256 / 398
第十章
第225話 『ラーニング』
しおりを挟む陽子の言葉を受けて、幾つもの視線が北条へと集まる。
その中にはツヴァイの視線も混じっており、彼も興味を覚えていることが窺える。
「ううん、そうだなぁ……」
みんなの視線を一身に受けた北条は、何をどう話したものかといった様子で口を開く。彼は右手で後頭部をさすりながら、少し考える様子を見せる。
そして徐に話し始めた。
「まず最初に俺が選んだのは"解析"というスキルだぁ。こいつは最初に表示されたスキル一覧から選択している」
「解析……」
陽子が"解析"というスキル名を聞いて、反射的にスキル名を小さく呟く。
しかし北条は気づいた素振りもなく、話を続ける。
「で、もう一つの奴なんだがぁ……、えっと昔のゲームでなぁ。『青魔法』という、敵の特殊能力を使用して戦うキャラクターというか、ゲーム内での職業があった。そいつは基本能力として、『ラーニング』というのを持っていてなぁ」
突然始まった北条のゲームに関する話。
少し前にツヴァイが延々と話していた下地があったので、一見関係なさそうな北条の話にも黙って耳を傾ける一同。
「その『ラーニング』ってのぁ、実際に戦ったモンスターが使用してきた特技を、自分も使用可能になるってものでなぁ。俺の二つ目の初期スキルは、『ラーニング』に通じるようなものだぁ」
「つまりどういう事っすか?」
いまいち理解してない様子の由里香が、素直に質問をしてくる。
すると北条は席を立ちあがり、「こういう事だぁ」と一つの魔法を発動させる。
「ガルルルルゥゥッ」
北条がそう言って魔法を発動させると、目の前には"召喚魔法"発動時特有のうっすらとした光が発生し、一瞬後には森牙狼が呼び出されていた。
マンジュウとはまた違った顔立ちをしているその森牙狼は、若干野性味の強い鳴き声をあげるも、召喚主の北条にはよく懐いている。
「俺のスキルはモンスターだけに限らず、目の前の相手が使ったスキルを、そのまま覚える事が出来るスキルだ」
「なっ……!?」
「え? えっ?」
「ッツ……!」
「それって…………」
北条の言葉を聞いた陽子達は、一様に強い驚きや戸惑いの表情を浮かべている。
先ほどツヴァイの"コピー"スキルの時に反応を見せていた龍之介や咲良も、北条の発言から推測できるその余りの能力に、開いた口が塞がらないといった状態だ。
きっと頭の中では、色々と考えを巡らせているのだろう。
「あの~」
そんな驚き戸惑っている異邦人達の中で、最初に声を発したのは同じ"召喚魔法"の使い手である芽衣だった。
「さっき北条さんは~、魔法の詠唱をしてなかったように見えたんですが~」
「ああ。そいつぁ"無詠唱"スキルの効果だ。これがあれば、いちいち魔法の発動時に【ファイアーボール】だのと言わなくて済む」
「……なるほど~。"召喚魔法"はわたしが使ってるのを見て覚えたんですか~?」
「そゆ事だぁ」
淡々とした様子で質問をする芽衣と、質問に答えていく北条。
その二人の会話を聞いて、いてもたってもいられなくなったのか、喧しく龍之介が喚き出した。
「ちょ、ちょっ、オッサン! それって超ヤベーんじゃね!? 一度見たスキルを覚えられるって、そんなのチートだろ!!」
初めにそう口に出した龍之介は、興奮も冷めやらぬままその後も似たような事を繰り返し発言していた。
それにつられてか、他の面々もそれぞれ感想を口にし始める。
「というか、"解析"に関してもそうですけど、『ラーニング』なんてスキル、選択肢にありました? あの時は時間がなかったので、すべてをきちんと確認できませんでしたけど……」
「んんー? 『ラーニング』に関しては大分表示をスクロールさせた先にあったがぁ、"解析"は確か一番最初に出た一覧にあったハズだぞぉ。まず真っ先にそいつを選んだからなぁ」
「え? あれ、そうでした?」
そう言ってみんなの顔を見る咲良。
その視線に促されるようにあの時の記憶を揺り起こしてみるが、誰も"解析"というスキルに覚えはなかった。
最初に表示された部分だけあって、一番記憶に残っているはずなのだが……。
「どういう事かしら? 北条さんだけ特別だったのか……。或いは全員表示されたものが違う、とか?」
ポンと出てきた陽子の意見に、全員の微かな記憶を寄せ集めてみる。
すると陽子の言う後者の意見の方が、正しいのではないかと結論が出た。
龍之介の"剣神の祝福"も、最初の表示一覧にあったから真っ先に選んだと、本人は言っていた。
しかし、他の人はそのようなスキルに見覚えある者はいなかったのだ。
「ちっ、最初のスキル選択の段階でランダム表示なのかよ。ガチャを引くみたいなもんじゃねーか」
そう言ってぼやく龍之介。
だが、龍之介の選んだ"剣神の祝福"は『レアスキル』であり、この世界の戦士がみたら誰もがうらやむようなスキルなので、十分当たりであったと言える。
「しかも最初に選択できるスキルの種類も多かったよなぁ。最初の一覧で"解析"を選んだ後は、大分表示をスクロールさせてみたんだがぁ、終わりが見えんかったのを覚えてる。あの調子だとスキル総数は軽く千は超えるぞぉ」
どこまでこのスキルの羅列が続くのか。最後までスクロールさせた所に良いスキルがあるのではないか。
などと思い、北条はスキル一覧をチラ見しつつスクロールを繰り返したようだが、果ては見えなかったらしい。
結局その途中で、ふと目に付いたスキルを制限時間ギリギリで選択したとの事だった。
「あー、そっかあ……。やっぱチートスキルは最初の分かりやすい所にはなかったのか」
そう言ってしょげこむ龍之介だが、表示内容の並び順が人それぞれな以上、結局ただの思い込みでしかない。
実際は、最初のページにチートスキルが紛れていた可能性もあっただろう。
「確かに龍之介の言ったように、こいつぁチート級の能力だぁ。汎用性という面においては、恐らくこの世界で随一といっていいだろぅ」
少ししてざわめきが収まってきた所で、北条がそう話を続けた。
未だ龍之介の興奮は冷めていないようだが、その言葉を聞いてふと芽生えた質問を北条へとぶつける。
「ん? そのチートスキルがあれば、あの悪魔の奴もオッサン一人で倒せたんじゃね?」
龍之介は特に深く考えて発言した訳ではなかったが、その質問はある意味重大な質問であった。
その事に気づいた者もそうでない者も、北条の返答を固唾と見守っている。
「……俺ぁ、これまで安全を第一にこの世界で過ごして来たぁ。実際、あの悪魔との闘い以外では、命の危険を感じた事はなかったんだがぁ……」
傍目から見れば、北条がゴリゴリに悪魔を一方的に押していたようにも見えたのだが、本人はそう思っていなかったらしい。
「俺が五十五で、奴が四十五。俺のみた所、真っ当な状態で戦った場合の勝率は、そんな所だったろう」
「ええぇっ!? でも見てた感じではとてもそんな風には見えなかったですけど」
「これはあくまで真っ当に戦った場合の話だぁ。今回は最初から相手が消耗していたし、一番最初に不意打ちが決まったのもかなりでかい。それに悪魔らしからず、俺の口車で動揺したのか、途中で無駄に魔法を連打してくれたのも、奴の敗因のひとつだぁ」
「消耗って……。アイツには"光魔法"だってぶちあてていたのに、まったく効いた様子はなかったぜ?」
あの悪魔の不死身っぷりは、対峙する冒険者の心を折るのに効果的だった。
龍之介も「悪魔には特殊な方法じゃねーと、ダメージが入らんのかも」と何度か思っていた程だ。
「いやぁ? しっかりダメージは入っていたぞぉ。奴は"ライフストレージ"と"ライフストック"というスキルを持っていた。どちらも、本来の最大値以上にライフ――つまりHPを保有できるようになるスキルだぁ。俺が不意打ちを決めた後は、それまでの消耗と合わせて、すべて消費された状態だったからなぁ」
北条の不意の一撃によって、大ダメージを負った悪魔が即座に体を再生していたのも、"ライフストック"に残っていたストック分が、急遽補充された為であった。
「そういう訳で、見た目ほど俺が有利だった訳でもない。実際、ツヴァイに相談を持ち掛けられた当時の俺だったら、勝率は四割を切っていただろう」
「でも、オッサンはチートスキルを持ってんだろ? それがあれば悪魔だってもっと……」
そう反論しようとする龍之介を、北条の言葉が遮る。
「確かに俺の能力はチート級だがぁ、それだけで俺TUEEEEEEEEEが出来る訳じゃあない。あいつの……あの悪魔のレベル、どれくらいか分かるかぁ?」
「ああん? レベルぅ……? えーと、BランやCラン冒険者があんだけいて苦戦してただろ? んで、Cランはレベル五十一以上でなれるみてーだから……」
北条の質問に、龍之介があれこれと脳内シミュレーションをしていく。
しかし答えは出なかったのか、自身無さげに龍之介は答えた。
「んー、よくわかんねーけど、あんだけ強いんだからレベル百とか行っててもおかしくねーな」
結局、龍之介の出した結論はそのようなものだった。
そこで北条が答え合わせをするかのように、話の続きを再開する。
「奴の……あの悪魔のレベルは『八十四』だぁ。そして、戦闘後に治療を依頼された、あのBランクの狐人のレベルが『六十五』。俺ぁ途中参加だから詳しくないがぁ、他にもBランクの奴はいたんだろう?」
「確かそうですね。あのパーティーの双子の兄妹以外は、全員Bランクだって言ってました」
「つまり、レベル差が二十近くもあればぁ、それだけ能力差は広がる。前の世界では数は力と言って良かったが、こっちではそうも行かないって訳だぁ」
異邦人達も、この世界に来てから急速に成長を続けているが、まだレベルとしては三十にも達していない。
レベルの違いは、基本ステータスを大きく変化させる。
「俺が数百のスキルを使いこなそうがぁ、レベルが数十違うだけで奴とはほぼ互角。まあ、引き出しの多さだけはこちらのが圧倒的に上だけどなぁ」
「……………………」
北条がその力の一端を説明し終わると、静寂が場を支配した。
まだ全てを語った訳ではない北条だが、キリのいい所まで話し終えて一息つく。
他のみんなも、それぞれ思い思いにこれまでの話を振り返っていた。
そして、ポツポツと気になった事などを北条へとぶつけていく。
「ああ、それはなぁ……」
北条もそれらの質問にひとつひとつ答えていく。
例えば、ギルド証にそれら膨大なスキルが記載されていないという点も、
「そいつは"能力偽装"スキルによるものだぁ。"鑑定"系のスキルやマジックアイテムを誤魔化す事が出来る。マジックアイテムでも『神器』と呼ばれるレベルのものになると、通用するかは分からんけどなぁ」
と答えが返ってくる。
「んー? "能力偽装"スキルぅ? そんなのどこで覚えたんだよ」
「それはかなり最初の方に覚えたもんだぁ。……石田が選んだ二つの初期スキルの内のひとつ、だな。奴は常にそれで自分のスキルを偽装していたぁ」
「えっ! それじゃあ、アイツの能力もほとんどデマカセだったのかよ!」
「いやぁ、それが案外そうでもない。"暗黒魔法"を"闇魔法"に変えていたのと、"能力偽装"スキルそのものを"ナンパ"スキルに変えていた程度だぁ」
「なんでそんな事を……」
「さぁてなぁ。ただ単にスキルを使ってみたかっただけかもしれんし、何か思惑があったのかもしれん」
こうして幾つか質疑応答が繰り返された後、それまで黙っていた由里香が北条へと最初の質問をぶつける。
「その、チートスキルだとかそーゆーのはよく分からないっすケド……。つまり、あの猿の魔物に襲われた時も実は余裕があったって事っすか?」
少し思いつめたような表情で、由里香はそう問いかけるのだった。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました
璃音
ファンタジー
主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。
果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?
これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる