どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
上 下
158 / 398
第七章

第136話 《フロンティア》探索 ―東方面―

しおりを挟む

◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 北条が拠点予定地の外壁を魔改造した翌日。
 《フロンティア》エリアのスタート地点にある迷宮碑ガルストーンの傍でキャンプをしていた信也達は、荷物をまとめて帰還の準備をしていた。

「今回は正直微妙だったな」

 みんなの気分を代表するかのように、信也が今回の探索を総評する。
 成果が全くなかった訳ではないが、探索の後半部分の不毛さが際立っていて、最終的な評価としてはこのような印象となっていた。

「ああ。最初はだだっ広い場所にワクワクしてたっけどよお、ここは広すぎんぜマジで!」

 しかめっ面で悪態をつく龍之介。

「このエリアを探索するには、移動手段を確保してジックリと攻略しないとダメそうだな」

 そう口にした信也は、今回の探索についてを思い返し始めた。



△▽△▽



 前回の探索では南に歩を進めていた彼らは、今回は東に進路を取って突き進んでいた。
 迷宮碑ガルストーンのある場所からかなり遠くに山脈が見えていたが、しばらくは平原の続くなだらかな地形が続く。

 二日目には前回遭遇したのと同じ番人キーパーらしき魔物を発見。
 今までの探索では、スタート地点より離れる程魔物が強くなってくるという規則性がみられており、スタート地点から近い場所にいたこの番人キーパーはヴァリアントイービルトレントに比べると大分弱かった。
 その分、報酬の宝箱も前回よりはしょぼかったのだが……。

 その後も真っすぐ東へと進んでいた信也達は、やがて植物がまばらに生える荒野のような地形に突入し、先に進めば進むほど大地からは生命の営みが失われていった。
 スタート地点から遠くに見えていた山脈が、大分近くに見えてくるようになると、ろくに植物の生えていない岩砂漠のような環境になっていった。

 昼間の気温は上がり、夜になると冷え込んでいく。
 湿度は下がってカラッカラとなっていき、慶介の"水魔法"が大いに活躍する。
 前方に見える山脈は一部標高が低くなっている場所があって、その場所から山脈の向こう側まで行けそうに思えるのだが、その地点にたどり着くまでまだまだ時間はかかりそうだ。

 すでに探索四日目となっていた『プラネットアース』の面々は、このままだと埒が明かないという結論に達し、早々に撤退を選択。
 前回の湿地帯も歩きにくいなどの問題はあったが、今回の荒野と岩砂漠の環境は、準備なしで挑むような場所ではなかった。

 こうして、結局二日目に遭遇した番人キーパー以外は、特に収穫のない探索は終了した。



▽△▽△▽



「よし、じゃあ戻るぞ。転移直後には気を付けてくれ。一応安全装置のような仕組みはあるようだが、油断は禁物だ」

 信也の言う安全装置・・・・とは、迷宮碑ガルストーンに備えられた仕組みの事で、転移によるトラブルを防ぐための措置が色々と取られている。
 例えば転移先に人がいる場合は、転移をすることができないようにするシステムがあるようだ。
 その際には、迷宮碑ガルストーンの一部が警告の意味を持つ赤い光を発する。

 これは転移先の迷宮碑ガルストーンも同様で、魔法陣の範囲内にいるときに何もしてないのに赤い光が発せられたら、その時はその迷宮碑ガルストーンに誰かが転移しようとしてきてる証だ。
 この場合は、ただちにその魔法陣の範囲内から離脱する必要がある。

 無理やりそのまま留まろうとすると、足元にある魔法陣の別の機能が発動し、魔法陣内にいる者は魔力をほぼ吸い取られてしまう。
 更に、その直後に念動力のような力で魔法陣内から強制的に追い出されるおまけまでついてくる始末。

 この迷宮碑ガルストーンの仕組みに抗おうとした者は数多いが、"結界魔法"を使おうが特殊な魔導具やスキルを使おうが、等しく同じ結果となった。
 こうした一連の排除作業が終わると、転移元の迷宮碑ガルストーンでは今度は緑色の光が発せられ、転移が可能になった事を知らせてくれる。

 ここでそのまま転移する者もいるが、赤く光ったという事は転移先に誰かがいたのは確実だ。なので、大体は時間を空けてから再度転移するか、別の場所に転移するなどの対策を取る。
 なお、魔物は通常ではまず転移部屋に侵入して来る事はないので、エラーが発生した場合は間違いなく他の人間が関わっていることになる。

 普通に転移が成功した場合にも安全装置は働いていて、転移してから十五秒程の間は魔法陣の外縁部に沿って強力な結界が張られており、転移直後を狙った不意打ちが出来ないようになっている。

 信也が警告をしたのは、この転移直後に展開される防護ようの結界も時間が経てば消えてしまうので、あくまで不意打ちを防ぐとか、敵対者がいた場合にまたすぐ別の場所に転移して逃げる、などといった事しかできないからだった。


 仲間に注意を促した信也は〈ソウルダイス〉を迷宮碑ガルストーンの台座部分にある窪みへと嵌め込み、スタート地点の転移部屋を転移先へと指定する。
 すると足元の魔法陣が光りだし、信也達全員を指定された場所へと一斉に転移させた。


 そこは相変わらず静謐さにあふれた空間で、厳かな雰囲気に満ちていた。
 微かに聞こえてくる水の音が、聞く者の心を静める。
 そんな静寂に包まれた空間で、"気配感知"のスキルを使って周辺を探る長井。

「どうだ?」

 信也が必要最低限の言葉で長井に尋ねる。
 もし襲撃者……この場合『流血の戦斧』が待ち構えていたとしても、ダンジョンの性質を知る者ならば、転移してきた者を即座に襲うような真似はしない。
 前述したように、転移直後は防護結界が展開されているからだ。

 そこで、何らかの感知スキル持ちや"臭覚強化"など探知に向いたスキル持ちは、その間に潜んでいる者たちがいないかどうかを確認する。
 長井もまだ熟練度は低いが"気配感知"のスキルは覚えている。
 しかし、どうやら"気配感知"には何もひっかからなかったようで、長井からは「問題ないわ」との声が掛かった。


「ふぅ、そうかあ」

 長井のその報告を聞いて緊張を解いた信也。
 あれから連中がどこに逃げていったのかについては、可能性だけで言うなら幾つも存在していて、未だに気が休まらない問題だ。
 また前のようにダンジョンを出てすぐ近くの場所にいた、なんて可能性もあり得るので、村に戻るまでは緊張の糸を保たなくてはならない。

「あ、戻る前にちょっくら水汲んでくるわ」

 そう言って龍之介は一人中央にある手水屋の方へと向かう。
 この広大な部屋の中央には、日本を彷彿とさせる構造物が幾つも存在するが、中でも手水屋から湧き出てくる水は余計な雑味を感じないクリアの水質で、味はないのに美味いと感じるほどだ。

「あ、おい!」

 一人駆け出す龍之介の後をついていこうかと迷った信也だが、結局はそのまま行かせることにした。
 そして数分後には龍之介も小走りで戻ってきたので、ダンジョンを脱出しようかと信也が歩き出した所で、今度は長井から声が掛けられた。

「ちょっと……先に行っててくれない? 出口までには追い付くわ」

「ハァ? 何言ってんだよ。アンタも水汲みたかったんならオレと一緒に行けばよかったのに」

「違うわよ! アンタがこんな所で待たせるからいけないんでしょ!」

「アアン? なんだそりゃ。一体どーゆー……」

 この転移部屋のある空間は、内部を流れている水のせいか少しひんやりとして肌寒い。
 一向に状況を察する事が出来ない龍之介に、諭すように別の方向から声が掛けられた。

「ほら、龍之介君。彼女の言う通り私たちは先に行きましょう」

「え? お、おう……」

 これまで長井に食い掛っていた事がなかった事のように、メアリーの言葉には素直に従って出口へと向かい始める龍之介。
 その様子を見送った長井は、

「ハッ、まったく」

 そう呟きながら部屋の隅の方へと移動するのだった。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...