どこかで見たような異世界物語

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第十章

第230話 復活の信也

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「あっ……」

 拠点で魔法の練習をしていた咲良が小さく声を上げる。
 視線は西門付近に注がれており、丁度そこから一人の男性が中へ入ってきた所だった。 

「和泉さんっ!」

 その姿を確認した咲良は、大きな声を上げ魔法の練習を中断すると、信也の方へと走っていく。
 他にも、咲良の声を聞いた異邦人達が、同じように信也の下へと駆け寄っていった。

「いよう、お目覚めかぁ?」

 どこか肩身が狭いといった様子で委縮していた信也に、最初に話しかけたのは北条だ。

「……ああ。お陰様ですっかりな」

 そう答える信也は、やはりどことなくバツが悪そうな顔をしているが、一時期のような暗い影も大分薄れていた。

「そいつぁよかった」

「スマン。皆には色々と迷惑をかけてしまった」

「気にしないでって言っても無理かもしれないけど、ほんと和泉さんが悪いって訳でもないし、私は気にしてないわよ」

「だが……」

 陽子の言葉に何か言い返そうとする信也。しかし途中で言葉を飲み込んだ信也は、許してくれるという陽子に対し礼の言葉を掛けた。

「ありがとう。そう言ってもらえると少しは気も楽になるよ」

「はんっ! リーダー・・・・はこまけーこと気にしすぎなんだよ。今ここでそんな事気にしてる奴なんていねーだろ」

 そう言ってニカッと笑う龍之介。
 その龍之介の笑顔は、百の言葉より信也の心の中へと染み渡っていくようだった。

「ふっ、そう……か」

 屈託なく笑う龍之介を見て、自然と信也の表情にも軽い笑みが浮かんでくる。
 そんな二人を見て、その場にいた他のメンバー達にも自然と暖かな表情が広がっていく。

「その様子だと、本当にもう大丈夫そうね」

「ああ、心配をかけてしまったがもう大丈夫だ」

「それじゃあ、和泉さんがいない間に話し合ってた事なんかを伝えておくわね」

 そう言って陽子が悪魔事件の経緯や、北条の能力などについて語っていった。
 精神的に不安定だった信也には、こういった話は一切伏せられていたので、何度も驚きの表情を浮かべながら、信也は話を聞くことになる。
 特に信也は龍之介との闘いの後、ずっと縛られて別所で隔離されていたので、そもそもの悪魔の末路すら知らなかったのだ。



「ううううむ…………」

 陽子も焦らずにゆっくりと順番に説明していったのだが、段々ついていけなくなってきて、信也は途中からまるで絵物語を聞かされた気分になっていた。
 だが少しずつ話をかみ砕いていって脳の処理が追いつき始めると、今度は幾つか気になった点などを質問していく。
 そうした質疑応答を経て、ようやく現状をある程度理解出来た信也は、長く考え込むような声を発した。

「なるほどな。ある程度事態は把握した。今はこれからのダンジョン探索をどうするか? というのが直近の問題という訳だ」

「そうですね。けど今は皆、色々と新スキルを獲得しようとしてる所なんですよ。これがまたいい感じで、私も新しく"雷魔法"を取得できたんです」

「おう! 俺もすでに"大剣術"と"短剣術"はゲットしたぜ!」

「私も新しく闘技スキル"二重撃"を覚えました。これでどうやら称号というのが付与されたようですね」

 この世界の人からすると到底信じられない事であるが、この短期間のうちにも異邦人達は幾つもスキルを習得していた。
 彼らの持つ『異界の来訪者』という称号と、北条の持つ指導系の称号効果がよくマッチしたらしい。

 スキルというのは、最初に覚えるまでが大変であると言われる。
 しかしそれ以上に大変なのが、戦闘スキルなどでいう所の中級以上からの上げにくさだ。
 それに比べたらまだスキルを取得する方がマシだと言えるくらい、中級、上級と一定の段階を迎える度に、スキル熟練度というものは上がりにくくなる。

 これは実際に、スキルの熟練度を数値として"解析"出来る北条が、数値の移り変わりを見て実感していたことだ。
 初級の間は少しずつ上がりにくくなる程度で、熟練度はまだまだ上げやすい。
 しかしこれが、中級、上級と一定のランクを超えていく度に、熟練度の上り幅は悪くなっていく。

 現在、異邦人達のメインスキルは既に中級に達しており、なかなか上げづらくなっている。
 そこで、中級のメインスキルを上げるのではなく、それよりも簡単な新規スキルの取得を目指すという方針は、ひとまず成功と言ってよかった。

 咲良に続き声を上げた龍之介、メアリー以外にも着々とその効果は出てきている。

「とまあ、そういう訳なので、私は焦ってすぐにダンジョンに向かわなくてもいいかなーって思います」

「あたしも咲良先輩に賛成っす!」

「む、そうか。そうなるとしばらくはここで訓練という事になるか?」

「いやぁ。別に訓練だけに専念せずともいいだろう。今後どういった方針にするかを話し合いながら、新メンバーを迎える場合の候補者選びも並行して行えばいい」

「おー、それもそうっすね!」

「そうね。全員揃ったことだし、改めて今後パーティーをどうするかも話し合っていきましょ」

「そうですね」

 一応の方針がまとまった異邦人達は、そのまま雑談へと移行していった。
 久々に同胞の仲間がこうして全員揃ったのだ。
 真面目な話だけではなく、ちょっとした日常の話や笑い話なんかも、彼らには必要な時間なのかもしれない。



「そういやぁ……」

 そんな話をしていると、不意に思いついたように北条が口を開く。

「和泉、お前なんか色々とスキルが増えてるなぁ。それに称号も増えてるぞぉ」

「あ、ああ。確かに俺もそれは感じていた。けど、まだどんなスキルなのかは把握してないんだ。"闇魔法"が増えたのは分かってるんだが」

「へー。他にどんなスキルが増えたんだオッサン。あと称号が増えたってのも気になるぜ」

 改めて信也が自らの内を覗くように視てみれば、他のスキルについてもっと見えてくるものもあっただろう。
 だが龍之介の言うように、北条の"解析"スキルで見てもらったほうが手っ取り早く済む。

「ええっとだなあ。まず耐性スキルが三つも増えてるぞぉ。"魅了耐性"に"魔眼耐性"。それから"闇耐性"だなぁ」

「"魅了耐性"に"魔眼耐性"……。もう少し覚えるのが早ければ……」

「あーー……。ってか"闇耐性"って、"闇魔法"を覚えたからかー? なんか闇尽くしだな!」

 取得したスキル名を聞いて、ダークサイドに落ちそうになる信也。
 それを見た龍之介は少し困った顔を浮かべながら、それについてあまり深く突っ込みを入れる事はなかった。
 空気の読めない龍之介でも、流石にここで"魅了耐性"や"魔眼耐性"について触れるほど無神経ではなかったようだ。
 ただ、その代わりに"闇耐性"についてのツッコミが入る。

「んー、それは恐らく称号のせいだろうなぁ」

「その称号ってスキル系とは別の奴なのか? オッサン」

「ああ、なんというかだなぁ……。まあなんでこの称号が付いたのか納得できるというかぁ、そんな称号がついている」

「俺の事は構わないから、その称号について教えてくれないか?」

 どこか北条が言いにくそうにしているのを感じた信也が、北条へとそう伝える。
 すると北条は「まあ別に悪い効果ではないんだがぁ……」と前置きしつつも、信也の新しい称号の事を話し始めた。

「称号の名称は『闇に堕ちし者』だ。効果は闇属性への適性が大きくあがるものらしい。闇関連のスキルを覚えたのは、この称号のせいだろうなぁ」

「お、おおう……。なんか中二病っぽい名前の称号だな」

 その名前を聞いて、龍之介がかすかに頬をピクピクさせながら言った。

「え、ええと……。その名前からして、もしかしてあの時にはすでにその称号があったのかしらね?」

 陽子もなんとも言えないような感じで差しさわりのない事を発言する。
 どこか空気がおかしくなり始めてしまったが、信也本人としては特にこの称号について物思う事はなかった。
 ただ、「そういう事もあるか」と納得しただけだ。
 その信也の様子を見た北条は、引き続き信也のスキルについて話し出す。

「まあ、新しい称号はそれだけなんだがぁ、スキルに関してはまだある。"光闇包心"という、光属性と闇属性の効果が上がるパッシブスキルに、魔眼系のスキルを新たに覚えているなぁ」

「魔眼……」

 思わず信也の口から言葉が漏れる。
 魔眼系スキルといえば、信也は"魅了の魔眼"によって痛い目に会っており、思わず嫌悪感が浮かんでくる。
 それと同時に、これまでの不甲斐なかった自分に、新たな能力が身に着いた事は、喜ばしい事だとも感じていた。

 実際自分で体験したから分かるのだが、目で見るだけで効果を及ぼす魔眼系のスキルというのは、なかなか厄介な代物だ。
 それを自分も使用できるようになるというのは心強い。

「そうだぁ。それも一つじゃなくて二つ、一気に取得しているぞぉ。"光の魔眼"に"闇の魔眼"。双方共に、見つめた相手にその属性の継続ダメージを与え続ける、特殊能力系のスキルだ」

「魔眼系スキルを二つ……」

 思わず信也は右手で自分の両目に触れてみる。
 だがこれといって変化は感じられない。そこには普段通りの自分の目の感触があるだけだ。

「補足すると、"魅了の魔眼"のように相手と目を合わす必要はなさそうだぁ。"光の魔眼"は左目から、"闇の魔眼"は右目から効果を発揮させるっぽいな」

「おおおお、かっちょえええ!!」

 北条の補足説明に、龍之介が興奮の声を上げる。
 他にも、かつて中二病をこじらし、「私の邪眼に適応するとはなかなかやるわね」などと、弟を睨みつけていた経験のある咲良も、内心では好奇心を抑えられないでいるようだ。

「よし。ちょっとそのスキル、俺に使ってみてくれんかぁ?」

 龍之介が騒ぎ立て、咲良が羨望の眼差しを信也に送る中、北条は突然そのような事を言い出し始めた。



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