112 / 398
第五章
第97話 新装備とアイテムの分配
しおりを挟む北条が手にしたその品――綺麗な宝石を中央にあしらった、サークレットの解説を始めると、女性陣の目の色が変わる。
余りこういったものに興味がなさそうに見える由里香ですら、羨望の眼差しでサークレットを見つめている。
「このサークレットは、やはり宝箱から出てくるだけあって魔法的な特殊効果があるようだぁ。この中央に嵌められた、深い海の色をしたサファイアの見た目通り、"水魔法"の効果が上昇して、同時に相手からの"水魔法"に対する耐性も得られるっぽい」
その説明を聞いた咲良は小さくガッツポーズを取る。
分配の時間はまだだが、分配はまず適正に合わせて分配されるので、"水魔法"を唯一使う咲良がこのサークレットを身に着けるのはほぼ確定だろう。
他の女性陣もその事には気づいたようだが、そこまでの落胆は見られなかった。
一番このサークレットに執着していたのが咲良であり、他のメンバーは彼女ほど強い執着がなかったのだ。
そんな女性陣達の反応を気に留めた様子もなく、引き続き北条が鑑定したのは、長さが二メートル半位はありそうな、長いハルバードだった。
その見た目は刃の部分から柄の部分まで赤を基準にした配色になっており、石突の部分と、ハルバードの先端の突起部分の根本には赤い宝石が嵌められている。
また、一般的なハルバードに比べて斧部分の刃が長く伸びており、地面に突き立てて持っている北条の、頭頂部の高さから斧刃が上に伸びている。
ただでさえ重い金属の槍に、長い刃の斧部分までついたこのハルバードは、相当な重さであると思われるのだが、北条はまるで重さを感じさせずにハルバードを振り回している。
その様子を見た由里香が試しに「自分もブンブンしてみたいっす!」と言って振り回してみたのだが、"身体能力強化"を持っている由里香ですら、振り回すのに難儀していた。
「うー、重いっす……。北条さん、よくこんなの軽々と振れるっすね」
「……まあ、形状的には槍に近いもんだからなぁ。"槍術"のスキル補正が入ってるのかもしれん」
北条の場合は更に職業も『混魔槍士』と槍関係の職であるので、よりその影響は強いのかもしれない。
なおこのハルバードには、見た目通り炎の属性が付与されていて、斬りつけたり突いたりする時に宝石部分に魔力を送ると、刃先から燃え盛る炎が沸き起こって、斬りつけると同時に相手の体を炎で焼く。
こういった熱傷は治癒魔法だと治癒しづらく、治せない訳ではないがより多く労力を要する。
あまりに酷い熱傷だと、通常の治癒魔法だけでは完全には治癒できないほどだ。
「さて、最後に残ったこいつだがぁ……」
気に入ったのか、一通りハルバードを振り回していた北条が、最後に残っていたアイテムの査定に取り掛かりはじめる。
こちらも女性陣の注目が集まっているアイテムだが、由里香と楓だけは興味は無い様子。
それもそのはずで、最後に残っていたアイテムは、長さ四十センチ程の短い棒状のもの――短杖だったのだ。
絶対そうだとも限らないのだが、杖や短杖を使うのは、基本的に魔法を扱う者達だ。
由里香は物理一辺倒であるし、楓は……もしかしたら"影術"や"忍術"も強化されるかもしれないが、余り関心は寄せていないようだ。
残る三人、特にサークレットが確定している咲良以外の芽衣と陽子は、自分達が扱えそうな武器という事で、大きな関心を寄せていた。
「これはー……杖系の魔法道具の基本的な性能でもある、使用者の魔力を増幅させる効果がまずある。それとー……そうだな。実際に試してみるか」
そう言って徐に、北条はその短杖の先を由里香へと向ける。
すると、短杖の先端部に嵌められている薄灰色の貴石が、一瞬薄っすらと光を放つ。
「えっ!?」
抵抗する間もなく、由里香は短杖の特殊効果を受けていた。
「ううー、これはなあんなんっすかああ」
「ふーむ。ちょっとその状態で動いてみてくれぃ」
何時もより若干ゆっくりと、間延びした口調で訴えかけてくる由里香に、淡々とした様子で指示を出す北条。
恨みがましい目をしながらも、素直に指示に従う由里香。
「おお? おおお?」
見た目では特にこれといった変化は見られない。
ただそこらを走り回ったり、飛び跳ねたりといった動きをしているだけだ。
だが何かに気付いた北条が、慌てて警告を発する。
「あー、由里香ぁ。効果時間があるだろうから注意しろよぉ」
しかしその警告の声は遅かったようで、普通に走っていた由里香だったが、急に全速力で加速をかけている様子がうかがえた。
急な加速に由里香自身も戸惑っていた様子で、途中の地面の凸凹に足を引っかけて転びそうになっていたのだが、見事な反射神経で転倒を回避している。
「……と、まあ、見ての通りだぁ。どうやら、こいつには任意の相手をゆっくりにさせるスロウの効果があるらしい」
由里香が普通に走っているように見えた、というのはあくまで地球での判断基準であって、実はこちらの世界で色々強化された由里香は、あれで全力で走っていたのだ。
だが、スロウによって体の動きが制限された状態では、その人並外れた身体能力を発揮できなかったようだ。
途中で急加速したように見えたのも、元々その速度で走ろうとしていただけであって、スロウの効果が切れたから急加速したように見えただけだ。
試しにその後、咲良が立候補して自らスロウ状態になっていたが、まるで老人の如く、ゆっくりとしか移動できていなかった。
なおその時に杖を使っていたのは陽子であり、「ゆっくりしていってね」などと言いながら、咲良だけでなく北条にまでスロウをかけていた。
唐突に魔法をかけられた北条であったが、特に慌てる様子はなく、
「……まあ、こういった、状態異常を掛けられるっていう状況に慣れておくのも必要だぁ」
と逆に前向きに捉えて、状況を楽しんでいた。
それは咲良のようなゆっくりとした動きではなく、見た目には特に状態異常がかかってるとは思えない位には動けていた。
▽△▽
こうして宝箱の中身のチェックと査定が一通り終了すると、最後にこれらアイテムの分配について話し合われた。
まずポーションはHP回復の〈レッドポーション〉を、前衛だけでなく後衛にも念のため少し分配し、残りは由里香、楓、北条の順に多めに分配していく。
北条は最近では「魔法とかスキルとか鍛えたい」という事で、余り使用していなかった"ライフドレイン"でいざとなれば回復できるので、後衛と同レベルに少な目に配分された。
MP回復の〈ブルーポーション〉は勿論魔法職メインで、今までのMP配分を考慮して配分する。
疲労回復の〈グリーンポーション〉は数が少ないので、北条と由里香の山分けとなった。
「いざという時にポーションがあるって安心できるわね」
「そうですねえ。無駄遣いは出来ないですけど、〈ブルーポーション〉は助かります」
いざという時にはブルポがぶ飲みで乗り切る事も出来るかもしれない。
それも魔法職が多いこのパーティーでそれをやったら、それこそさっきのような多数相手の戦闘も範囲魔法を撃ちまくるだけで片が付きそうだ。
「でー、次は装備の分配だなぁ」
ポーションの分配が終わり、次は個別に分けられるものということで装備の仕分けが始まった。
とはいえその効果からして大体は与えられる相手は決まっていた。
まずは炎のハルバードは北条が使い、ゴブリンランスとの二槍流を試してみるらしい。
ハルバードを利き手の右手で持ち、北条の身長よりちょっと長い位のゴブリンランスを左手に持つ北条の姿はどこかゲームのキャラクターを彷彿とさせる。
次に、水属性関連の効果が付く、サファイアサークレットは咲良の手に。
更に唯一の回復役ということで、ここが石化してたらまずい! という事で咲良には石化に耐性の付く……かもしれないペンダントも分配された。
今はまだ咲良は石化回復の魔法が使えないので、一人石化を免れたとしても、意味は余りない。
そもそも、低レベルの魔物に石化させてくる奴がいるとは思えないが、まあ無難な配置といっていいだろう。
スロウ効果をもたらす短杖は陽子の元に。
――「あー、なんか私、完全支援職よね」
敏捷さが増すブーツは長所を更に伸ばすという事で、楓に。
――「あ、ありがとう……ございます」
由里香も"身体能力強化"などのスキルで、素早さが売りではあるのだが、職業的にはやはり盗賊系の職である楓が一番だ。
代わりに由里香には体力が僅かに増すという指輪が与えられた。
――「わーい、これで長期戦でも少しはマシになるね!」
「お前、殴り職なのに指輪なんて付けて大丈夫なのかぁ?」
と北条は心配気ではあったが、実際指輪をはめてダンジョンの壁を殴ってみた所、問題はなさそうとの事だった。
まあ素手で殴るのではなく、ナックル越しだから大丈夫なのかもしれない。
残りのアイテム、謎の種子十粒に関しては、一粒だけとりあえず今住んでる所の傍に植えてみる方向で決まった。
魔石灯は取っ手もあって持ちやすいのだが、懐中電灯と同じで前方しか照らせない為、北条の【ライティング】の魔法やランタンなどでも明りとしては十分だった。
とはいえ、念のため五つあった内のひとつを探索用に確保し、残りは二つずつ男寮と女寮に設置することにした。
懐中時計もパーティー共用のアイテムとして持ち歩き、効果がいまいちわからないスクロールと星玉。それから用途が思い浮かばない金属と、何故入っていたのかが謎である、絵画の四種は分配保留とした。
まあ絵画くらいなら飾ってもいいかもしれない。
それとゴブリンスカウトからはゴブリンダガーのドロップもあり、こちらは芽衣が持つことになった。
最後に筒状の魔法道具――ドライヤーだが、まだ風呂も作っていないというのに女性陣が猛烈に欲しい欲しいと主張したので、北条以外の女性陣が共同出資して買い取るという形になった。
値段の方はまだ不明なので、北条に支払われるのはまだ先となるが、とりあえず先にブツだけは咲良へと渡しておき、これで全てのアイテムの分配が終了した。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました
璃音
ファンタジー
主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。
果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?
これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる