どこかで見たような異世界物語

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第四章

第67話 鉱夫街

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「随分と人通りが多いんですねえ」

 そう口にするメアリーの視線の先には、道の向かい側から街の方へと向かう二台の荷馬車と、それを操る御者が少し大きな声で喋りながら接近してくる様子が映っていた。

 ここは《鉱山都市グリーク》から東へと通じる道。
 この道だけは、《グリーク》から周辺の町村へと通じる道とは違って、きっちりと石畳で舗装されていた。
 そのため馬車も運行しやすくなっており、こうして今も二台の荷馬車とすれ違う所だ。

 この道は《鉱山都市グリーク》から東にある《ドルンカークの森》へと通じており、終点には鉱夫街などと呼ばれている場所がある。
 そこは、鉱夫達の住居と鉱石を精錬する施設、採掘した鉱石置き場などがあり、奥には幾つか坑道の入り口も散在している。

 書類上ではここも《鉱山都市グリーク》の一部という事になっており、ここの鉱山を掘るために発展していったのが《グリーク》という街だ。
 本街・・から歩いて一時間と離れた場所に実際の鉱山があるのには理由がある。

 まず鉱山の傍では大勢の住民の水源を確保するのが困難な事、すぐ傍にある《ドルンカークの森》には魔物が蠢いていること、鉱山内部でもダンジョン程ではないが魔物が湧く事がある事。

 こういった理由で少し離れた場所に街が作られていった訳だが、大量の資源を運びやすいように石畳で道が整備されたり、鉱山傍に鉱夫達の住居を用意したりと、グリークの主力産業の為に多くの労力が割かれている。

 冒険者からの視点としては、直接森へと向かう場合も勿論あるのだが、先に鉱夫街に寄って軽い休憩や準備を整えたり、何かあった時のための集合場所にしたりなど、鉱夫以外に冒険者にとってもこの場所は大きな役割を持っている。
 そして信也達もまずはこの鉱夫街へと向かい、そこから二つのパーティーに分かれて行動すると決めていた。

「鉱山かー。オレのイメージだと、罪人が働かされてるところっつーイメージがつえーな」

 鉱山での労働はきついものである、というのは地球でもこちらでも変わりはないようで、実際に龍之介の言うように犯罪奴隷も多く労役についている。
 ただし、ファンタジーなこの世界では昔の地球に比べれば遥かにマシではあった。

 単純にレベルアップや職業による補正で身体能力が優れている事もあるし、"土魔法"の使い手によって坑道を強化することで、落盤事故などの被害もある程度抑えられたりもしているからだ。
 そして坑道内で沸いてきた水を排出するのにも"水魔法"が役に立ったりと、魔法による補助の力は大きい。


「確かに強制労働ってイメージが強いわね。アンタも鉱山で働いてきたらどう?」

「ふんっ、オレ様にはそんな泥臭い仕事は似合わないぜ。その内この腕一本で成り上がってやるからな!」

「ま、言うだけなら誰でもできるケドねー」

「なにおう!」

 龍之介と咲良がそんな取り留めもない話をしてる間にも歩みは進み、やがて目的地である鉱夫街が見えてきた。
 街といってもあくまで街の一角を切り取った程度の規模で、外壁の変わりに木の柵で周囲を囲われていた。
 そして鉱夫街の西側にある入口脇には、《グリーク》から派遣された衛兵が立ち番をしていて、信也達は挨拶を交わして中へと入っていく。

 中にはいると、周囲からはがなり立てるような鉱夫たちの喧噪が聞こえてくるが、初めて訪れた信也達にもうっすら分かるほどその様子はどこかおかしかった。
 そしてそれは鉱夫街の中心部にある広場へと到着した事で、確信へと変わる。
 広場はそこそこの広さがあるのだが、そこにずらりと鉱夫たちが集まっていたのだ。
 しかも皆つるはしやらシャベルやらを手に持ち、剣呑な雰囲気も漂っている。


「な、なんだ!? ストライキか?」

 信也も思わずその様子に妙な事を口走ってしまう。
 龍之介もこの異様な光景に「おいおい、一体なにがあったんだー?」と困惑の様子を隠し切れない。
 すると、そんな龍之介の声を聞きつけたのか、鉱夫集団の中心部から龍之介の元へと近寄ってくる男の姿があった。

「リューノスケ! お前達も来てたのか!」

 そう声を掛けてきたのはギルド訓練場で一緒に訓練をし、特に龍之介とは妙に打ち解けあっていたムルーダであった。

「なんだ、ムルーダじゃねーか。なんか妙な騒ぎが起こっているようだが、お前らが原因だったのか?」

 龍之介の問いかけに、そんな訳ないと軽く手を振りながらムルーダが答える。

「んな訳ねーだろ。おれ達は適当に常設依頼でもやろうかと、《ドルンカークの森》まで行ってたんだけどよ……」

「はーん、俺達と同じ目的か」

「ん、ああ。そうかお前達もか……。いや、まあそれなら話は早いか。おれ達は特にこれといった目標は決めずに森へと向かったんだが、その先で厄介なモノ・・を見つけちまってな」

 そう言ってしかめっ面を浮かべるムルーダ。

「危険な魔物でも見つけたのか?」

 思わず横から口を挟む信也に対し、イエスともノーとも言えない反応を返すムルーダ。

「危険っちゅう程でもねーとは思うんだけどな。ゴブリン共が比較的森の浅いところで、いつの間にか村を作ってやがってな――」


 なんでも妙にゴブリンとの遭遇が多いなと思いながらも、依頼達成には丁度いいやと余り気にせず森を探索していたらしい。
 そうしたら偶然にもゴブリンの村を発見したらしく、慌てて鉱夫街へと引き換えしてきたという訳だ。

「数は……パッと見た感じだと百から多くて百五十位だったかな。作られたばかりの新しい村みてーで、メイジやプリーストなどの数も少なめ。ノーマルゴブリンが多かった印象だな」

「けっ、ヤツらはほんと隙を見せるといつの間にか増殖してやがるっ!」

 そう吐き捨てたのは近くで話を聞いていた、鉱夫と思われるガタイの良い禿頭の男だ。

「まあ、そういった訳でこれからその村に襲撃をかけるつもりだったんだが……丁度よかった。お前達も手伝ってくれねーか?」

 妙に眼光の鋭いその禿頭の男が信也達へと頼みをもちかけてきた。

「ゴブリンの魔石はお前達冒険者で山分けしてもらって構わない。俺達としては、とにかくあいつらを駆除したいだけなんでな」

 突然の申し出に戸惑う信也達。
 そこでまずは身内で話をさせてくれと男に告げ、軽い会議を始める。
 短い話し合いの結果、元々ゴブリン討伐は目的のひとつでもあったので、受け入れる方向で話はまとまった。

「だが、その前にこちらの戦力を教えてくれぃ」

 しかしそれも味方の戦力にもよる。
 先ほどの様子だと、信也達がこなかったとしても討伐に向かっていたと思われるし、ムルーダもそれほど危険だという認識を持っていなかったので、勝算はあるようには思えるが……。

「そうだな。まずは、俺達鉱夫が七十六名。ゴブリン程度なら俺達も森からふらっと来る奴と時折戦ったりしてるから、一対一じゃまず負けねーぜ。それから、この鉱夫街に詰めている兵士も立ち番の者以外は七名全員参加してもらえる事になっている。あとは、報告してきた坊主の冒険者パーティーが五人。合計で……八十六人か?」

 最後の計算だけちょっと自信がなさそうだったが、確かに人数だけみたら結構な数である。……計算が間違っていたのはわざわざ指摘しなくてもいいだろう。
 だが、それだけでは安心できなかったのか、北条は更に追加の情報を求めた。

「それで、おたくら鉱夫の中の最高レベルと、兵士の最高レベルはどれくらいなんだぁ?」

「む、なんだ、妙に心配性だな。まあ、その方が冒険者は長生きできるってもんか。鉱夫の中では俺が十六レベルで一番ではないが高い方だ。兵士の方は……たしか一人だけ二十を超えていたのがいたはずだ」

 人数だけで言えば、相手のゴブリンは最低でも百体との事だから、信也達が参加したとしても数の上では負けている。
 しかしゴブリン相手なら十分以上にやれるだろう。

 結局鉱夫の頼みを受ける事になった異邦人達は、兵士の人も交えて作戦を立てる為に簡単な打ち合わせを行うのだった。



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