どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
283 / 398
第十章

第252話 見定め その2

しおりを挟む

「す、凄い……」

 マデリーネが思わずそう感想を漏らすほど、北条とエスティルーナの模擬戦はレベルが高かった。
 何せ、動き始めたらまともに動きが目で追えないのだ。
 そして、恐らくはその見えない動きの中にも高度な駆け引きがあるのだろう。
 時折両者が不意に動きを止めたり、打ちこもうとした武器を途中で止めたりといった、見えない駆け引きが二人の間には感じられた。

「…………」

 アーガスも目の前の戦いをジッと黙って見つめていた。
 先ほどはアーガス自身もあの北条と模擬戦を行った訳だが、その時には大分手加減をされていたのだなと、目の前の光景を見て認めざるを得ない。
 北条の実力を出し切れなかった自分に、武人として口惜しい気分が沸き上がってくる。
 しかし同時に領主としての自分が、目の前の男について別視点で見定めていく。

(これほどの近接戦闘力を持ち、この要塞……拠点をも築き上げる魔法も使いこなす。この男は我がグリーク家、ひいてはグリーク領において毒となるのか薬となるのか)

 アーガスの眼が一瞬僅かに圧を放つ。
 それはほんの一瞬の事で、魔力や気の類を発した訳ではないので、その事に気づくものはいない。

(……やはり、俺の"鑑識眼"では善であるとも悪であるとも判別出来ん)

 アーガスはこれまでにも、二度ほど"鑑識眼"の能力を北条に対して行使していた。
 "鑑識眼"は物事の善悪・真偽・美醜などを見分ける魔眼の一種だ。
 このスキルはこれまでもアーガスの大きな力となっていたが、それも完全とは言い切れない。
 どこか怪しいものを感じてはいたものの、イドオンの司祭に扮していた悪魔を見極める事が出来なかったからだ。

(俺が見たところ、この男は本質的に敵にはなりえない。しかし、これだけの実力者となればいつか騒ぎを起こす事だろう。本人がそれを望まなくとも、な)

 アーガスが北条について考えを巡らせている間にも、両者の模擬戦は続いている。
 と、不意に視線を逸らすエスティルーナ。
 その隙を見逃さず、北条は"二段突き"で迫る。
 実力者同士の戦いとはいえ、そうそう秘技クラスの闘技スキルを打ち合ったりなどということはしない。

 いくら実力者といえど、大技を使えば疲労もするし、相手の手の内も見えないうちに使うものでもないからだ。
 それ故に闘技スキルでは、「基礎」や「応用」に分類されるスキルが重要である。

 北条もその基本に倣って、"二段突き"から相手の行動を縛っていく。
 最初の"二段突き"をかろうじて躱したエスティルーナが、躱した方向へと放たれた"刺突斬"。
 これは斧槍系の闘技基礎スキルで、最初に突きを放った後にそのまま横へと斧刃部分で薙ぎ払うというスキルだ。

 最初の刺突によって逃げ道を塞がれ、更にそこから派生する凪ぎ払いによる追撃は、エスティルーナの身軽さを持っても躱しきることは出来そうにない。
 ……かと思われたのだが、急に動きがよくなったエスティルーナは、ある程度の余裕を持ってその攻撃を回避する。

(今のは"機敏"か)

 今までの動きからして明らかに動きが違う今の回避を見て、瞬時に北条はそう判断する。
 身体能力を一時的に強化するスキルは、一度使用すると次に使用できるまでのクールタイムが長い。

(……となると)

 ――次なる行動は、この速度アップ中に攻撃に集中するか、一端距離を取って態勢を整えるか。

「フゥッ!」

(やはりそう来るか!)

 特に示し合わせた訳でもないが、今回の模擬戦ではエスティルーナは魔法や遠距離武器などを使用していない。
 恐らくは、北条の近接戦闘能力がどれほどのものかを測るため……それかもしかすると、こうした模擬戦では作法的に弓や魔法などを使うものではないのかもしれない。
 そのあたりの慣習はどうにせよ、後ろに下がっても遠距離の攻撃手段がないのなら、向かってくるのは必然と言えた。

 エスティルーナは、エストックの先を北条に向けたまま近づいていき、持ち手をゆらゆらと揺らす。
 突剣系の闘技スキル、"突惑"だ。
 ゆらゆらと揺れ動く剣先で、相手の集中を逸らす効果のあるスキルだが、北条はエスティルーナの眼や全身の筋肉の動きに注視したまま、余計な視線の動きをすることはない。

 だが構わずエスティルーナは闘技スキル、"アブラプトピアース"を放った。
 本来なら、基礎や応用のスキルで相手を乱してから強力なスキルを狙うのが定石とされているが、"突惑"からの"アブラプトピアース"はエスティルーナの必殺コンボである。

 "アブラプトピアース"は、突剣系の闘技秘技スキルであり、相手の意識外、集中の外から攻撃するような効果をもたらす。
 命中率の高いこのスキルは、単体でも十分通用するほどのスキルだ。
 だがそこに"突惑"を加えることで、より有用性を増すことが出来る。

 "突惑"で素直に相手が惑わされれば良し。相手に"突惑"の効果がなければ尚良しだ。
 相手側からすれば、集中を乱すスキルを防いだのだから、すぐに不意な攻撃を受けることがないものだと、本能的に判断……油断をしてしまう。
 そこにスキルそのものに不意を突く効果を持ち、しかも闘技秘技クラスの攻撃を重ねるこのコンボは、"攻撃を当てる"という点で考えればかなり有用であった。


 キイイィィィンッ!


 つい先ほどまで、真正面から迫ってきていたと思われたエスティルーナの刺突。
 それがぐにゃりとまるで幻であったかのように立ち消え、北条の認識からは少し角度のずれた位置からエストックの切っ先が迫る。
 知っていた・・・・・とはいえ、"空間感知"でも追いきれなかったその動きに、北条はかろうじて右手に持つ〈サラマンダル〉を割り込ませる事に成功する。

「……ッ」

 攻撃を防がれた事に、驚きの表情を浮かべるエスティルーナ。
 そこへ突如訪れた腹部への衝撃によって、更なる驚きに眼を瞠りながら、エスティルーナは吹き飛ばされていく。

 北条がカウンターとして左手で放った、格闘系の闘技応用スキル"隠拳"は、攻撃が察知されにくいという特徴を持っている。
 とはいえ、秘技スキルを躱された状態からカウンターで打たれた攻撃となれば、いかに"機敏"で強化されたエスティルーナとはいえ、通常のスキルでも命中していたかもしれない。

「っとお」

 吹き飛ばされていくエスティルーナとは対照的に、北条は追撃を掛けずに後ろへと下がる。
 いかに"機敏"の効果中であろうと、それだけ距離を取れば北条なら対処は出来る、そういった距離だ。
 これによって、彼我の距離は二十メートル近く離された。

(さて、どう出るかな)

 油断なくエスティルーナを観察する北条。
 しかしそんな北条をあざ笑うかのように、エスティルーナは瞬きの間を待つこともなく、一瞬で北条の目の前へと現れる。

 これまでの動きが全力ではなかったと言うような、一瞬の移動。
 それは移動だけでなく、その後の動きもこれまでより・・・・・・更に一段上の速さがあった。
 移動してからの攻撃に移る動作。それはまるで早送りしたかのような不自然な速さでもって、エストックの切っ先を北条の右上腕部に突き刺す事に成功していた。

 突然の攻撃に北条の右腕の筋力が緩み、手にしていた〈サラマンダル〉をこぼれ落とす……間際に、先ほどと同じように"隠拳"を咄嗟に叩きこもうとする北条。

「それは見た」

 しかしエスティルーナは北条が左腕で放ったスキルを、自身の右手でいなしながら、相手の力を利用して合気道の技のように投げ飛ばす。
 これまで右手でエストックを握っていたエスティルーナだが、今は本来の利き手である左手に武器が収まっていた。
 そして空いた手で北条を投げ飛ばしたのだ。

「ぐううぅっ」

 土の地面に投げ飛ばされ、呻く北条。
 投げ飛ばされた事によるダメージもあろうが、右腕に走る痛みも重なったのだろう。
 尻もちを突いた状態の北条が降参の声を上げる。

「いやぁ、参った参った。流石Aランクの冒険者の実力はとんでもないねぇ」

 そう言いながら、ゆっくりと立ち上がる北条。
 負けたというのにその顔には悔しさといった感情は見えず、逆に良い経験を積んだといったような清々しい顔をしていた。
 エスティルーナは北条が先ほど取り落とした〈サラマンダル〉を拾い、北条へと無言で返す。

「こいつぁ、わざわざどうも」

「………………」

 礼を述べる北条だが、相変わらずエスティルーナの方は無言だ。
 この時彼女の中では、色々と尋ねたい事が山のようにあった。
 しかし尋ねたとしても素直に教えてくれるとも思えず、またどう質問するべきかも分からず。結局エスティルーナは無言のままその場を去り、アーガスの傍へと戻った。

「それでぇ、模擬戦も終わったことだし大分日も暮れて来たぁ。今日はこれでお開きという事で構わないかぁ?」

「そうだな、長々とお邪魔した。我らはこれより引き上げるとしよう」

 そう言って拠点の西門からアーガス達が出ていく。
 そこでも再び別れの挨拶が交わされ、町へと戻っていくアーガス達。

 その背がまだまだ見える距離。
 そこで不意にアウラが振り返って言う。


「ホージョー。今度は私とも模擬戦を頼む!」


 どこか輝くような笑顔を浮かべながら、そう言ってアウラは手を振るのだった。 


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...