上 下
1 / 18
プロローグ

0. 黒歴史と黒猫の輪舞

しおりを挟む
 ──おーほっほっほ! 跪きなさい!

 高らかに笑う女がいます。

 私です。

 私は悪役令嬢でした。

 名をローゼリア・ルイーズ・ラ・ジルベルスタインといいました。

 さて、突然ですが『悪役令嬢』は3つに分解できます。

 悪と役と令嬢にです。

 まず、『悪』は性格が歪んでいるという意味。私の趣味はメイドをイジメること、身分の低い小娘を笑いものにすることでした。特技は人の心を操ることです。

 次に、『令嬢』とは王家との血の繋がりさえある由緒正しい公爵家の長女という意味であり、フロリアス王国は500年の伝統のある由緒正しい王朝に支えられています。ちなみに私の容姿は、白銀の瞳と長すぎる灰銀髪がチャームポイントの可憐な乙女。15年間、ティーカップより重いものを持たされたことはありません。

 では、『役』とは何でしょう?

『人はこの世界に生まれ落ちたとき、おぎゃぁと誰もが泣き叫ぶ。このアホどもばかりの劇場に生まれ落ちたのが悲しくて……』

 この世は劇場。乙女ゲームという名の。

 シェイクなんとかさんはそんな事を言いました。かつて恐ろしい不治の病に侵されていた私に、キッカケとしてその言葉は突き刺さってしまったのです。

 元の世界では「中二病」というある種有名な思春期病が蔓延していました。中学生の時、テニス部のムカつく先輩に虐げられ妄想の世界に逃げ込んだ拍子に、私はその病と出会ってしまいました。

 なんとかスピアさんはすごいですね400年以上の時を越えて犠牲者を生み出せるですから……。

 自分が†吸血鬼のプリンセス†だと信じ込んでいた過去は生まれ変わっても忘れることが出来なかったようです。

(きっといつか誰かが私をさらいに来てくれる……)
 かつて毎晩、寝る前にベッドで手を組んでお願いしている少女がいました。

 遠い過去の記憶。

 そして現在。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 私は自室のベッドの上で大声をあげて、頭を掻きむしっていました。自分の黒歴史を思い出してしまったからです。枕をボコボコに殴ります。

「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろぉぉぉ!!」

 過去を破壊できたらいいのに……。

「大丈夫ですか!? ローゼリアお嬢様!」

 騒ぎを聞きつけた使用人が、扉をガンガン叩いて心配しています。でも、その声を聞いた私の精神はより不安定になりました。

「ああ、メイドのナターシャ……。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「ど、どうされたのです?」

 私が7歳のときから身の周りの世話をしてくれている同い年のメイドのナターシャは、栗色の髪の女の子。関係性はもはや姉妹のような間柄です。

「ナターシャ……あなたはなんていい子なの? 健気で真面目で心の清らかな女の子です。なんで私なんかに優しくしてくれるの?」

「……私はお嬢様にお仕えするのが使命ですから。ご体調が悪いなら仰ってください。お身体をお拭きしましょうか?」

「ああ、やめてぇ」

「大丈夫ですか? 扉をあけてください。私なんかでよければお話をお聞きしますから……」

 彼女の声には嫌味なんてなくて、心の底から私を心配してくれているのでしょう。

 だからこそ、それは「とどめ」だったのです。私の情緒はぶっ壊れてしまいました。

「あああああああああ! 私にやさしくしないでぇぇぇぇ……。許してください許してください許してください許してください許してください許してくださいぃぃぃぃぃ」

 突発性謝罪症候群発作が私を襲います。

「ええ……。お、お嬢様……やばぁ。た、大変ですぅ! メイド長! お嬢様がお狂いになられましたぁぁぁぁぁ」

 ナターシャは逃げ出すように駆けて行きました。あまりに慌てているのでしょう、扉越しにドテーンっと転ぶ音が聞こえます。

「ああ、私はなんてことを……」

 私の消したい黒歴史。

 それが、かつての世界でいう可愛らしい「中二病」……ならどれほど良かったでしょう。いずれは少し恥ずかしい笑い話になって消えていったはずです。

 でも今の「この世界」には消せない過去と現実が存在しているのです。そして、未来に待っているものとは……?

 あれ?

 もしかして……。

「やばい! 死刑になる!?」

 私は確信を持って叫びました。

「にゃー」

 部屋にいた黒猫のシピが同意するように鳴きました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

【完結済】悪役になりきれなかったので、そろそろ引退したいと思います。

木嶋うめ香
恋愛
私、突然思い出しました。 前世は日本という国に住む高校生だったのです。 現在の私、乙女ゲームの世界に転生し、お先真っ暗な人生しかないなんて。 いっそ、悪役として散ってみましょうか? 悲劇のヒロイン気分な主人公を目指して書いております。 以前他サイトに掲載していたものに加筆しました。 サクッと読んでいただける内容です。 マリア→マリアーナに変更しました。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

記憶が戻った伯爵令嬢はまだ恋を知らない(完結) レジュール・レジェンディア王国譚 承

詩海猫
恋愛
王立魔法学園の入学式を終え、春の花が舞う敷地に一歩入った途端、 「あれ……?」 目にした景色に妙な既視感を感じ目を擦ったところでぱきん、と頭の中で何かが弾け、私はその場に倒れた。 記憶が戻った伯爵令嬢セイラはヒロインのライバル認定を回避すべく、まずは殿下の婚約者候補辞退を申し出るが「なら、既成事実が先か正式な婚約が先か選べ」と迫られ押し倒されてしまうーーから始まる「乙女ゲームへの参加は避けたいけど、せっかく憧れの魔法学園に入学したんだから学園生活だって楽しみたい」悪役令嬢の物語、2022/11/3完結。 *こちらの延長線上の未来世界話にあたる「ヒロインはゲームの開始を回避したい」が一迅社より書籍化済み(続編カクヨムにて連載中)です。キオ恋の方が先に発表されてるので派生作品にはあたりません* ♛本編完結に伴い、表紙をセイラからアリスティアにヒロイン、バトンタッチの図に変更致しました。 アリスティアのキャラ・ラフはムーンライトノベルスの詩海猫活動報告のページで見られますので、良かったら見てみてください。 *アルファポリスオンリーの別作品「心の鍵は開かない」第一章完結/第二章準備中、同シリーズ「心の鍵は壊せない(R18)」完結・こちら同様、よろしくお願いします*

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...