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第二章

第35話 レイドとソウルボード

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 これで何柱目の迷宮碑ガルストーンだったろうか。
 念のため全ての迷宮碑ガルストーンをチェックしていると、空間の最奥にある迷宮碑ガルストーン、時計の針でいうと12時方向にある迷宮碑ガルストーンだけ、他とは違う"特徴"を持っているのが発見された。

「これは……」

 ジョーディも物珍し気にその"特徴"を見つめていた。
 そこには〈ソウルダイス〉を嵌めこむ窪みの隣に、少し間を開けて長方形の窪みがあったのだ。
 まだ全ての迷宮碑ガルストーンを見回ってないが、配置的にはここの一か所だけの可能性はありえる。
 窪みを何気なく眺めていた咲良は、ふと何かに気付いたように、

「あ、もしかしてこれって……?」

 とぽつりとつぶやく。
 その声が聞こえたのかは分からないが、ジョーディがこの窪みについての説明を始めた。

「これは〈ソウルボード〉を嵌めこむ窪みですね。そもそも迷宮碑ガルストーンが配置されていないようなダンジョンもありますが、迷宮碑ガルストーンの配置されたダンジョンの中でもこの〈ソウルボード〉対応の迷宮碑ガルストーンがある所は珍しいです」

「そうるぼーどって~、あの〈ソウルダイス〉を幾つか嵌められる石板のことですか~?」

 のんびりしたイメージのある芽衣だが、一度ジョーディが口にした〈ソウルボード〉の事はちゃんと聞き覚えていたようだ。

「ええ、そうですよ。そういえば、まだ〈ソウルボード〉の説明がまだでしたね。ついでだからここで説明しておきましょう」

「相場がいくらかも頼むぜっ!」

 ちゃっかりと龍之介が便乗して質問を重ねる。
 そんな龍之介に苦笑を浮かべながらもジョーディは〈ソウルボード〉について語りだした。

「じゃあそうですね、まずは相場ですが……これはそんなに高価なものではないです。〈ソウルダイス〉よりは発見率が低いのですが、そもそも〈ソウルボード〉が使用される事が少ないので、供給の方が上回っている感じです。それでも〈ソウルダイス〉よりは高額で、大体二十銀貨程度って所でしょうか」

 一応サイコロ四つ分の価値はあるようだが、期待していた額には程遠かったのか、がっくりと肩を落としている龍之介。
 ジョーディも慣れてきたのか、そんな彼を放っておいて話を先に進める。

「効果としては、〈ソウルボード〉に五つまでの〈ソウルダイス〉を嵌めこむ事によって、最大三十人の大規模パーティーである"レイド"を組む事ができます。基本的な効果はパーティーと同じで、それの大人数版ですね」

「使用率が低いというのは、〈ソウルボード〉が使えるダンジョンが少ないから、という理由と、ダンジョンでの大集団での行動が不便になるからですか?」

 咲良の質問に頷きで返すジョーディ。

「そうですね。それもありますが、大きな理由は他に二つあります。一つは、パーティースキルのレイド版である"レイドスキル"の使用者が非常に少ない点です。せっかくの大集団でも、小集団内でのパーティースキルの運用をばらばらに行うのなら、わざわざレイドを組む必要もありませんからね」

 なるほどー、と頷く咲良。傍では龍之介が「そーいや俺レイド戦ってあんまやったことないんんだよなあ……」と呟いている。
 どうやら日本にいた時に、何らかのネットゲームをプレイしていた経験があるようだ。

 その呟きに反応したのか、由里香がレイド戦について龍之介に尋ねる。
 そして生き生きとした顔でレイド戦についての説明が始まり、すっかりジョーディの話と二分する形になってしまったが、気にせずジョーディは主に咲良や北条に向けて説明を続ける。

「そしてもう一つの理由ですが、経験値効率の低さです。これは感覚的な話ではありますが、昔から多くの冒険者によっての体感データを研究した結果なので、恐らくそう間違ってないと思います。経験値を数字で例えるとして、経験値百の魔物を一人で倒した場合、そのまま百の経験値がもらえます。パーティーで倒した場合、貢献度にもよりますが、六十~八十位はもらえると言われています。それに対し、レイドでは十五~二十五程度と極端に低くなります。更に戦闘にまったく関われなかった場合、十以下になったり全くもらえない事もあるとか」

 ほえーと少し間抜けな表情で話を聞いている咲良と、色々と考え事をしながら静かに聞いている北条。背後からは「つまり、クソでけーボスを集団でボコスカ殴りまくるんだよ!」と、龍之介の熱い説明は続いている。

「まあ、そういった訳で、〈ソウルボード〉は冒険者達の間ではほとんど使用される事はないんです。寧ろ、冒険者より戦争で戦う兵士達の方が使用率は高いかもしれませんね」

 つまりは国という大きな組織の力でレイドスキル持ちを集め、一部の精鋭部隊などに配置させるのだろう。
 実際彼らは知らないが、帝国にはレイドスキル持ちで編成されたレイド部隊というのも存在している。

「ここに〈ソウルボード〉対応の迷宮碑ガルストーンがあるという事は、このダンジョンのどこかの区域では、レイドを組んでいないと攻略が難しい場所があるんでしょうね。そうなると、今より少しは〈ソウルボード〉の相場も上がる……かもしれません」

「え、マジか!?」

 レイド戦について熱く語っていたかと思えば、都合のいいところだけは声を拾っていたようで、真っ先に龍之介が反応を示した。
 そんな彼を仕方ないなあといった面持ちで北条が、

「だがぁ、俺達が持ってるのは一つだけだぁ。このダンジョンで必要になるかもしれんから、売るとしたら余分が出てからだぞぉ」

 と、告げる。

「わーってるわーってる。とりあえず、もう一個は見つけときたいな。あー、でももっかいあのゴブリン部屋やるのは大変そうだなー」

 一度初見で突破できたとはいえ、最終的には慶介のビームでごり押しだった。
 無論もう一度同じようにやれば問題はないだろうが、進んでもう一度やろうという気にはまだあまりならないようだ。
 というか、そもそも宝箱からまた同じものが出るとは限らない。

 龍之介の口から出た"ゴブリン部屋"という言葉に興味を覚えたジョーディが、〈ソウルボード〉の話はもうこれで終わりとばかりにその事について尋ねてくる。
 レイド戦の話の時以上にノリノリになった龍之介は、二割増し位に話を盛ってゴブリン部屋での死闘を説明している。
 そうこうしてる内に、全ての迷宮碑ガルストーンのチェックも終わり、彼らはダンジョンから脱出した。


 外にでると、すでに太陽は亭午をとっくに過ぎており、大分遅めの昼食を取る事になった。
 綺麗な泉の傍で食べる食事はまるでピクニックのようだ。
 ジョーディとの他愛ない会話も、彼らにとっては情報の宝庫で、食事そっちの気で会話が弾んだ。

 その会話の中で、ジョーディが"護身術"のスキルの外に"楽器演奏"のスキルを持っていて、趣味で時折演奏してるらしい、などと意外な一面も知る事が出来た。
 しかし会話に盛り上がってばかりもいられない。
 ダンジョン確認に思いのほか時間がかかってしまったので、このままだと村にたどり着く頃には日も暮れ始める頃になりそうだ。

「そいじゃぁ、そろそろ帰るぞぉ」

 名残惜しいが、これから先まだまだ話す機会はある。
 北条の声を皮切りに、一路《ジャガー村》への帰路を辿るのだった。


▽△▽△▽△▽△



「よーやくここまで戻ってこれたな!」

 龍之介の声が辺りに木霊する。
 すでに日も暮れ始め、村の外で農作業をしてる農民たちも既に帰宅しているか、帰宅準備を始めているといった頃合いだ。
 行きと違い、帰り際には狼――フォレストウルフという魔物らしい――と巨大な芋虫――グリーンキャタピラーというらしい――が立ちはだかった。

 狼の方は以前戦っていたが、巨大な芋虫は見た目的に受け付けなかったのか、女性陣がキャーキャー騒ぐ中、北条と龍之介によって仕留められた。
 強さ自体はジョーディによるとHランク=最弱レベルとの事で、動きがのろく表皮も柔らかい芋虫はさくっと倒す事が出来た。

 細かく解体してる時間はなかったので、狼の方は魔石と牙。芋虫の方は魔石と頭部から生えている二本の触覚を切り離して持ち帰る事にした。
 この辺りはジョーディの助言によるものだ。

「ここまでくればもう大丈夫そうね」

 そうは言いつつも完全に気を抜いた訳ではない咲良。
 目的地が見えた事で、今日一日でたまった疲労も束の間気にならなくなる。
 こうして帰宅する農民らに交じり、ダンジョンの確認が無事終了した一行は、買い物班と合流を果たした。


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