただその中に、レアドロップであるパトリアークホースの頭羽根も含まれていた。
 カタリナによると、これはそこそこの値で取引されるらしい。

 他には〈ゼラゴダスクロール〉や、〈ワンスターボール〉と〈ツースターボール〉などもドロップしており、次々と"アイテムボックス"内に収納されていった。


「そいじゃあ、次はお待ちかねの宝箱だぁ」


 周囲からの期待の視線を受ける北条。
 やはり何度経験しても、宝箱を開ける瞬間というのはわくわくするものらしい。
 変に俯瞰的にそう考えながら、北条はそう言って宝箱に手を掛けるのだった。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました

璃音
ファンタジー
 主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。 果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?  これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。  

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...