どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
上 下
175 / 398
第七章

第152話 サルカディア

しおりを挟む

「サルカディア?」

「ああ。そうだ。君たちが発見したダンジョンは、近くにある泉の名前からとって《サルカディア》という名前が付けられた」

 ナイルズの口からダンジョンが一般公開されたという情報と共に、ダンジョンの名前についても語られることになった。
 ダンジョンの名前については細かい規定などはなく、発見者がこの名前を付けたいといえばその名前になるし、そういった指定がなければギルド側で適当に名付けられる。

「それで先ほども言ったように、告知に先駆けて大規模な部隊がすでにこの村に向かって移動中だ。中には君たち冒険者にとって大きく関係のある話もあるので、まずはその事を伝えておこう」

 そう言いながら、受付エリアの脇にあるテーブルと椅子が並ぶ場所まで移動するナイルズ。
 そして徐に椅子に腰かけると、北条達にもハンドサインで椅子に座るように伝えてくる。

「まずは我々冒険者ギルドに関係する事なのだが、多数の人材や物資と共に、要請していた『鑑定士』も到着する」

「『鑑定士』、ですか?」

 ナイルズの配慮に従って、椅子に腰かけようとしていた信也が疑問の声を上げる。

「うむ、ダンジョンの宝箱などから発見した品物を鑑定してくれる者だ」

 ナイルズのその言葉を聞いて龍之介が過敏に反応する。……その裏に隠れて咲良も『鑑定』という言葉には反応していた。

「鑑定スキル持ちがくるのか? ジョーディの話だと数はそんなに多くないって聞いてたけど……」

 大分食い気味にナイルズに訪ねる龍之介に、ナイルズも少し驚いているようだ。

「その通りだよ。確かに鑑定系のスキルを持っている者は少なくて、ギルドで確保している人材の中にも該当者はいない」

 ダンジョンがすぐ傍にある冒険者ギルドならば、自前で鑑定士を確保している所もあるだろうが、なんせ《サルカディア》は発見されたてのダンジョンだ。
 元々グリークが辺境の地ということもあって、ギルドとしても希少な鑑定系スキルの使い手は存在していなかった。

「だが、今回は提携をしているメッサーナ商会から派遣される事が決まってね……。確か、"装備鑑定"に"魔法道具鑑定"。それから"薬鑑定"持ちだったかな。いやあ、優秀だねぇ。これら全てを一人で取得しているらしいよ」

 鑑定系スキルというものは、実はその手の専門家の間ではそこそこ取得している人が存在しているスキルだ。
 武器屋なら"装備鑑定"や"武器鑑定"、雑貨屋なら"雑貨鑑定"などを覚えることがある。
 しかし、門外の鑑定スキルを得るには努力と才能、それに環境が必要になってくる。

 そしてこれらのスキルは"物"に対して効果のある鑑定スキルで、"人"に対しては効果がない。
 "人"に対して効果のある"人物鑑定"などのスキルは、物系の鑑定スキルに比べて更に保有者が少ない。
 そして、こうした複数の鑑定スキルを統合した、そのものズバリの"鑑定"というスキルも存在しているのだが、こちらになるとそれこそ何百、何千万人にひとりというクラスの希少スキルになる。


 鑑定について並々ならぬ興味を持っていた龍之介は、その辺りの情報をナイルズから聞くと安心したようだった。
 そもそもジョーディから鑑定スキル持ちは少ない、としか聞いていなかった。
 未だにメンバーにも初期スキルを隠している龍之介としては、人物に対する鑑定スキル持ちは極めて稀と聞いて、胸を撫でおろす。


「それでだね。その鑑定士たちが到達すれば、有料にはなるが鑑定してもらう事もできるし、本格的にドロップの買い取りも可能になるだろう」


 実は今まで北条達がダンジョンに潜って得たドロップ品の多くは、死蔵された状態だった。
 買い取るための資金や、保管するための設備。
 それからグリークへの輸送の事も考えると、本格的な買い取りができなかったのだ。

 他にもダンジョン内部の宝箱などから幾つかアイテムも入手しており、使い道のあるアイテムに関してはそれぞれのパーティーごとに分配していた。
 最初の方に手に入れた謎の植物の種も、今では『女寮』の近くで芽を出している。

 しかし、使い道のないようなものや、アイテムの効果の分からないものに関しても死蔵されたままの状態だった。
 これらのアイテムの処分などが出来れば、北条達としても非常にありがたいことだ。

「これでようやくまとまった金が手に入りそうだな」

「『龍之介御殿』がようやく見え始めたぜい」

「フンッ! まだそんな大した金額にはならないでしょ」

「それはどうかなあ? いやぁー、この間の魔物罠部屋はちょっちきつかったけど、良いもの・・・・も手にはいったからなあ?」

 そう言って、龍之介がこれ見よがしに右腕部に身に着けていたガントレットを見せつける。
 だが実はこの腕当てが正確にどういった効能があるかは分かっていない。
 魔力の込められた品であることは間違いなくて、使用者の龍之介によると「なんか動きやすくなった気がする」という事なので、敏捷を上げる効果があるのかもしれない。


「ウォホン、続きをいいかね? 今回の大規模な部隊の中には、鑑定士の他にも冒険者にとって重要な設備が含まれている」

「設備……ですか?」

「そうだ。今現在、一部が完成しているジリマドーナ神殿が建造中なのは知っているかね? あそこに設置する予定の転職碑グラリスクストーンも、一緒に輸送されてきているそうだ」

「それはいいわね。《鉱山都市グリーク》まで何日もかけて移動しなくて済むわ」

「ってか、あれって持ち運びとかできんのかー」

 今後の事も考えると、この村は大いに発展していくことは間違いないだろう。
 それは『ロディニア王国』内に存在するいくつかの迷宮都市の例を見ても明らかだ。
 しかも、ダンジョンの規模が最大規模ということが明らかになれば、国外から訪れる人も増えていくだろう。
 その際にすぐ最寄りに転職できる場所があるとないとでは、利便性も大きく変わってくる。

「それっていつ頃到着するんっすか?」

「ふうむ、そうだねえ。数日前に出立したと報せがあったから、あと何日かすれば到着するのではないかな」

 旅人が徒歩で移動した場合、おおよそ五日ほどの行程となるグリーク~ジャガー間だが、荷物や人数が大掛かりになればその分足も大分鈍る。
 とはいえ勾配がきついとか、魔物がよく出るなどといった難所はないので、そこまで時間はかからないだろう。

「そうなると、少し予定を変更してもいいかもなぁ」

「そうね。少しダンジョン探索をお休みにするのもありかも」

「えーっ! リーダー、うちらはどーすんだ? 元々の予定なら一、二日休んだらまた潜るハズだったけど……」

 北条と陽子の話を聞いて、ダンジョンに潜りたくて仕方ない龍之介が慌て気味に信也に問う。

「む、そうだなあ……」

「お前達も同じように待機した方がいいと思うぞぉ」

 悩む信也に北条の意見が飛んでくる。

「なんでだよ、北条のオッサン」

「……今回の探索の帰り際、転移部屋で『流血の戦斧』の連中とスレ違ったぁ」

 訝しむ龍之介に対し、北条の明示した答えを聞いてさしもの龍之介も「うっ……」と黙り込む。

「奴らがまだこの辺りをウロウロしているとなると……、困ったことになりそうだね」

 厳めしい顔をしてナイルズが発言したように、すでにギルドから外れて無軌道になっている無法者たち、それもCランク相当の連中流血の戦斧がダンジョンに出入りしている。
 これは今後、無数の冒険者がダンジョンに赴くにあたって低階層の魔物以上の脅威となることは間違いない。

 《鉱山都市グリーク》にはCランク以上の冒険者も在籍しているが、数としてはDランク以下のほうが圧倒的に多い。
 この事は流血の連中もかつて《鉱山都市グリーク》を根城にしていた以上、把握しているハズだ。
 となると、外部から高ランクの冒険者がやってくる前に、ダンジョン内で暗躍する可能性が出てくる。

「ま、そういう訳で、俺ぁ先に転職を済ませて少しでも能力を上げてから、再びダンジョンに挑もうかと思っているぅ」

「なるほど、な」

 信也も北条の意見には賛成のようだ。
 ダンジョン行きを押してた龍之介も、『流血の戦斧』の話が出てくると、これ以上押すことも出来ない。

「この間に各自やれる事はやっておくかぁ。ルカナルん所に鉱石を卸しにいって、ついでに何か製作を頼んでもいいなぁ」

 現在、北条達が探索している鉱山エリアでは、魔物がドロップとして鉱石を落とすことがある。
 今までも、そうした鉱石を鍛冶士のルカナルに経費と共に渡し、金属のインゴットへと製錬してもらっていた。
 製錬した金属はかさばるのでそのままルカナルに預けてあるのだが、その金属も徐々に溜まって来たので、それで何かを作ってもらうのもアリだ。

「装備といえば、鑑定士の人がくれば今まで効果のよくわからなかったものも鑑定できるのね。そうなったら、これまで勿体なくて使ってなかった〈ゼラゴダスクロール〉も使えそう……」

 今まで宝箱などから発見してきた魔法の装備のうち、北条の使う炎のハルバード〈サラマンダル〉や、龍之介の使う風の魔剣〈ウィンドソード〉などには強化を施してきたのだが、まだ効果がよく分からない装備は未教化のままだ。
 スクロールの方はまだ余分があるので、これを機に装備の更新が捗ることだろう。



 それからもナイルズを交え、ダンジョンの事から雑多な事まで雑談は続けられた。
 いい感じに時間も過ぎ、そろそろお暇しようかという頃合いになって、陽子がナイルズにひとつ尋ねた。

「あの、猿の魔物の事を教えて欲しいんだけど……」




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました

璃音
ファンタジー
 主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。 果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?  これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。  

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...