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第七章
第142話 アウラとの話し合い その1
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「アレはっ……」
北条が森の中で物音を察知し、忍び足で近寄っていった先にはそこそこの広さの泉があった。
この《マグワイアの森》にはこうした泉が幾つもあるとは聞いていたので、泉そのものには反応しなかった北条だが、泉の中にいる人物には思わず目を奪われてしまう。
そこにはダークブロンドの髪色をした全裸の女性が水浴びをしていたのだ。
思いもしない光景を見て、北条は足元への注意が削がれてしまい、小さな足音を立ててしまう。
この程度の音なら気づかれないかな、などと楽観的な事を思っていた北条。
だが、リラックスした状態で警戒心も薄れていそうなその女性は、かすかな物音にも見事に反応する。
「き……」
「き……?」
「きゃああああああああああぁぁ!!」
斯様にして女性が叫び声を上げた直後、次から次に新手の女性が現れ、なんの警告もなく攻撃を仕掛けられる北条。
四人の女性の内三人もが全裸ということで、初めは「眼福、眼福……」などと思っていたものの、彼女達の攻撃は思いのほか激しかった。
最初に槍で攻撃してきた女性の槍の一撃は鋭く、低ランクの冒険者のそれとは一線を隔していたし、二番目に剣スキルで攻撃してきた女性の一撃は、とても女性とは思えないほど重い一撃だった。
一人服を着ていた小柄の女性は、手に何も持っていないように見えて、何かしらの隠し武器――後に二本の短剣だと判明――での攻撃は、完全に初見殺しだった。
上手くごまかすようにはしていたようだが、僅かに両腕の力の入り方が少し不自然だったのに気づけなければ、隠し持っていた短剣でダメージを負っていた事だろう。
四対一のまま戦い続けるのは勘弁してほしい、そう思った北条は一連のコンビ攻撃が終わった後に、リーダーと思しき女性に声を掛ける。
その結果、とりあえず話し合いの段取りにもっていくことができ、ホッとしていた。
「それで、お前は一体何者だ?」
先ほど北条が声を掛けた四人の中でも、一番背の高いリーダー格の女性が、体を隠すこともせず槍を突き付けた状態のまま問いかける。
「あー、その質問に答えるのはいいがぁ、その前に身だしなみを整えたらどうだぁ? そっちの娘は気になって仕方ないようだぞぉ?」
チラリと北条が視線を向けたのは、最初に北条が見かけた女性だ。
先ほどは"水魔法"を使ってきたので魔術士系だろうと推測していた彼女は、「くっ、殺せ」と言わんばかりの表情で体を両手で隠している。
「その間に逃げ出そうとでもいうのか?」
「いやぁ、そんな事はするつもりはないぞぉ」
北条の返答を受けた女性は、服を着ていた小柄の女性とアイコンタクトを取ると、
「いいだろう。そこのカレンは残していくが、逃げ出そうなどとは思わないことだ。……それと、そちらのイチモツも何とかしておいてくれ」
女性はそう言いながら視線を北条の股間へと向ける。
その視線を受けた北条は、「反応しちゃってたか」と自身の股間部分へと視線を移す。
「あっ……」
ソコには用を足した後に仕舞う間もなく忍び寄ったため、むき出しになったままの北条ジュニアが、ブランブランと自己主張をしていたのだった。
▽△▽
「いやぁ、スマンスマン。用を足していた時に不審な物音が聞こえてきてなぁ。そのまま駆け付けたので、仕舞い忘れていたようだぁ」
身だしなみを整えて戻ってきた女性達に、「わっはっは」と笑いながらも北条がまず自身の失態を詫びる。
「いや、こちらも少し反応が過敏だったやもしれん」
「そ、そんな事はありません。アウラ様! あんな……あんなブランブランさせて近寄ってくる奴なんてあれで良いんです!」
「少し落ち着け、マデリーネ。もしこの男に力量がなければ大けがどころか無暗に命を奪っていたかもしれぬのだ。実際に襲い掛かってきたのならともかく、今回早合点して先に仕掛けたのは私の方だ」
アウラにそう説得されるも完全に納得がいっていない様子のマデリーネ。
それは理屈云々ではなく、裸を見られたというのと不快なモノを見せられた事による、感情的な面が強い。
「しかし、そなた程の腕前を持つにしては大分慎重なのだな。この辺の森にはせいぜいGランク程度の魔物しか出没しないと聞いているが」
「まあ、魔物に関しちゃあ大して心配はしていない。問題は冒険者の方だぁ」
「冒険者?」
北条の言葉にどういうことだ? といった風にアウラが返す。
アウラからすると、目の前の男は冒険者のように見えるのだが、そもそも現段階ではこの森にダンジョンが発見されたことすら公にされていないハズなのだ。
もしかしたら、ギルドが派遣したダンジョン調査をしている冒険者の一人だろうか。
アウラがそんな事を考えていると、北条はアウラへと説明の続きをはじめる。
「ああ。俺ぁこの先にあるダンジョンを発見した冒険者の一人なんだがぁ、ダンジョンを調査に来た冒険者のパーティーにとんでもない奴らが混じっててなぁ。そいつらにこの前危うく殺されかけた事があったんで、注意がかかせないって訳だぁ」
「なに? そのような話はナイルズからは聞いていないが……」
とは言いつつ、アウラがナイルズと接触したのは例の防壁の件で話をした時だけで、他に話をする時間を取ってはいなかった。
アウラはあの時の事を思い返してみたが、最初にギルド仮支部を訪れた時に、ナイルズが何か話しかけようとしていたような気もする。
「気になるならぁ今度会った時にでも聞いてみるといい。今ではその冒険者パーティーはギルドから追放処分を受けて、指名手配されている」
「む、そうだな。今度彼に会った時に聞いてみるとしよう」
ギルドがダンジョンの調査用に派遣したとなれば、少なくともDランクの冒険者を派遣したハズだ。
北条は中々の力量を持っているだろうとアウラは睨んでいたが、流石にDランクパーティー相手では厳しいだろう。
チラっとアウラがカレンへと目配せすると、カレンは何も言わずコクンと小さく頷きを返した。
それを見たアウラは北条へと突き付けていた槍を背中部分へと固定し、武装を解除する。
遅れて他の女性もアウラに続く。……ひとり最後まで剣と盾を構えていたマデリーネだけは不服そうではあったが。
「で、アンタ達は一体誰なんだぁ? 村のもんでもないし、新たに派遣されてきた冒険者って感じでもないだろうし」
「これは紹介が遅れてしまった。私の名はアウラ。アウラ・グリークだ。父の命を受けこの《ジャガー村》へと派遣されてきた。しばらくは村長の所で補佐をしつつ、村の統治について学んでいく予定だ」
「えーと、グリークってぇとお……」
「このグリークの地の領主、アーガス・バルトロン・グリークの次女だという事だ。だが今は一介の騎士という立場であるので、謙った言葉を使う必要ないぞ」
「それぁ助かる。敬語には慣れてないんでねぇ」
アウラが自己紹介を済ませると、北条はアウラの言葉通りそれまで通りの言葉遣いで返す。
普段お調子者と言われる者でも、相手が領主の娘ともなると流石に口調には相当気を遣うものだ。
たとえアウラ自身がくだけた口調で構わないと言ったとしてもだ。
しかし、北条にはそういた様子が全く見られず、アウラはその反応に少し新鮮なものを感じていた。
一方、アウラ信者とも言えるマデリーネは、北条のそのラフな応対に更に視線が強くなっていく。
「俺の名前は北条。さっき言ったように、ダンジョンを発見した冒険者の一人で、『サムライトラベラーズ』のリーダーだぁ」
「そうか……。お前たちのおかげで我が領に大きな機会が巡ってくる事には感謝を……ん、待てよ。という事は、お前がシンヤの言っていた、あの防壁の作成者か」
「防壁……?」
北条としてはあれは防壁ではなくただの外壁という認識だったので、アウラの言っている事が何を指しているのかが即座に浮かばなかった。
しかし、どうやら既に信也達は先に帰還しており、先にアウラと接触をしていたという事は判明した。
「ああ、森の境界線辺りに築いていた砦を覆っていた壁だ。シンヤからはそなたがメインで作っていたと聞いたぞ」
「ん、ああ。あれは防壁なんて大層なモンじゃなくて、ただの外壁なんだがなぁ。村長に伺ってこの村に家を作る許可をもらったんで、まずは外縁部分を作っている所さぁ」
「なっ、あれ程の壁をただ住居を覆う為に拵えたのか!?」
少なからぬショックを受けている様子のアウラに、なんか面倒な事になりそうだなーと僅かに顔を顰める北条。
そんな北条にショックから立ち直ったアウラが詰め寄る。
「先ほどの戦闘で見せた"土魔法"は確かに見事なものだったが、一体どのようにしてあのような防壁を作り上げたのだ!?」
襟元を掴んで、とまではいかないが、興奮の余り北条との距離を大分詰めていたアウラ。
一瞬後にその事に気づいたようで、慌てたように一歩後ろに下がりつつ、早口で北条に問いかける。
「っと、済まない。私も同じ"土魔法"の使い手として気になっていてな。少し取り乱してしまったようだ」
普段、冷静沈着であろうと振舞っているアウラだが、実は結構直情的な部分があって、時にその性格が暴走することがあった。
「まぁ、それは別に構わんがぁ、話をするなら場所を変えても構わんかぁ? 用を足しに仲間と別行動をしていたので、いい加減合流しておきたいんだがぁ……」
「そ、そうだったのか。分かった、ではまずホージョーの仲間と合流するとしよう」
その言葉を聞いていたマデリーネは、思わず主人であるアウラに言い募る。
「アウラ様! 本日はダンジョンの視察をなさるのでは?」
「確かにそうだが、もうひとつの目的であったホージョーとこうして出会えたのだ。まずはこちらの用件を済ませておきたい」
すでに意思が定まっている様子のアウラを見て、とばっちりのように北条に強い視線を向けるマデリーネ。
だが主人の言葉に逆らう事はできず、北条達五人は先に進んでいるであろう咲良や陽子達の元へと、駆け足で移動しはじめたのだった。
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