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プロローグ
0. 黒歴史と黒猫の輪舞
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──おーほっほっほ! 跪きなさい!
高らかに笑う女がいます。
私です。
私は悪役令嬢でした。
名をローゼリア・ルイーズ・ラ・ジルベルスタインといいました。
さて、突然ですが『悪役令嬢』は3つに分解できます。
悪と役と令嬢にです。
まず、『悪』は性格が歪んでいるという意味。私の趣味はメイドをイジメること、身分の低い小娘を笑いものにすることでした。特技は人の心を操ることです。
次に、『令嬢』とは王家との血の繋がりさえある由緒正しい公爵家の長女という意味であり、フロリアス王国は500年の伝統のある由緒正しい王朝に支えられています。ちなみに私の容姿は、白銀の瞳と長すぎる灰銀髪がチャームポイントの可憐な乙女。15年間、ティーカップより重いものを持たされたことはありません。
では、『役』とは何でしょう?
『人はこの世界に生まれ落ちたとき、おぎゃぁと誰もが泣き叫ぶ。このアホどもばかりの劇場に生まれ落ちたのが悲しくて……』
この世は劇場。乙女ゲームという名の。
シェイクなんとかさんはそんな事を言いました。かつて恐ろしい不治の病に侵されていた私に、キッカケとしてその言葉は突き刺さってしまったのです。
元の世界では「中二病」というある種有名な思春期病が蔓延していました。中学生の時、テニス部のムカつく先輩に虐げられ妄想の世界に逃げ込んだ拍子に、私はその病と出会ってしまいました。
なんとかスピアさんはすごいですね400年以上の時を越えて犠牲者を生み出せるですから……。
自分が†吸血鬼のプリンセス†だと信じ込んでいた過去は生まれ変わっても忘れることが出来なかったようです。
(きっといつか誰かが私を攫いに来てくれる……)
かつて毎晩、寝る前にベッドで手を組んでお願いしている少女がいました。
遠い過去の記憶。
そして現在。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
私は自室のベッドの上で大声をあげて、頭を掻きむしっていました。自分の黒歴史を思い出してしまったからです。枕をボコボコに殴ります。
「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろぉぉぉ!!」
過去を破壊できたらいいのに……。
「大丈夫ですか!? ローゼリアお嬢様!」
騒ぎを聞きつけた使用人が、扉をガンガン叩いて心配しています。でも、その声を聞いた私の精神はより不安定になりました。
「ああ、メイドのナターシャ……。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「ど、どうされたのです?」
私が7歳のときから身の周りの世話をしてくれている同い年のメイドのナターシャは、栗色の髪の女の子。関係性はもはや姉妹のような間柄です。
「ナターシャ……あなたはなんていい子なの? 健気で真面目で心の清らかな女の子です。なんで私なんかに優しくしてくれるの?」
「……私はお嬢様にお仕えするのが使命ですから。ご体調が悪いなら仰ってください。お身体をお拭きしましょうか?」
「ああ、やめてぇ」
「大丈夫ですか? 扉をあけてください。私なんかでよければお話をお聞きしますから……」
彼女の声には嫌味なんてなくて、心の底から私を心配してくれているのでしょう。
だからこそ、それは「とどめ」だったのです。私の情緒はぶっ壊れてしまいました。
「あああああああああ! 私にやさしくしないでぇぇぇぇ……。許してください許してください許してください許してください許してください許してくださいぃぃぃぃぃ」
突発性謝罪症候群発作が私を襲います。
「ええ……。お、お嬢様……やばぁ。た、大変ですぅ! メイド長! お嬢様がお狂いになられましたぁぁぁぁぁ」
ナターシャは逃げ出すように駆けて行きました。あまりに慌てているのでしょう、扉越しにドテーンっと転ぶ音が聞こえます。
「ああ、私はなんてことを……」
私の消したい黒歴史。
それが、かつての世界でいう可愛らしい「中二病」……ならどれほど良かったでしょう。いずれは少し恥ずかしい笑い話になって消えていったはずです。
でも今の「この世界」には消せない過去と現実が存在しているのです。そして、未来に待っているものとは……?
あれ?
もしかして……。
「やばい! 死刑になる!?」
私は確信を持って叫びました。
「にゃー」
部屋にいた黒猫のシピが同意するように鳴きました。
高らかに笑う女がいます。
私です。
私は悪役令嬢でした。
名をローゼリア・ルイーズ・ラ・ジルベルスタインといいました。
さて、突然ですが『悪役令嬢』は3つに分解できます。
悪と役と令嬢にです。
まず、『悪』は性格が歪んでいるという意味。私の趣味はメイドをイジメること、身分の低い小娘を笑いものにすることでした。特技は人の心を操ることです。
次に、『令嬢』とは王家との血の繋がりさえある由緒正しい公爵家の長女という意味であり、フロリアス王国は500年の伝統のある由緒正しい王朝に支えられています。ちなみに私の容姿は、白銀の瞳と長すぎる灰銀髪がチャームポイントの可憐な乙女。15年間、ティーカップより重いものを持たされたことはありません。
では、『役』とは何でしょう?
『人はこの世界に生まれ落ちたとき、おぎゃぁと誰もが泣き叫ぶ。このアホどもばかりの劇場に生まれ落ちたのが悲しくて……』
この世は劇場。乙女ゲームという名の。
シェイクなんとかさんはそんな事を言いました。かつて恐ろしい不治の病に侵されていた私に、キッカケとしてその言葉は突き刺さってしまったのです。
元の世界では「中二病」というある種有名な思春期病が蔓延していました。中学生の時、テニス部のムカつく先輩に虐げられ妄想の世界に逃げ込んだ拍子に、私はその病と出会ってしまいました。
なんとかスピアさんはすごいですね400年以上の時を越えて犠牲者を生み出せるですから……。
自分が†吸血鬼のプリンセス†だと信じ込んでいた過去は生まれ変わっても忘れることが出来なかったようです。
(きっといつか誰かが私を攫いに来てくれる……)
かつて毎晩、寝る前にベッドで手を組んでお願いしている少女がいました。
遠い過去の記憶。
そして現在。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
私は自室のベッドの上で大声をあげて、頭を掻きむしっていました。自分の黒歴史を思い出してしまったからです。枕をボコボコに殴ります。
「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろぉぉぉ!!」
過去を破壊できたらいいのに……。
「大丈夫ですか!? ローゼリアお嬢様!」
騒ぎを聞きつけた使用人が、扉をガンガン叩いて心配しています。でも、その声を聞いた私の精神はより不安定になりました。
「ああ、メイドのナターシャ……。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「ど、どうされたのです?」
私が7歳のときから身の周りの世話をしてくれている同い年のメイドのナターシャは、栗色の髪の女の子。関係性はもはや姉妹のような間柄です。
「ナターシャ……あなたはなんていい子なの? 健気で真面目で心の清らかな女の子です。なんで私なんかに優しくしてくれるの?」
「……私はお嬢様にお仕えするのが使命ですから。ご体調が悪いなら仰ってください。お身体をお拭きしましょうか?」
「ああ、やめてぇ」
「大丈夫ですか? 扉をあけてください。私なんかでよければお話をお聞きしますから……」
彼女の声には嫌味なんてなくて、心の底から私を心配してくれているのでしょう。
だからこそ、それは「とどめ」だったのです。私の情緒はぶっ壊れてしまいました。
「あああああああああ! 私にやさしくしないでぇぇぇぇ……。許してください許してください許してください許してください許してください許してくださいぃぃぃぃぃ」
突発性謝罪症候群発作が私を襲います。
「ええ……。お、お嬢様……やばぁ。た、大変ですぅ! メイド長! お嬢様がお狂いになられましたぁぁぁぁぁ」
ナターシャは逃げ出すように駆けて行きました。あまりに慌てているのでしょう、扉越しにドテーンっと転ぶ音が聞こえます。
「ああ、私はなんてことを……」
私の消したい黒歴史。
それが、かつての世界でいう可愛らしい「中二病」……ならどれほど良かったでしょう。いずれは少し恥ずかしい笑い話になって消えていったはずです。
でも今の「この世界」には消せない過去と現実が存在しているのです。そして、未来に待っているものとは……?
あれ?
もしかして……。
「やばい! 死刑になる!?」
私は確信を持って叫びました。
「にゃー」
部屋にいた黒猫のシピが同意するように鳴きました。
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