どこかで見たような異世界物語

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第九章

第196話 『北条』の伝言

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「"コピー"スキルはその名の通り、他人のスキルを一つだけコピーすることが出来ます。俺の"神聖魔法"も元々はコピーしたものなんです。もっとも、何度も使っているうちに自力で"神聖魔法"を覚えたから、今は別のスキルをコピーしているけどね」

「随分あっさりとスキルの事を話すんだなぁ」

「そりゃあもう、この後話す本題に比べたら些細な事ですから。それに、本題に入る為にも、スキルの事については話す必要が出てきますからね。ただ……」

 頼人はいったんそこで言葉を区切った。

「北条さんに説明しても意味ないでしょうね。……北条さん、あなたは鑑定のスキルを持ってるんでしょう?」

「……それは、俺がそう言ったのかぁ?」

 北条のその質問は少し奇妙な聞き方だった。
 酒に酔った状態だったり、寝起きの意識がはっきりしない時に喋った事ならば、自分の発言を覚えていない事もあるだろう。
 しかし、北条と頼人にはそのような接点はなかったはずである。

 そんな北条の質問に対し、やっぱりか……といった感じで納得した様子の頼人。ただそれは、頼人としてはカマをかけたというよりかは、確認のつもりであった。

「北条さん本人が、そう仰ってた訳ではありません。ただ俺しか知らない筈の俺のスキルを、北条さんが知っていた節があるってだけです」

「ふむ……そうかぁ」

 頼人の言葉を受け、北条は何やら考え込むような素振りを見せる。

「北条さんはご自身のスキルについて、余り話したくはなさそうですんで、早速本題へと移りましょうか」

 そう告げる頼人の表情は徐々に曇っていった。
 どうやらその"本題"とやらは、頼人をそのような表情にさせるもののようだ。

「あの時。日本からこの世界に飛ばされた時のメンバーの中に、長井という女性がいますよね?」

「ああ」

「彼女は危険です」

「…………」


 頼人は端的に、要所を衝くようにそう言った。

「彼女は"魅了の魔眼"というスキルを最初に選択していた。そして、そのスキルを悪用して悪だくみを企んでいます」

「……唐突に悪だくみって言われてもなぁ。具体的に何を企んでるって言うんだぁ?」

「俺も彼女の最終的な目標が何かは知りません。ただ、周囲の人間……この《ジャガー村》の村長や、村の重役。更には《鉱山都市グリーク》の方へも、魅了の能力と、その能力によって得た配下を使って、何かをしようとしていました」

 静かに語る頼人の表情は真剣そのもので、時折感情が迸りそうになるのを必死に抑えながら話しているようだった。

「北条さん、あなたは今、魅了状態にある人を解除する事は出来ますか?」

「魅了……かぁ。今は無理、だなぁ」

「今は、という事は、時間をかければ出来るようになるという事ですね?」

「まあ、恐らくは」

 確信している訳ではなさそうだが、多分問題はないだろう。そんな感じで北条が答える。
 それを聞いて、一つ不安の種が取り除けた様子の頼人は、少し大きなため息を吐く。

「良かった……。それなら、まずは魅了解除の方法を身に着けてもらえませんか?」

「つまりは、長井の暗躍を止めろって事だなぁ?」

「はい、そういう事です」

「それなら、魅了解除の習得なんて事をせずに、さっさと長井を捕まえたらどうだぁ?」

 《鉱山都市グリーク》での滞在時に調べた限りでは、継続的に魅了し続けない限り、"魅了"という状態異常は徐々に解けていくものだったはずだ。
 それなら先に大本を抑えたほうが余程手っ取り早い。

「でも、それだと既に魅了状態にある他の日本人と、戦う事になるかもしれません。信也さんも、慶介君も、長井と同じパーティーなんですよね?」

「そりゃあ、そうかもしれんがぁ……そこは寝込みを襲うなりして縛っておけば、無力化もできるんじゃないかぁ?」

「確かに、出来ない事はないでしょう。ただ、大きな問題が一つだけあります」

「大きな問題?」

 北条は見当がつかないようで、顎に手を当てながら考える仕草を見せる。
 対して、頼人の方はこれまでの曇った表情から、まるでこの世ならざる恐ろしい者を目撃したかのように、顔色が真っ青になり、知らず知らずと体も震えだした。

「おい! 大丈夫かぁ?」

 明らかに様子のおかしい頼人に、北条が心配の声を掛ける。
 少しして震えも収まってきた頼人が、幾度か深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとする。それが功を奏したのか、少しして体の震えが完全に収まった頼人は、掠れるような声で続きを話し始めた。

「すいません……もう、大丈夫です」

「いやぁ、そうは見えんのだがぁ……」

「ほんとに大丈夫です。それより話の続きですが」

 頼人の様子は北条の言うように、まだ完全とは言い切れない状態だったのだが、声を喉の奥からひねり出すようにして、頼人は続きを語り始めた。

「問題というのはですね……。長井の背後にはあ、あ、あっ……悪魔がっ! 悪魔が控えているんです!!」

 その名を口にするのも嫌だという感じで、"悪魔"という言葉をひねり出す頼人。
 日本でもゴキブリの事をGと呼んで、正式名を発音するのも嫌がる人はいるが、それとは比較にならない程、頼人は悪魔という存在に対して恐怖心を抱いているようだった。



 "悪魔"といえば、昔からこの世界に度々現れては、人々に厄災をもたらす存在として、知られていた。
 現在もここ『ロディニア王国』の隣、『パノティア帝国』では、一体の高位悪魔によって、数十年もの長きの間、被害を受け続けている。

 "悪魔"と一概に述べても、その実は種族のひとつという括りでしかないので、個体差も大きい。
 隣国で暴れてる悪魔は高位悪魔と言われているが、低位の悪魔ですら冒険者パーティーが挑む場合、Cランクの冒険者でないと相手にならないという。
 それも「最低限相手になる」というレベルであり、倒すことを考慮するならば、更にBランク級の人材を集めてこないといけないだろう。

 悪魔の特徴としては、光属性と神聖属性に弱いとされており、雷属性もそこそこ効くらしい。
 しかし、それ以外の属性には耐性を持っているのか、一番使用者の多い四大属性に関しては効果が薄い。

 そして、悪魔特有のスキルをいくつか持っている事も知られており、テイルベアーの使うベアーハウルのような、範囲で相手を威圧させる系統のスキルも有しており、低レベルで人数を揃えて戦うには不向きな相手だと言われている。

 もっとも、悪魔の絶対数の少なさと、相対して生き残った者が少ない事から、悪魔に関してはあまり深くは知られていない。
 昔から一部の学者の研究のテーマになってもいるのだが、未だに奴らがどこで普段暮らしているのかすら分からないのだ。
 ただ、通常の魔物のように、フィールドで発生してその辺をうろうろしている、という事だけはないだろうとは言われている。


「悪魔、か。それで、そいつはどういう奴だった?」

「……ッ! 信じて……くれるんですか?」

「はは……。そんなツラして『全部嘘でしたー』なんて事だったら、お前さんプロの役者にでもなれるぞぉ」

 このスキル世界ならば、演劇だとか演技だとかのスキルがあれば、迫真の演技もスキル効果で相当リアルに感じられるかもしれない。
 頼人にあんな事を言っておきながら、不意にそんな事を考えてしまった北条だが、頼人は余裕もないらしく「そっか、信じてくれてありがとう」などと礼を言っていた。

「――それでその悪魔なんだけど……。見た目は背の高い、筋肉ムキムキな体つきをした、男のようでした。頭部からは牛のような角が二本生えていて、紫色の皮膚をしています。それと、話し口調が独特・・で、最初は言語知識がおかしくなったのかと思った位で……」

「なるほど……。そいつ、か」

「知っているんですか!?」

 何やら北条の物言いが気になり、質問する頼人。

「いつも着てるかは分からんがぁ、神官服の上にゆったりとしたローブを身に着けた、禿頭の男で合っているかぁ?」

「それはっ……分かりません。俺が見たのは恐らく本来の姿であって、人に化けている時の姿を知りませんから」

「なるほどなぁ。だが、独特な口調の悪魔となれば、恐らくは間違いない。俺たちがグリークの街に着いてすぐに、出会っている。その時はすぐに離れたし、なんも無かった…………と思うんだけどなぁ。まさかそれがきっかけで長井と結びついたのかぁ?」

「その辺りの事は俺にもよく分かりません……。ただ、長井の傍には奴がいて、下手に手を出すと奴が出てきてしまう。だから、せめて魅了解除を覚えて回りから切り離していかないと……」

「詰んでしまうって事かぁ」

「ええ……」


 頼人の"本題"を聞いた北条は、しばしその場で考え込み始める。
 辺りはすっかり暗くなっており、すぐ近くにある本村地区の方では、すでに明かりがほとんど消えていた。
 少し離れた場所に見える新村地区の微かな明かりと、夜空に浮かぶ月や星々だけが、二人を照らしている。

 不安はまだまだ尽きないといった頼人であるが、これまで胸に秘めていた事を打ち明けた事で、僅かに胸が軽くなるのを感じていた。
 逆に北条の方は、事態の重さにいつになく深く考え込んでいるようだった。
 そんな北条を見ていた頼人は、ふとあの時・・・の事を思い出す。

「あ、そうだ。北条さん」

「んあ、なんだぁ?」

 まだ何か考え事の最中だった北条は、若干ふわっとした調子で頼人に聞き返す。

「ええと、ですね。一つ思い出したことがあったんです。これは北条さん、あなた自身・・・・・からの伝言です。万が一の時の為にお前に伝えておく、と俺に言い残してたんですが……」

 そう言って伝言の内容とやらを、わざわざ北条の口調を真似て、頼人が言い始めた。


『俺の事だから様子見しようとするかもしれないが、余り放置しすぎると後悔するぞ』


 「――だ、そうです」

 伝言を伝え終わった頼人は、それからまた黙りこくる。頼人と同じく、伝言を聞いた北条も同じように口を閉じ、辺りは静けさが満ちた。
 場が静まり返った事で、遠く、微かに、新村の方から喧騒が聞こえてくる。

 この場は北条の探知能力でもって、周囲に人が誰もいない事が確認されている。
 誰も邪魔する者もいない二人の夜の密談は、今少し続くのだった。


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