僕は貴方の傍に

十六夜

文字の大きさ
上 下
1 / 1

僕は貴方の傍に

しおりを挟む
「斑、斑は綺麗だね。」
僕の頭上から声がする。声の主は僕の飼い主である「冬子」と言う少女だ。
僕が彼女と出会ったのは雨の降る寒い日だった。
僕は、俗に言う「野良犬」だ。
でも昔は人に飼われていた事もあった。
記憶は朧気であるけれど、とても大きな家で飼われていた。
その家には沢山の人が居た。
でも、その家で僕に触れて優しく接してくれるのはその家の隠居した老夫婦だけだった。
その家には、若い娘夫婦も居たけれど僕には見向きもしなかった。何なら、石を投げつけられる始末だ。
それでも、僕は優しくしてくれる老夫婦だけを信じていたからどんなに辛くても耐えられた。
そんなある日、僕は聞いてしまったんだ。
本当は老夫婦の方が僕の事を嫌いであったという事を。
黒猫は教えてくれた。
「あの老夫婦は、他人に動物を虐めさせて自分達は高みの見物でいるのが好きなんだ」と。
そこで漸く分かったんだ。
僕を本当に嫌っていたのは「老夫婦」であったという事、娘夫婦も頼まれていたからだという事。
遅すぎたのかもしれない、だって僕の身体は傷だらけ。
それなら、逃げよう。
「元々、君には首輪なんて着いていないじゃないか。それならこの家を抜け出すことはいとも容易い事だよ。」
そうして僕は黒猫に連れられるまま、「野良」となった。
そして、色んな街を見た。
色んな動物に会った。
とある日、黒猫とはもうとうの昔に離れ離れになっていた頃だった。
その日は雨が降っていて。
雨に濡れないよう、僕は近くにある神社に駆け込んだ。
その神社出会ったのが今の飼い主であり、名前を付けてくれた「冬子」だった。
冬子達家族はとても優しかった。
最初、僕は以前の事が未だ頭にあった為どの人間も警戒していた。
でも、僕はある事に気づいた。
老夫婦と冬子達の目だ。
あの老夫婦の目の中は暗くどろりとした沼の様だった、けど。
冬子達家族は。
とても優しい色をして太陽の様に暖かったんだ。
...信じても良いのかな、僕はこの家に居ても良いのかな...。
そう思い戸惑いながら冬子に鼻を近づける。
冬子は優しく僕の頭を撫でてくれた。
撫でながら冬子は僕の目線に高さを合わせてこう言った。
「貴方を見てずっと思っていたのだけど、貴方の体の斑模様がとても可愛らしくて。私気に入っているの。だから、安直で申し訳ないのだけれど「斑」と言う名前はどうかしら?...貴方の名前を勝手に決めてしまっては悪いでしょう?」
僕は嬉しかった。
だって、前の家では名前すら無かった僕に名前を付けてくれた。
名前って迚大切な物なんだね。
君に名前を呼ばれると、迚嬉しくて同時にずっと君の傍に居れたら、なんて思うんだ。
だから、何度でも呼んで欲しい...斑。
僕はちゃんと君の呼び掛けに応えるよ...。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

“ペンペン”配信サイト

ロアケーキ
大衆娯楽
ある特殊なサイトで、動画を投稿する親子を描いたお話です。 ……かなり理不尽な内容ですので、閲覧の際はご注意くださいませ。

ピアノ教室~先輩の家のお尻たたき~

鞭尻
大衆娯楽
「お尻をたたかれたい」と想い続けてきた理沙。 ある日、憧れの先輩の家が家でお尻をたたかれていること、さらに先輩の家で開かれているピアノ教室では「お尻たたきのお仕置き」があることを知る。 早速、ピアノ教室に通い始めた理沙は、先輩の母親から念願のお尻たたきを受けたり同じくお尻をたたかれている先輩とお尻たたきの話をしたりと「お尻たたきのある日常」を満喫するようになって……

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

“やさしい”お仕置き

ロアケーキ
大衆娯楽
“やさしさ”とは人それぞれです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

新社会人、痴漢にあう!

まり
大衆娯楽
私が遭遇した痴漢達。 貴方なら、どう触る? 貴女はどう触られた?

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おしっこ編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショートの詰め合わせ♡

スカートの中、…見たいの?

サドラ
大衆娯楽
どうしてこうなったのかは、説明を省かせていただきます。文脈とかも適当です。官能の表現に身を委ねました。 「僕」と「彼女」が二人っきりでいる。僕の指は彼女をなぞり始め…

処理中です...