どこかで見たような異世界物語

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第六章

第120話 "精霊魔法"と"召喚魔法"の違い

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▽△▽△▽


 夕日が落ち始め、辺りが徐々に暗くなっていく時間になって、北条達は撤収の準備を始めていた。
 あれから思い思いの時をこの拠点予定地で過ごしていたが、結局ダンジョンの方からは誰も帰って来る者の姿はなかった。

 北条はあれから木材を乾燥させる魔法をどうにか編み出し、次々とその魔法【ドライウッド】で木材を乾燥させていく。
 最初の内は短時間で高温に達した木材内部の水分が、内部で爆発を起こしたりして木材を若干無駄にはしていた。

 だが、風属性を同時に扱って、水蒸気を操作してやるような感覚で魔法を使う事で、その問題をどうにか解決する。

 魔法には単一属性の魔法と、複合魔法と呼ばれる複数の属性を使う魔法が存在する。
 複合魔法は消費MPも増え、扱いが難しくなるが、その分単一属性では起こせない複雑な現象を起こす事が可能になる。
 【ファイアストーム】などは、火属性と風属性の複合魔法として有名だ。

 今回北条が編み出したのも、同じ火属性と風属性の複合魔法となり、単純な【炎の矢】などと比べて扱いが難しい。
 ただし、乾燥する対象を木材に絞ったことで若干扱いやすくはなっている。
 衣類の乾燥などにも使えない事はないだろうが、元々木材の乾燥の為に作った魔法なので、衣類が痛む可能性は高いだろう。

 そして咲良の方は"水魔法"による乾燥を諦め、また外堀の作業に戻っていた。土地を広く確保した為、まだまだその作業は終わりそうにはなかったが、今日一日だけでも魔法の訓練は大分捗ったと咲良は感じていた。
 他のメンバー達も、それは同様で充実した時間を過ごす事が出来た。


「じゃあ……帰りましょうか」

 帰宅の準備を終えた咲良が、一瞬言いよどむようにしてみんなに話しかける。
 すでに他の面子も支度は終えており、後は帰るだけだ。
 信也達のパーティーには長井や石田など、評判のよろしくない者も在籍しているが、それでもリーダーである信也を含め、心配に思う相手がいない訳ではない。

 今後もこういったすれ違いは幾度も出てくるのだろうが、今は状況が状況だけに気が気ではない。

「慶介くん……」

 ぼそっと陽子が呟く声が聞こえてくる。
 そんなしんみりとした雰囲気の中、北条は何かに気付いたようだった。

「……ダンジョンの方から誰かがこちらに向かってきているなぁ」

「えっ! 慶介くん達?」

 つい先ほど考えていた相手の事がつい口に出る陽子。
 それに対する北条の返事は、陽子の期待するものではなかった。

「いやぁ……これぁ多分違うな。ん、んんんー、この感じはリノイの連中だろぅ」

 『リノイの果てなき地平』とは、信也達のパーティーを除けば一番接触が多い事と、北条の感覚的には特徴的な気配・・が感じられるようで、見分けやすいらしい。

「……そっか。まあ、でもそれでもここで待ってた方が良さそうね」

 残念そうな様子を隠しもしない陽子。
 その発言内容には反対する理由は見当たらず、陽子の言う通りその場で待機して相手の登場を待っていると、北条の言うようにシグルド達の姿が遠目に映った。

 向こうもその前から気付いていたようで、北条達を見ても特にこれといった反応は見せていない。
 やがて二つのパーティーは合流すると、世間話をしながら村への帰途につくことになった。


「ほおう、たいしたもんだわい。ワシらがここを通った時はまだこんな状態ではなかったはずだ」

「そうそう。ケイドルヴァもそこが不思議。この短期間の間に、どーしたらここまで開発できるのか。興味が尽きないよ」

 と、何やら鼻をヒクヒクさせて興奮した様子のケイドルヴァ。

「そこら中に魔力の残滓を感じるから……魔法を使ったのは確かなんだと思うけど、それで一体どうしたらここまで出来るのかが分からないね」

「ディズィーさんの"精霊魔法"ではこういった事は出来ないんですか?」

「難しい質問だねえ。精霊というのはゴーレムなんかと一緒で、余り細かい指示は出来ないのさ。"契約"すれば少しはマシになるけど、これだけの範囲をどうにかしようとするなら、何体もの精霊が必要になる。そして、同じ場所で同じ属性の精霊を酷使すると、その場所から精霊力が失われていって、存在を保てなくなってしまうんだ」

 何でも"契約"した精霊の場合は、契約者から魔力を補給してもらうことで、そういった場合でもとりあえず動かす事はできるらしい。
 またある程度の複雑な指示もできる、と。
 だが、広範囲で普通の"精霊魔法"を使い続ける事は出来ないらしい。

「なら普通の魔法ならどうなの? 実際ここだって別に特別な事はない、普通の魔法でやったんだよね?」

 自身がやった訳ではないので、途中で北条と咲良に向けての質問に切り替わっていたが、陽子が一般的な魔法による開拓についての質問をする。

「そうだね。確かに探せばこれ位出来る魔法使いはいるだろうね。ただ、そういった人材は大体国や、大手建築系商会などに接収されているさ。逆に冒険者だとこういった魔法はあまり必要性がないから、そこまでの使い手はいないんだ」

 "土魔法"としては単純で分かりやすいので、【土壁】を使える魔法使いは多い。
 だが、【土壁】を連発したとしても、あのような壁は作れない。
 ケイドルヴァが気になっていたのは、木の根も残さず綺麗に更地にした方法と、あの強固な壁だった。
 流石に範囲が広いせいか【土を石へ】の魔法で石壁にすることは出来ていないようだが……見た目ただの土壁なのに触れてみた感触が異様に硬いのだ。

 ケイドルヴァは魔法使いであるが、近接戦闘時には短剣を用いて戦う。
 そこで、密かに短剣を土壁に突き刺そうとしたのだが、ほんの僅かに刃先がめり込んで傷がついただけだった。

「強化済の魔法の短剣だったんだけどね」

 その時の事を思い出して小さくぼそっと呟くケイドルヴァ。
 その言葉は小さすぎて耳に届かなかったのか、陽子が話の続きを始める。

「へー、そうなのね。個人的には、こういう事が出来れば冒険者を引退しても食べていけるから良いと思うんだけど」

「ハハッ! 冒険者はそんな先の事は考えないよ。そんな先の未来より、明日戦うかもしれない魔物相手に、通用するような魔法を身に着けようとするさ。まあ、ここに例外はいるケドね!」

 そう言ってケイドルヴァは自分を指差す。

「ケイドルヴァは大魔法使いになるよ。それは間違いない。既に頭の中では今後の予定は建ててあるんだ」

 自信満々で告げるケイドルヴァに対し、彼のパーティーメンバー達は「また始まった」といった顔をしている。
 恐らく常日頃からよく口にしている言葉なのだろう。


「あの~、ディズィーさんちょっといいですか~?」

「え、アタシ? 何の話?」

「えっとお、契約について聞きたいんですけど~」

 不意に声を上げた芽衣が、ディズィーへと質問を投げかける。

「契約ぅ? なに? "精霊魔法"に興味あるの?」

「そちらも興味なくはないんですが~、契約そのものについて知りたいんです」

 そう口にした芽衣は、マンジュウを近くまで呼び寄せる。

「じつはこの子をテイムしたんですけど~、このテイムするという状態と契約を交わすっていう状態の違いってあるんですか~?」

「へぇ……こいつは珍しいね。ラミエス以外の『魔物使い』に会ったのは初めてだよ」

 そう言ってパーティーメンバーであるラミエスの方をちらっと見遣るディズィー。
 
「え、ラミエスさんも『魔物使い』なんですか!?」

 と、ディズィーだけでなく咲良達も視線をラミエスへと向けるが、相変わらず無表情のまま口を閉ざして、視線を気にする様子もない。

「そうさ。今のメインは『ウェライ』の神官だけど、元々は『魔物使い』として活動していたらしいよ。……ああ、いや正確には『魔獣使い』だったね」

 途中でラミエスが腕を交差して+のようなジェスチャーを見せる。
 斜めに交差させて否定を表す日本のソレと似たようで、少しだけ違う形をしたジェスチャーだ。

 『魔獣使い』は『魔物使い』とは別に職業として存在していて、『魔物使い』よりも魔獣に対して相性がいいらしい。
 ただし、知名度としては『魔物使い』の方が有名なので、魔物を扱う職業といったらそちらの名が挙がる。

「――で、契約とテイムの違いだけど……まずはそうだね。契約した精霊はテイムした魔物のようにレベルアップはしない」

 芽衣は"召喚魔法"の事をぼやかしている為、明確な質問の意図を相手に伝える事が出来ていない。
 だがディズィーの話は興味深く感じた芽衣は、そのまま黙って話を聞く。

「それと……さっきも話にあったけど、契約した精霊には魔力を送ることができるんだけど、テイムした魔物にはできないらしいよ。魔力的な繋がりはあっても、それは糸のようなもので、微小な魔力を送る位はできるらしいけど、それが限度みたい」

 ディズィーの言葉に、無言で顔を上下させて頷いているラミエス。

「あとは、精霊はある程度以上の格のある精霊じゃないと自我が薄いから、深く意思疎通をしたりすることはできないね。だから、ダンジョン内でアンタ達と会った時も、ライは人間がいるって事は教えてくれたけど、詳細までは伝えてこなかった。その点、テイムした魔物は頭がよければ詳しく報告させることもできる」

「なるほど~。参考になりました、ありがとうございます~」

 そう言って律義に頭を下げる芽衣。
 こういった手合いには余り慣れていないのか、少し戸惑った様子でディズィーが話す。

「いや、礼を言われるほどの事じゃないさ。それよりも、『魔物使い』の事ならラミエスに聞いたほうがいいよ。見たところ〈従魔の壺〉も持っていないようだしね」

「〈従魔の壺〉ですか?」

「これ」

 疑問の声を上げる咲良に対し、ラミエスは懐から何かを取り出すのだった。




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